ちょうど我が家の夕食どきとNHKのクローズアップ現代の時間が重なるので,この番組はよくみています。むかしは,いつも感心してみていたものですが,最近,どうも,ちょっと奇怪しいのではないかと思うことが多くなってきたように思います。その理由は三つあります。一つは,話題への光の当て方,批評性がわたしとは大いに異なるからです。もう一つは,ゲスト・スピーカー(専門家と言われる人たち)の人選が偏っているから(つまり,NHK好みの人ばかり),というのがあります。三つ目は,問題の本質を意識的にか無意識的にか隠してしまう傾向がつよいから。
今日(11日)のテーマは「日本スタイルを世界へ 銭湯や健診を輸出」。かんたんに言ってしまえば,日本の生活文化をアジア諸国に輸出して金儲けをしよう,というお話。取り上げられていたエポックは,銭湯(中国),健診(チベット),食文化(インドネシア)。一見したところ,文化的で平和的で,なんの問題もない,長い将来にわたって採算の合う,とても健全な輸出産業という,ごくふつうの話に聞こえます。しかし,ただ,それだけの話だろうか,とわたしにはザラザラしたなんとも後味の悪い印象が残りました。なぜだろうか,と考えてみました。
日本の銭湯が中国でいま人気だ,とのこと。映像をみるかぎりでは,日本でもひところ流行した「スーパー銭湯」。それよりもワン・ランク・アップした上等の銭湯のようです。値段は,日本円にして約2000円。けして安くはありません。ところが,家族連れで,続々とおお客さんがやってくるという。中国もお金持ちが多くなったので,それもわからないではない。お客さんは,とても衛生的で,お湯も透き通っていて,気分は最高,と絶賛です。まあ,このあたりの映像をみているかぎりでは,別に問題もなさそうなので,いいとするか,と余裕。たかがお風呂の話ではないか,と。
つぎは,健診。日本でいう健康診断用のバスをチベットの奥地にまで送り込んで,健康診断をするという話。日本の徳島県の医療機関がチベットと提携して,この健診バスを送り込み,健診結果を日本の医療機関に送り,日本で診断して,その診断結果をチベットに送る,というシステムです。映像をみるかぎりでは,わざわざ病院にまで行く必要がないので,とても助かる,という声が多い。僻地医療としては,まことに便利で,しかもインターナショナルな医療システムとしても注目に値する,と。まあ,そんなものなんだろうなぁ,とまだ余裕。
三つ目の食文化の話題になったときに,おやおやっ?とわたしのなかに疑問が一気に頭をもたげてきました。インドネシアの食生活は栄養管理が不十分なので,栄養のバランスのとれた日本の食文化を産業として売り込み,成功しているというのです。その手始めとして学校給食の日本システムを持ち込み,十分な栄養管理と食・味覚のインターナショナル化を計る,というのです。つまり,子どもたちの味覚をコントロールしておけば,将来的に日本の食文化や味覚が確実に定着する,というのです。だから,じつに儲かる産業だ,とコメントされます。
このあたりから,わたしの頭のなかに,なんとも空恐ろしい構図が浮かんできて,いらいらとし始めます。なぜなら,わたしたちの世代は敗戦後のアメリカの占領政策のなかで小学校生活を送っています。そのもっとも大きな影響は,学校給食です。それも,いまの学校給食ではありません。アメリカからの支援物資として大量の脱脂粉乳が配給され(戦争産業の一つとして生産されていた脱脂粉乳が終戦とともに大量に余ってしまったので,その処分として持ち込まれたものだ,という話がある),毎日,昼食は脱脂粉乳とパンでした。
その基本的な考え方は,日本の食文化は栄養不足だから,脱脂粉乳を飲んで栄養を確保しよう,というものでした。少なくとも,そのように教えられ,むりやり脱脂粉乳を飲まされました。わたしは,意外にも,脱脂粉乳を抵抗なく飲むことができましたが,なかには,どうしても飲めなくて泣いている子も少なくありませんでした。先生は,絶対に残すな,と厳命です。
いま,考えてみれば,アメリカの食文化の押しつけです。そして,それはもののみごとに成功し,アメリカ産の食品がつぎからつぎへと日本に押し寄せてきます。戦後民主主義教育は,わたしのからだに刻まれた記憶によれば,食文化のアメリカ化からはじまりました。その結果,日本の食文化は大きく変化することになりました。つまり,食文化のインターナショナル化です。いまでは,世界中の食文化が日本を席巻しています。そして,伝統的な日本食の文化は片隅に追いやられてしまっています。
あれほど栄養価が低い,と批判された日本食が,いま,アメリカではもっともバランスのとれた食文化であるとして推奨されているといいます。そんな話を耳にするにつけ,栄養学という学問を,わたしはあまり信じられなくなっています。栄養は科学で計算できる,という神話はわたしの中では崩れつつあります。それと同じことが,いま,インドネシアで日本が行おうとしているのです。
つまり,欧米コンプレックスの裏返しとして,東南アジアを上から目線で支配しようという,戦前の大東亜文化圏の構想と,わたしにはそっくりそのまま二重写しに見えてきます。言ってしまえば,日本の食文化・味覚による植民地化です。
もっと言ってしまえば,銭湯も健診バスも食文化・味覚も,日本発のグローバル・スタンダードの押し売りでしかない,ということです。「科学的」,「医学的」というスローガンにもっとも弱い「健康,栄養」という領域に,脅し文句とともに乗り込む新手の植民地主義をそこに見届けることができます。しかも,これらが「平和的」で長期的展望に立つ「採算のとれる」ビッグ・ビジネスではないか,とこの番組では結論づけていました。
NHKさん,ほんとうに大丈夫ですか。もっと問題の所在を掘り下げて,しっかりとした番組を制作してもらわないと困ります。制作担当者が,なにも知らないで,こういう番組を制作したとしたら,それはそれで問題ですが,知っていてこのように番組を制作したとしたら,もっともっと大問題です。どうも,そんな匂いがしてならないのですが・・・・。
今日(11日)のテーマは「日本スタイルを世界へ 銭湯や健診を輸出」。かんたんに言ってしまえば,日本の生活文化をアジア諸国に輸出して金儲けをしよう,というお話。取り上げられていたエポックは,銭湯(中国),健診(チベット),食文化(インドネシア)。一見したところ,文化的で平和的で,なんの問題もない,長い将来にわたって採算の合う,とても健全な輸出産業という,ごくふつうの話に聞こえます。しかし,ただ,それだけの話だろうか,とわたしにはザラザラしたなんとも後味の悪い印象が残りました。なぜだろうか,と考えてみました。
日本の銭湯が中国でいま人気だ,とのこと。映像をみるかぎりでは,日本でもひところ流行した「スーパー銭湯」。それよりもワン・ランク・アップした上等の銭湯のようです。値段は,日本円にして約2000円。けして安くはありません。ところが,家族連れで,続々とおお客さんがやってくるという。中国もお金持ちが多くなったので,それもわからないではない。お客さんは,とても衛生的で,お湯も透き通っていて,気分は最高,と絶賛です。まあ,このあたりの映像をみているかぎりでは,別に問題もなさそうなので,いいとするか,と余裕。たかがお風呂の話ではないか,と。
つぎは,健診。日本でいう健康診断用のバスをチベットの奥地にまで送り込んで,健康診断をするという話。日本の徳島県の医療機関がチベットと提携して,この健診バスを送り込み,健診結果を日本の医療機関に送り,日本で診断して,その診断結果をチベットに送る,というシステムです。映像をみるかぎりでは,わざわざ病院にまで行く必要がないので,とても助かる,という声が多い。僻地医療としては,まことに便利で,しかもインターナショナルな医療システムとしても注目に値する,と。まあ,そんなものなんだろうなぁ,とまだ余裕。
三つ目の食文化の話題になったときに,おやおやっ?とわたしのなかに疑問が一気に頭をもたげてきました。インドネシアの食生活は栄養管理が不十分なので,栄養のバランスのとれた日本の食文化を産業として売り込み,成功しているというのです。その手始めとして学校給食の日本システムを持ち込み,十分な栄養管理と食・味覚のインターナショナル化を計る,というのです。つまり,子どもたちの味覚をコントロールしておけば,将来的に日本の食文化や味覚が確実に定着する,というのです。だから,じつに儲かる産業だ,とコメントされます。
このあたりから,わたしの頭のなかに,なんとも空恐ろしい構図が浮かんできて,いらいらとし始めます。なぜなら,わたしたちの世代は敗戦後のアメリカの占領政策のなかで小学校生活を送っています。そのもっとも大きな影響は,学校給食です。それも,いまの学校給食ではありません。アメリカからの支援物資として大量の脱脂粉乳が配給され(戦争産業の一つとして生産されていた脱脂粉乳が終戦とともに大量に余ってしまったので,その処分として持ち込まれたものだ,という話がある),毎日,昼食は脱脂粉乳とパンでした。
その基本的な考え方は,日本の食文化は栄養不足だから,脱脂粉乳を飲んで栄養を確保しよう,というものでした。少なくとも,そのように教えられ,むりやり脱脂粉乳を飲まされました。わたしは,意外にも,脱脂粉乳を抵抗なく飲むことができましたが,なかには,どうしても飲めなくて泣いている子も少なくありませんでした。先生は,絶対に残すな,と厳命です。
いま,考えてみれば,アメリカの食文化の押しつけです。そして,それはもののみごとに成功し,アメリカ産の食品がつぎからつぎへと日本に押し寄せてきます。戦後民主主義教育は,わたしのからだに刻まれた記憶によれば,食文化のアメリカ化からはじまりました。その結果,日本の食文化は大きく変化することになりました。つまり,食文化のインターナショナル化です。いまでは,世界中の食文化が日本を席巻しています。そして,伝統的な日本食の文化は片隅に追いやられてしまっています。
あれほど栄養価が低い,と批判された日本食が,いま,アメリカではもっともバランスのとれた食文化であるとして推奨されているといいます。そんな話を耳にするにつけ,栄養学という学問を,わたしはあまり信じられなくなっています。栄養は科学で計算できる,という神話はわたしの中では崩れつつあります。それと同じことが,いま,インドネシアで日本が行おうとしているのです。
つまり,欧米コンプレックスの裏返しとして,東南アジアを上から目線で支配しようという,戦前の大東亜文化圏の構想と,わたしにはそっくりそのまま二重写しに見えてきます。言ってしまえば,日本の食文化・味覚による植民地化です。
もっと言ってしまえば,銭湯も健診バスも食文化・味覚も,日本発のグローバル・スタンダードの押し売りでしかない,ということです。「科学的」,「医学的」というスローガンにもっとも弱い「健康,栄養」という領域に,脅し文句とともに乗り込む新手の植民地主義をそこに見届けることができます。しかも,これらが「平和的」で長期的展望に立つ「採算のとれる」ビッグ・ビジネスではないか,とこの番組では結論づけていました。
NHKさん,ほんとうに大丈夫ですか。もっと問題の所在を掘り下げて,しっかりとした番組を制作してもらわないと困ります。制作担当者が,なにも知らないで,こういう番組を制作したとしたら,それはそれで問題ですが,知っていてこのように番組を制作したとしたら,もっともっと大問題です。どうも,そんな匂いがしてならないのですが・・・・。
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