久しぶりに本の方から「買ってくれ」と声をかけられました。しばらくなかったことなので,ちょっとばかり驚きました。書店のたくさんの本のなかで『アメリカ様』宮武外骨,という背文字だけがまわりの書名を圧倒して,ひときわ輝いているのです。こういう本にこれまで「はずれ」はありませんでした。ですから,もちろん,即,購入。
なぜ,こういう現象が起きたのかは,すぐにわかりました。帰りの電車のなかでこの本の目次をみていたら,最後の解説のところに,「アメリカ様」と「強い日本」(西谷修・P.211),とありました。そして,「あっ,そうか」と急に記憶が蘇ってきました。そうです。最近,西谷さんが書かれたブログの文章のなかに,「アメリカ様」(宮武外骨),という文言があったことを思い出したのです。このこと自体はすっかり忘れていたのですが,本の背文字をみた瞬間に忘却の暗闇のなかで無意識が反応した,というわけです。
で,早速,西谷さんの解説から読み始めました。この解説がまた,いつもにも増して歯切れがよく,じつに刺激的でした。まるで宮武外骨の向こうを張るかのようなテンポのよさでした。その冒頭の書き出しを引いてみましょう。
どういう巡り合わせか,戦前の満州国の設計者を自認しながらアメリカ(CIA)と取引して戦犯の科(とが)をまぬがれ,やがて首相になって日米安保の体制固めをした岸信介の孫が,再登板でまた首相になり,今度こそ「強い日本を取り戻す」と称して,交戦権回復(集団的自衛権)の画策,治安維持法まがいの特定秘密保護法制定,相変わらずの札冊で沖縄再処分と次々に手を打ち,年の終わりに意気揚々と靖国参拝までやったところ,TPPの国売り出血大サービスですり寄っているにもかかわらず,そのアメリカからとうとうダメ出しが出たという,このあんまりなタイミングで宮武外骨の『アメリカ様』が再刊される。
という具合に一気呵成に安倍政権を厳しく批評しながら,日本と『アメリカ様』との結びつきを明確にしていきます。言ってみれば,安倍政権は「アメリカ様」への献身的なほどの「自発的隷従」の姿勢を示しているにもかかわらず,そのことごとくがダメ出しを受けるという憂き目に会っている,といっても過言ではなさそうです。
なにより目が覚めるのは,集団的自衛権を「交戦権回復」,特定秘密保護法を「治安維持法」,沖縄の基地移転を「沖縄再処分」,TPPを「国売り」という具合に,それぞれの問題の本質を剥き出しにしたことばの批評性です。いまのジャーナリストは宮武外骨のような批評精神を持ち合わせてはいないために,政府の記者会見をそのまま垂れ流すだけです。ですから,集団的自衛権などというわけのわからないことばをそのまま鸚鵡返しのように用いて平然としています。これを,わかりやすく言えば「交戦権回復」ということなのだ,と言い切るだけの批評精神がいまの多くのジャーナリストには欠落しているというわけです。
こういうジャーナリストの現状をみるに見かねて西谷さんは,あえて,権力から嫌われることも承知の上で,「ほんとうのこと」を言わなくてはいけない,とみずからを鼓舞していらっしゃるように見えます。ましてや,宮武外骨の『アメリカ様』の解説を書くにあたっては,さらなる覚悟が必要だったのではないか,とこれはわたしの推測です。
この解説の末尾にも,思わず目を見張らずにはおけない強烈な文章がおかれています。ちょっと長くなりますが引いておきましょう。
要するに,国民全体がアメリカに自発的隷従しているわけではない。そうではなく,「自発的隷従」とは,権力に与(あずか)る者たちが自らの権力を守るために国民を売ってでも強者に媚びる,という事態を言うのだ。「アメリカ様」への好みの「ご進物」を差し出して,自分たちが日本の統治者として居座ることを許してもらう。「お役に立ちますぜ」というわけだ。それを「代官」という。すると,一見,国際社会のパートナーという形をとっても,実質は「属国」あるいは植民地と変わらない。だから日本の首相は,就任するとすぐ,まず「アメリカ様」に認めていただこうとワシントン詣でをし,大統領といっしょに写した写真を自国の新聞に掲載させる。それが日本の首相であることの承認手続きになる。ついでに言えば,安倍首相はそのとき「大統領様」に冷たくあしらわれ,晩餐会を開いてもらえなかった珍しいケースだった。
もうそういう状態が七〇年も続いている。いい加減にわれわれも「アメリカ様」から自立したいものだが,「自立」とは戦後のもたらした資産を一掃して旧体制のゾンビたちが生き返ることではない。そうではなく,彼らを生き延びさせた「自発的隷従」を断ち切って,グローバル世界に対応する新たな地歩を作り出すことだ。その自立の胎動はいま,「ご進物」として久しく差し出され続け,もはやその運命に甘んじまいとする沖縄から最も強く起こっている。
最後の「自立の胎動は・・・・・・・沖縄から最も強く起こっている」という文章が目に焼きついて離れません。
宮武外骨は,その歯に衣着せぬ舌鋒の鋭さゆえに,入獄4回,罰金・発禁29回という輝かしい記録の保持者です。詳しくは本書の後半に収められている「改訂増補 筆禍史」をご覧ください。
なぜ,こういう現象が起きたのかは,すぐにわかりました。帰りの電車のなかでこの本の目次をみていたら,最後の解説のところに,「アメリカ様」と「強い日本」(西谷修・P.211),とありました。そして,「あっ,そうか」と急に記憶が蘇ってきました。そうです。最近,西谷さんが書かれたブログの文章のなかに,「アメリカ様」(宮武外骨),という文言があったことを思い出したのです。このこと自体はすっかり忘れていたのですが,本の背文字をみた瞬間に忘却の暗闇のなかで無意識が反応した,というわけです。
で,早速,西谷さんの解説から読み始めました。この解説がまた,いつもにも増して歯切れがよく,じつに刺激的でした。まるで宮武外骨の向こうを張るかのようなテンポのよさでした。その冒頭の書き出しを引いてみましょう。
どういう巡り合わせか,戦前の満州国の設計者を自認しながらアメリカ(CIA)と取引して戦犯の科(とが)をまぬがれ,やがて首相になって日米安保の体制固めをした岸信介の孫が,再登板でまた首相になり,今度こそ「強い日本を取り戻す」と称して,交戦権回復(集団的自衛権)の画策,治安維持法まがいの特定秘密保護法制定,相変わらずの札冊で沖縄再処分と次々に手を打ち,年の終わりに意気揚々と靖国参拝までやったところ,TPPの国売り出血大サービスですり寄っているにもかかわらず,そのアメリカからとうとうダメ出しが出たという,このあんまりなタイミングで宮武外骨の『アメリカ様』が再刊される。
という具合に一気呵成に安倍政権を厳しく批評しながら,日本と『アメリカ様』との結びつきを明確にしていきます。言ってみれば,安倍政権は「アメリカ様」への献身的なほどの「自発的隷従」の姿勢を示しているにもかかわらず,そのことごとくがダメ出しを受けるという憂き目に会っている,といっても過言ではなさそうです。
なにより目が覚めるのは,集団的自衛権を「交戦権回復」,特定秘密保護法を「治安維持法」,沖縄の基地移転を「沖縄再処分」,TPPを「国売り」という具合に,それぞれの問題の本質を剥き出しにしたことばの批評性です。いまのジャーナリストは宮武外骨のような批評精神を持ち合わせてはいないために,政府の記者会見をそのまま垂れ流すだけです。ですから,集団的自衛権などというわけのわからないことばをそのまま鸚鵡返しのように用いて平然としています。これを,わかりやすく言えば「交戦権回復」ということなのだ,と言い切るだけの批評精神がいまの多くのジャーナリストには欠落しているというわけです。
こういうジャーナリストの現状をみるに見かねて西谷さんは,あえて,権力から嫌われることも承知の上で,「ほんとうのこと」を言わなくてはいけない,とみずからを鼓舞していらっしゃるように見えます。ましてや,宮武外骨の『アメリカ様』の解説を書くにあたっては,さらなる覚悟が必要だったのではないか,とこれはわたしの推測です。
この解説の末尾にも,思わず目を見張らずにはおけない強烈な文章がおかれています。ちょっと長くなりますが引いておきましょう。
要するに,国民全体がアメリカに自発的隷従しているわけではない。そうではなく,「自発的隷従」とは,権力に与(あずか)る者たちが自らの権力を守るために国民を売ってでも強者に媚びる,という事態を言うのだ。「アメリカ様」への好みの「ご進物」を差し出して,自分たちが日本の統治者として居座ることを許してもらう。「お役に立ちますぜ」というわけだ。それを「代官」という。すると,一見,国際社会のパートナーという形をとっても,実質は「属国」あるいは植民地と変わらない。だから日本の首相は,就任するとすぐ,まず「アメリカ様」に認めていただこうとワシントン詣でをし,大統領といっしょに写した写真を自国の新聞に掲載させる。それが日本の首相であることの承認手続きになる。ついでに言えば,安倍首相はそのとき「大統領様」に冷たくあしらわれ,晩餐会を開いてもらえなかった珍しいケースだった。
もうそういう状態が七〇年も続いている。いい加減にわれわれも「アメリカ様」から自立したいものだが,「自立」とは戦後のもたらした資産を一掃して旧体制のゾンビたちが生き返ることではない。そうではなく,彼らを生き延びさせた「自発的隷従」を断ち切って,グローバル世界に対応する新たな地歩を作り出すことだ。その自立の胎動はいま,「ご進物」として久しく差し出され続け,もはやその運命に甘んじまいとする沖縄から最も強く起こっている。
最後の「自立の胎動は・・・・・・・沖縄から最も強く起こっている」という文章が目に焼きついて離れません。
宮武外骨は,その歯に衣着せぬ舌鋒の鋭さゆえに,入獄4回,罰金・発禁29回という輝かしい記録の保持者です。詳しくは本書の後半に収められている「改訂増補 筆禍史」をご覧ください。
0 件のコメント:
コメントを投稿