2012年11月9日金曜日

足を蹴り出すときの軸脚をしっかりさせましょう(李自力老師語録・その22.)

 套路の稽古に入る前に,準備運動に加えて,いつも基本の運動をしっかりやることになっています。その基本の運動の主たる目的は股関節を柔らかくすることにあります。その基本の運動のなかに「片膝を高く引き上げて足先/踵で相手を蹴る」という運動があります。この運動の主眼は,相手を蹴るという意識よりも,軸足と上体とをしっかり引き締めて立つことにある,と李老師はくり返し指摘されます。蹴り足を高くする必要はありません,とも。蹴り足の高さは低くてもかまいません。それより大事なことは,上体が後ろに反ってしまったり,腰が落ちてしまうという欠陥を防ぐことだ,と強調されます。その上で見本を示してくださいます。なるほど,と納得。でも,すぐにできるかと言えばそうはいきません。そして,ここでも,李老師の姿は美しいのです。一部のスキもない,完璧なフォームに圧倒されてしまいます。

 運動そのものはじつに簡単です。両手を腰にあてがって,一歩前に踏み出し,もう一方の脚を膝を折り曲げたまま高く引き上げ,それから膝を伸ばして,爪先/踵で蹴る,これだけの動作です。特別,むつかしい運動ではありません。しかし,李老師の教えのとおりにやろうとすると,なかなか思うようにはいきません。

 まず指摘されるのは,脚を高く蹴り出そうという意識が強すぎて,上体がうしろに反ってしまう欠点です。李老師のお手本は,膝がびっくりするほど高く引き上げられてから,やおら膝を伸ばして爪先/踵が伸びていきます。そして,少なくとも,爪先/踵は水平に伸びていきます。場合によっては,それより高いところに爪先/踵が伸びていきます。そのイメージが強く焼きついてしまっていますので,つい,自分もあのようにと思って無理をしてしまいます。その結果,上体がうしろに反ってしまいます。あるいは,軸脚が曲がって腰が落ちこんだ状態で,蹴る動作に入ってしまいます。ですから,腰が抜けたような蹴りになってしまいます。

 これでは,もし,相手がいて蹴ったとしてもほとんど効果はないでしょう。つまり,爪先/踵に蹴る威力が伝わってはいきません。ということは武術でもなんでもない,蹴りのまねごと,ごっこ遊びでしかありません。

 軸脚の上にまっすぐに上体を固定させるとき,腹筋を締めると同時に股関節まわりの筋肉もギュッと締めつけると,うまくできると李老師は仰います。その上,力強さも表出して,いかにも武術らしくなってきます,と。そのとおりなのでしょう。ことばで説明すれば・・・。そして,李老師はそのとおりにやってみせてくださるわけですから。でも,それを実際にからだで実施するとなると,これはたいへんなことです。

 上体をまっすぐに保ったまま脚を水平に蹴り出すには,相当の腹筋力を必要とします。そして,わたしの感覚では,それだけではなく,股関節まわりの細かな内層筋を締め上げることが重要であるように思います。このあたりの筋肉が使えるようになれば,微動だにしない毅然たる姿勢が保てるのではないか,と思います。これは,わたしの推測です。しかも,相当の上級者のレベルでないと不可能かもしれません。

 太極拳をする身体をわがものとするには,まだまだ,道は遠く険しいようです。でも,そこを通過しないことには,こんな簡単な運動すらできない,という次第です。ましてや,李老師のような「美しさ」が滲み出てくるようになるには・・・と思うと気が遠くなりそうです。でも,目標ははっきりもっていた方がいいと思います。できる,できない,はまた別の問題です。その目標に向って努力することに意義がある,と自分に言い聞かせつつ。

 努力はかならず報われます。わたしのような年齢に達していても,努力すれば,着実にからだが変化していくのがわかります。と同時にこころも安定してきます。さらには,李老師から受ける注意の内容も,いつしかレベル・アップしてきています。それが嬉しくて,嬉しくて・・・・。なぜなら,李老師は滅多に褒めてはくれません。よりレベルの高い,より厳しい注意/指摘が,じつは最高の「ほめ言葉」になっているからです。

0 件のコメント: