2014年11月24日月曜日

白鵬,大鵬の大記録と並ぶ32回目の優勝。でも,朝青龍の人気にはほど遠い。なぜか。

 白鵬が,日本の父と呼び,敬愛してきた大鵬の優勝記録に並ぶ32回目の優勝を飾った。さすがの白鵬も人の子。君が代斉唱の途中から唇をふるわせて涙した。感慨無量だったのだろう。それにしても,今場所の相撲は,また一皮剥けたかのように,もう一つ高い次元に到達した,みごとな相撲内容だった。まずは,おめでとう,とエールを送りたい。

 しかし,朝青龍の相撲のような,鳥肌の立つような感動がない。あるいは,館内を熱狂の渦に巻き込む,圧倒的な迫力が感じられない。なぜか。それは白鵬という力士に漂う偉大さと俗物性のインバランスにあるように思う。確かに白鵬は強い。優勝回数からしても桁違いに強い。その意味では,じつに偉大だ。なのに,どこか魅力に欠ける。それは,土俵上で垣間見られる,大横綱らしからぬ挙動にあるように思う。

 つまり,勝てばいい,優勝すればいい,ということだけではないということだ。たとえば,相手を投げ飛ばしたあとの「ドヤ顔」。この顔で場内のお客さんを睥睨する。なんとも後味が悪い。あるいは,寄り切って勝負のついた相手の胸を一突きして土俵下まで落としてしまう悪いクセ。仕切り直しの間も,必要以上に相手を睨みつけるクセ。最後の仕切りが終わって塩をとりにもどるときの,なんとも下品な駆け込み方,四股の踏み方もいま一つ(貴乃花のような四股の美しさに欠ける),そして,なにより懸賞金を受けとったあとの所作の下品さ,これは目にあまる。

 大横綱としての名声を博した大鵬も,千代の富士も,貴乃花も,土俵上のマナーが美しかった。勝っても負けても,滅多に表情を変えることはなかった。淡々と仕切り,勝負が終わったあとも,淡々として引き上げて行った。少なくとも平常心を貫くことを心がけていた。そこに,それぞれの力士の美学を垣間見ることもできた。だから,土俵上の一挙手一投足を食い入るように見つめることになる。

 しかし,白鵬には,それがない。

 それに引き換え,朝青龍は,とても分かりやすかった。たとえば,裏表のない,子どものような純真さが丸見えだった。自分のなかの喜怒哀楽の感情をそのまま表出させた。演出も手抜きもなにもなし。まさにあるがまま。だから,なにもかもが丸見えだった。たとえば,仕切り直しですら絵になった。仕切り直しのたびに気合が入ってきて,気魄が漲ってくる。顔色も次第に紅潮してくる。そして,最後の塩で鬼の形相になる。この一連の流れを見るだけでお客さんは喜んだ。だから,最後の塩のときには大きな拍手が沸き起こった。

 つまり,朝青龍には,お客さんの目を釘付けにし,一心同体にさせる,不思議な力があった。だから,勝ったときのお客さんの拍手もものすごいものがあった。まさに,熱狂。また,負けるとお客さんの大きな落胆の声があがり,そのあとに拍手がきた。つまり,勝っても負けても,銭のとれる力士だった。これがプロの力士であり,横綱の面目躍如ということだ。

 しかし,朝青龍は「悪役」扱いされ,とうとう相撲界から追放されてしまった。これは大きな間違いだった。集客力ががたっと減ってしまい,「満員御礼」になかなか到達しない。いまごろになって日本相撲協会の幹部たちは「しまった」と思っているに違いない。これほど銭の取れる力士はそうはでてこない。それに引き換え,白鵬は「善玉」扱いをされ,漁夫の利を拾った。メディアも優等生扱いをした。しかし,白鵬には暗い陰の部分がある,ということが最近になって漏れ伝わってきている。たとえば,所属する部屋の親方とは口も聞かない犬猿の仲だという。いまでは,元平幕だった親方に「上から目線」で接し,相手にしていない,という。だから,協会内の評判はけしてよくはない,という。

 こういう二面性が,おのずから土俵上の挙動にも表出してしまうようだ。偉大なる横綱と下卑た横綱の両方の顔が・・・・。今日の優勝インタヴューもその典型だった。「この国の魂と相撲の神様がわたしを認めてくれたお蔭で今日がある」と,泣かせるではないか。しかも,最後には天皇への感謝のことばまで述べた。だれが智恵をつけたかは知らないが,明らかに,これは考え抜いた演出である。そういうことばを吐きながらも,インタヴューアーのアナウンサーをみる目は,まぎれもない「上から目線」だった。その態度の大きさには,どこか後味の悪さが残った。

 優勝回数32回という,大鵬とならぶ立派な成績を残した大横綱白鵬に,どうしても素直に喜べないわたしの思いを書いてみた。しかし,これはあくまでもわたし個人の見解である。白鵬ファンには申し訳ないが・・・・。

 ついでに,千秋楽の大一番について書いておこう。照ノ富士と逸ノ城の一番。力の入った攻防がみごとだった。この二人の取り組みは,毎場所,がっぷり四つの力相撲になるだろう。そして,この二人が,互いに切磋琢磨して地力をつけていけば,間違いなくつぎの角界を担っていくことになる,とわたしはみた。来場所からのこの二人の活躍が楽しみだ。

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