ヒデミネさん(高橋秀実さんの愛称)の書かれる本はどれも,そよそよと心地よい風が吹いています。少なくとも,わたしにはそう感じられます。ヒデミネさんは,どの本もそうですが,いつも素朴な疑問からはじまり,その謎解きのために全身全霊をこめて取材に当たり,それを小学生のような純な感性で表現します。ですから,ヒデミネさんの文章はすんなりとからだにしみ込んできます。読み始めたらもう止まりません。最後まで一直線です。
ヒデミネさんとの最初の出会いは,『素晴らしきラジオ体操』でした。以後,『はい,泳げません』,『おすもうさん』とつづきます。この二冊の面白いところは,ヒデミネさんがみずから「水泳教室」に通って直接指導を受けながら,日々,変化する自分と向き合い,そこで感じたこと,発見したことをそのままリアルタイムで書き記すこと,あるいは,直接,相撲部屋に入門して,新弟子さんたちと一緒に稽古に励み,寝食をともにして,その実体験を,同時進行で文章にしていることです。
ですから,そこには「ウソ」がありません。したがって,読後感がとても爽やかです。ヒデミネさんのお人柄が作品の全編ににじみ出ていて,それらが「心地よい風」となってわたしに伝わってくるのだろうと思います。
さて,つい最近(3月1日刊)出たばかりのこの本は,退屈まぎれに散策にでたとき立ち寄った書店で,いきなりわたしの目に飛び込んできたものです。もちろん,即刻,購入して家路を急ぎ,すぐに読み始めました。いつも思うことですが,ヒデミネさんの本はタイトルがとても魅力的です。『弱くても勝てます』──開成高校野球部のセオリー。
高校野球のチームに限らず,スポーツは,弱かったら勝てるわけがありません。にもかかわらず,ヒデミネさんはそれを逆手にとって「弱くても勝てます」と断言し,それが開成高校野球部のセオリーだ,とサブタイトルを付しています。この書名をみただけで,もうこの本の中味の8割は理解というか,想像ができてしまいます。しかし,そうは問屋が卸しません。読み始めてみますと,意外や意外,奇想天外な野球の秘策(セオリー)が,惜しげもなく展開されていきます。
まずは,こんな野球のセオリーを考えついた人は,長い野球の歴史のなかで,まだひとりもいないのではないか思います。それほどに奇想天外なのです。
たとえば,こうです。ピッチャーはストライクを投げなさい。フォアボールは相手に対して失礼です。打たれてもいい,ストライクを投げなさい。野手はエラーをしても構いません。ただし,飛んできたボールに真っ正面から向かっていきなさい。受け身になってはいけません。バッターはバットを思いっきり振り抜きなさい。三振しても構いません。強くボールを叩くことを心がけなさい。サインは一切ありません。すべて,自分で判断しなさい。といった調子です。これらはいずれも監督さんが考えに考えた末に到達した結論だといいます。もちろん,開成高校の野球部にだけ通用するセオリーだといいます。
それには理由があります。開成高校の野球部員は,そのほとんどがそれまで野球を経験していません。いわゆる素人集団です。ですから,キャッチボールもまともにはできません。投げそこなったり,受けそこなったり,は当たり前。しかも,グラウンドを全面使って練習できるのは週に一日だけ。となると,基本から練習して・・・などと言っている時間はありません。そこで,練習はもっぱら「打撃」に集中します。つまり,点をとる野球です。しかし,それも週に一日だけ。あとは,「素振り」の練習。こちらは,グラウンドの片隅でもできますし,家でもできます。毎日,毎日,「素振り」だけは欠かさないで,黙々と練習をすることができます。
しかも,部員たちのほとんどが東大進学をめざしています。自分で目標を立てて,それを実行する,つまり,みずからを律することに関しては,他の追随を許さないほどの高い能力をもっています。部員によっては,バッティング・センターに通って,自分なりのメニューをこなしている,ともいいます。つまり,野球部としての全体練習は週に一日だけ。あとは,土日をつかっての練習試合。この練習試合をとおして,かれらは「実験と検証」を重ね,みずからの力量を高めていく,というのです。
この練習試合でも,最初のシートノックをみて,相手チームの失笑をかうほどの下手さを,惜しげもなく見せつけるのだ,と監督さんはいいます。なぜなら,相手チームを油断させ,その油断をついて集中打を浴びせ,コールドゲームで勝つ,これが開成高校野球部の唯一の「勝ちパターン」だというわけです。
実際にも,東東京大会予選で,ベスト16に入ったときのチームはこのパターンで勝ち進んだ,といいます。そして,ひょっとしたら甲子園も夢ではない,と確信しているともいいます。ヒデミネさんも,この本を書き終えたいま,こんなチームが甲子園にでてくると面白いし,大いに期待している,とも書いています。
野球の原点は「打つ」こと。打ち合って,その得点を競うゲーム,それが野球の原点です。詳しいことは省略しますが,その野球の原点回帰を目指すのが開成高校野球部のセオリーだ,というわけです。
ここには書き切れなかった面白い「秘策」が満載です。野球とはいったいなんなのか,わたしたちが馴染んでいる野球の常識をくつがえす,不思議な世界がそこには広がっています。つまり,勝敗を度外視した野球の醍醐味を開成高校野球部の部員たちは,こころの底から満喫しているように,わたしは受け止めました。
まずは「目からうろこ」の連続です。ぜひ,ご一読をお薦めします。
ヒデミネさんとの最初の出会いは,『素晴らしきラジオ体操』でした。以後,『はい,泳げません』,『おすもうさん』とつづきます。この二冊の面白いところは,ヒデミネさんがみずから「水泳教室」に通って直接指導を受けながら,日々,変化する自分と向き合い,そこで感じたこと,発見したことをそのままリアルタイムで書き記すこと,あるいは,直接,相撲部屋に入門して,新弟子さんたちと一緒に稽古に励み,寝食をともにして,その実体験を,同時進行で文章にしていることです。
ですから,そこには「ウソ」がありません。したがって,読後感がとても爽やかです。ヒデミネさんのお人柄が作品の全編ににじみ出ていて,それらが「心地よい風」となってわたしに伝わってくるのだろうと思います。
さて,つい最近(3月1日刊)出たばかりのこの本は,退屈まぎれに散策にでたとき立ち寄った書店で,いきなりわたしの目に飛び込んできたものです。もちろん,即刻,購入して家路を急ぎ,すぐに読み始めました。いつも思うことですが,ヒデミネさんの本はタイトルがとても魅力的です。『弱くても勝てます』──開成高校野球部のセオリー。
高校野球のチームに限らず,スポーツは,弱かったら勝てるわけがありません。にもかかわらず,ヒデミネさんはそれを逆手にとって「弱くても勝てます」と断言し,それが開成高校野球部のセオリーだ,とサブタイトルを付しています。この書名をみただけで,もうこの本の中味の8割は理解というか,想像ができてしまいます。しかし,そうは問屋が卸しません。読み始めてみますと,意外や意外,奇想天外な野球の秘策(セオリー)が,惜しげもなく展開されていきます。
まずは,こんな野球のセオリーを考えついた人は,長い野球の歴史のなかで,まだひとりもいないのではないか思います。それほどに奇想天外なのです。
たとえば,こうです。ピッチャーはストライクを投げなさい。フォアボールは相手に対して失礼です。打たれてもいい,ストライクを投げなさい。野手はエラーをしても構いません。ただし,飛んできたボールに真っ正面から向かっていきなさい。受け身になってはいけません。バッターはバットを思いっきり振り抜きなさい。三振しても構いません。強くボールを叩くことを心がけなさい。サインは一切ありません。すべて,自分で判断しなさい。といった調子です。これらはいずれも監督さんが考えに考えた末に到達した結論だといいます。もちろん,開成高校の野球部にだけ通用するセオリーだといいます。
それには理由があります。開成高校の野球部員は,そのほとんどがそれまで野球を経験していません。いわゆる素人集団です。ですから,キャッチボールもまともにはできません。投げそこなったり,受けそこなったり,は当たり前。しかも,グラウンドを全面使って練習できるのは週に一日だけ。となると,基本から練習して・・・などと言っている時間はありません。そこで,練習はもっぱら「打撃」に集中します。つまり,点をとる野球です。しかし,それも週に一日だけ。あとは,「素振り」の練習。こちらは,グラウンドの片隅でもできますし,家でもできます。毎日,毎日,「素振り」だけは欠かさないで,黙々と練習をすることができます。
しかも,部員たちのほとんどが東大進学をめざしています。自分で目標を立てて,それを実行する,つまり,みずからを律することに関しては,他の追随を許さないほどの高い能力をもっています。部員によっては,バッティング・センターに通って,自分なりのメニューをこなしている,ともいいます。つまり,野球部としての全体練習は週に一日だけ。あとは,土日をつかっての練習試合。この練習試合をとおして,かれらは「実験と検証」を重ね,みずからの力量を高めていく,というのです。
この練習試合でも,最初のシートノックをみて,相手チームの失笑をかうほどの下手さを,惜しげもなく見せつけるのだ,と監督さんはいいます。なぜなら,相手チームを油断させ,その油断をついて集中打を浴びせ,コールドゲームで勝つ,これが開成高校野球部の唯一の「勝ちパターン」だというわけです。
実際にも,東東京大会予選で,ベスト16に入ったときのチームはこのパターンで勝ち進んだ,といいます。そして,ひょっとしたら甲子園も夢ではない,と確信しているともいいます。ヒデミネさんも,この本を書き終えたいま,こんなチームが甲子園にでてくると面白いし,大いに期待している,とも書いています。
野球の原点は「打つ」こと。打ち合って,その得点を競うゲーム,それが野球の原点です。詳しいことは省略しますが,その野球の原点回帰を目指すのが開成高校野球部のセオリーだ,というわけです。
ここには書き切れなかった面白い「秘策」が満載です。野球とはいったいなんなのか,わたしたちが馴染んでいる野球の常識をくつがえす,不思議な世界がそこには広がっています。つまり,勝敗を度外視した野球の醍醐味を開成高校野球部の部員たちは,こころの底から満喫しているように,わたしは受け止めました。
まずは「目からうろこ」の連続です。ぜひ,ご一読をお薦めします。
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