2014年4月30日水曜日

2014年全日本武術太極拳競技会を観戦。

 全日本武術太極拳競技会を初めて観戦させていただきました。これまでは年に一回開催されます全日本武術太極拳選手権大会を時折,覗き見させていただく程度でした。覗き見とは失礼な,と叱られそうですが,三日間にわたる選手権大会を全部観戦することは,いまのわたしには不可能ですので,とくに注目している選手が登場する日と時間に合わせてでかけ,それが終わると帰ってきてしまうからです。でも,今回の「競技会」は一日だけでしたので,開始から終了まで全部観戦することができました。

 その開催要領は以下のとおりです。

2014年全日本武術太極拳競技会
日時:2014年4月29日(火・祝)10:00~
会場:東京・江戸川区総合文化センター
主催:公益社団法人日本武術太極拳連盟/江戸川区武術太極拳連盟
主管:日本連盟選手強化委員会・審判委員会
後援:文部科学省,公益財団法人日本オリンピック委員会,公益財団法人日本体育協会,江戸川区,アジア武術連盟

 この「競技会」への選手の参加資格は,連盟の強化指定選手で,しかも選手強化委員会が指名した選手ということでしたので,まさにハイレベルの,内容の充実した大会でした。そのせいか,驚くべき発見がいくつもありました。

 その一つは,女子の二人の選手でした。もう,すでに長い間,日本のトップを凌ぎを削りながら競り合ってきた選手です。お互いによきライバルとして切磋琢磨してこられたその成果が,ここにきてもののみごとに花開いた,その演武に感動しました。お二人とも演武に「華」がある。このお二人が演武をはじめると,それまでざわついていた会場が水を打ったように静かになります。姿勢を正しただけで,見ている者のハートをぐいっとつかみ取る,そういう「力」があります。これは世阿弥が『風姿花伝』のなかで力説した「華」に通ずるものだなぁ,と感動しました。元気のいい応援席からの応援コールも黙ってしまいます。これはとても珍しい光景です。つまり,単なるスポーツとしての「競技会」のレベルを突き抜けて,ついに「芸術」の域に達したんだなぁ,とわたしは感動しました。別の言い方をすれば,異次元世界を垣間見せてくれる,そういうアーティスティックな演武だ,とわたしは感じとりました。

 もう一つは,男子選手の世代交代でした。わたしが記憶していた素晴らしい選手たちの名前がありません。しかも,演武する選手たちの動きがピチピチしていて「若さ」が全開でした。ああ,もののみごとに若返っているなぁ,という感動でした。やはり,若い生きのいい選手が登場するのは夢があって愉しいものです。ついこの間までジュニアの選手として活躍していた選手たちが,もう,そのままスライドして全日本のトップに躍り出てきているのですから,頼もしいかぎりです。その中の一人にわたしは注目していました。太極拳では,ちょっとしたミスがあって僅差の三位に甘んじましたが,太極剣ではみごと優勝を飾りました。まだまだ,のび盛りだと思いますので,こんごの成長ぶりを楽しみにしたいと思いました。

 競技人口が比較的少ないと聞いています南拳女子の二人の選手の演武も印象に残りました。すでに国際大会でも活躍してきたベテランの域に達しているK選手と,それを凌駕するまでに成長してきた若手のS選手。いっとき,K選手のスランプの時代がありましたが,またまた全盛時の元気を取り戻してきました。あとは,発する声の迫力が全盛時のものに戻れば,おのずから演武のレベルもあがってくるのでは・・・・と素人ながら楽しみにしているところです。いまは,S選手が頭ひとつ抜け出した印象がありますが,そのS選手を脅かすK選手の存在は貴重です。やはり,よきライバルがいてこそレベル・アップにつながるのですから。K選手にこころからの声援を送りたいと思っています。ひとこと申し添えれば,ネックスプリングの技に磨きをかけると(これは男子も同じ),もう一味違った演武になるのでは・・・・と思い描いています。

 最後に,中国からのお二人の招待選手の演武が,強烈な印象となって残りました。なるほど,中国現役選手のトップの演武とはかくなるものか,とこれは文句なく脱帽でした。寸分の隙もない演武。それどころか「溜め」があって,演武全体に余裕すら感じられました。一つは滞空時間の長い跳躍力,そして,着地の磨き上げられた精確さ,そして攻撃的な技のスピード。静から動へ,そして動から静へ,この切り換えの妙もみごとでした。それから,なによりも太極拳は「武術」であるという強い意識が表出していて,一つひとつの簡単な動作(技)にも,神経のゆきとどいた「武」のこころが浸透していました。これはとてもいい勉強になりました。

 こういう演武をみてしまいますと,やはり「武」のこころとはなにか,という根源的なテーマにわたしの思考は走っていきます。漢字の「武」と「舞」は,そのむかし同根・同義であったと諸橋轍次の『大漢和辞典』に書いてあります。いまでは,この二つの漢字はまったく別の意味になってしまいましたが,その根は一つ。その一つ根のなかに封じ籠められている「武」のこころ,そして「舞」のこころ,つまり,「ぶ」「む」のこころ,これはいったいなにか,とこれはもう長い間考えてきたことです。これは「無」につうじているのではないか,といまのところは考えています。つまりは,「無」のこころ。すなわち「無心」。

 これはたいへんな宿題をもらったことになります。これからも考えつづけながら,稽古に取り組んでいきたいと思っています。

 なお,最後に思いがけないことがありました。それも,これから帰ろうとしたときです。
 李自力老師から携帯に電話が入り,岡山のご婦人がたを引き合わせてくださったことです。李老師の話では,わたしのこのブログ(「李自力老師語録」)を楽しみに読んでいてくださる方がただとのことです。しかも,100人ほどの人が楽しみに読んでいる,とのこと。びっくり仰天です。さらに驚いたことは,李老師が26歳のときからの長いお付き合いだそうです。わたしは思わずかぶっていたベレー帽をとって最敬礼をさせていただきました。恐るべき姉弟子集団の,突然の登場でした。わたしのような,まだ年数の浅い李老師の弟子とは桁が違います。

 これからはこころしてこのブログを書かなくては・・・と身の引き締まる思いでした。
 とてもいい一日でした。
 

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