2013年2月25日月曜日

「からだにつく<もの>:コートディヴォワール・ダン族の力士と仮面」(真島一郎)。

 第70回「ISC・21」3月東京例会の真島一郎(東京外国語大学大学院教授)さんのお話のタイトルが決まりました。慎重な真島さんはまだ仮のタイトルですが,という付帯条件付きで送られてきたタイトルが「からだにつく<もの>:コートディヴォワール・ダン族の力士と仮面」です。わたしは思わず膝を打って,ウーン,と唸ってしまいました。

 じつは,わたしはお節介にも,こんなタイトルではいかがでしょうかという愚案を提示して,それに手を加えて適切なタイトルにしてください,とお願いがしてあったからです。その応答がこのタイトルです。目からうろこが落ちるとはこのことでしょう。わたしが研究室にお伺いして,わたしの方の研究会の蓄積や趣旨をお話して,こんなお話をしていただけると嬉しいという注文をいくつか出させていただきました。それらのすべてをみごとにクリアするタイトル,それがこれでした。

 このタイトルを眺めながら,日本語の表現力はすごいなぁ,と感じ入ってしまいました。それは<もの>ということばです。「からだにつく<もの>」といったときの<もの>です。日本人であれば,これだけで多くの人はピンときます。つまり,「つきもの」ということばが,ついこの間まで,わたしの子どもの時代を過ごした田舎では,ごく日常的に用いられていたからです。あるとき,突然,ある人のからだに「つきもの」がつく。

 わたしの田舎では「きつねがつく」ということばをよく耳にしました。「きつねがつく」とは,要するに「気がふれる」こと。ふつうの人ではなくなること。なにかが乗り移り,もとのその人ではなくなること。そこまではっきりしないときには,なにか<もの>がついたらしい,ときどき変なことを口走ったり,奇行に走る,といいます。これが「つきもの」です。

 漢字で書けば「憑き物」。このときの「物」が,すなわち,<もの>。広辞苑によれば,「人にのりうつったものの霊。もののけ。風姿花伝『仮令(けりょう)憑き物の品々,神・仏・生霊・死霊の咎めなどは』。『憑き物が落ちる』」とあります。それらのすべてを総称して<もの>。

 大国主命は多くの別名をもつが,そのひとつに大物主命というのがあります。大物主の「物」は「魂」を意味するとのこと。「魂」とは「鬼がものを云う」と書きます。鬼とは神のことですから,神がものを云う,それが「魂」です。国魂神,葦原醜男,八千矛神,などの大国主命の別名もまた神がかった「魂」を意味するとのこと。つまり,漢字で書けば「物」,ひらがなで書けば「もの」,というわけです。

 そのような日本の社会にもむかしから馴染んできた「つきもの」=「からだにつく<もの>」。それとまったく同じとはいえないまでも,かなりの部分で重なっているであろう,コートディヴォワール・ダン族の「からだにつく<もの>」,それを「力士と仮面」をとおしてお話してくださる,というようにわたしは受けとめたわけです。ですから,ずっしりと重くわたしのこころの奥底に「するり/すとん」と落ちたのです。

 「霊力でとるすもう・ゴン」,そのゴンをとる力士のからだは,ふつうの人とは違って霊力を受け入れる能力に秀でている,ということなのでしょう。そして,「仮面」についてはもはや説明するまでもなく,ふつうの日常のからだではなくなるための,自己を超えでるための装置。ですから,これもまた「からだにつく<もの>」であるわけです。さらには,秘密結社のシンボルともなる仮面。こうして,結社社会を構成するコートディヴォワールのダン族がトータルに語られるとしたら・・・。いまから,わたしの胸は高鳴ります。

 なぜなら,いまでは遠い過去のこととして忘れられてしまったスポーツの原風景をそこに見届けることができるからです。日本の力士も,いまの力士はともかくとして,雷電為右衛門らが活躍した江戸の勧進相撲の時代には,力士はとくべつの霊力をもつ人として崇められたものです。つまり,世俗の人間と神との中間に位置づく人,神との橋渡しをしてくれる人。力士のことを「醜男」とも呼ぶのも,桁外れに強く頑丈なからだをもつ男という意味であるし,梅ケ谷などという「醜名」も,並の人ではない強い力をもつ人という意味での力士の呼び名のことです。

 日本の力士は,髷を結い,締め込み(まわし,ふんどし)を身に帯びることによって力士に変身します。ましてや,化粧まわしをつけたときには,もう,ふつうの人ではありません。言ってしまえば,もうすでに,神がかっています。これもまた仮面と同じような役割をはたしているように,わたしには思われます。

 さあ,真島一郎さんの「からだにつく<もの>:コートディヴォワール・ダン族の力士と仮面」のお話はどんな展開になるのでしょうか。いまから楽しみです。

 3月9日(土)の午後3時から,青山学院大学を会場にして,第70回「ISC・21」3月東京例会が開催され,そこで真島一郎さんがこのお話をしてくださることになっています。詳しくは,「ISC・21」(21世紀スポーツ文化研究所)のホーム・ページの掲示板をご覧ください。開催要領が公開されています。一般にも公開されていますので,興味のある方はお出かけください。無料です。

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