2012年7月23日月曜日

おめでとう!白馬富士,全勝優勝!さあ,つぎの目標・横綱だ!

 理想的な白鵬との全勝対決を制しての優勝,おめでとう!強い,強い日馬富士がもどってきた。しかも,傷だらけのからだのままで。右手の回復もまだ充分ではない。左足首も完治してはいない。この状態で,強い日馬富士が蘇ってきた。


 心技体とはよく言ったものだ。今場所の日馬富士の最大の武器は心が強かったことだ。相撲に一点の迷いもなかった。立ち合いに集中して,激しい攻撃を仕掛けた。左からの張手を多用し,かつ右からのおっつけ,のどわ,と相手を脅かしておいて左上手を引く。そこからのスピードに乗った攻め。こうした心と技が,まだ完治していない体を補完して余りあるものがあった。どのスポーツにも共通するのだが,心の充実なしにはもてる力は出せない。このことを身をもって示してくれた。その意味でも,今場所の日馬富士の全勝優勝は注目すべき教訓を残すことになった。15日間,強い気持ちをもち続け,一番,一番の相撲に集中する力。これがどれほど大変かということを,わたしは学んだ。強い心をもち続けること。だから,日馬富士の全勝優勝を喜ぶ以上に,心の範を垂れてくれたことに感謝したい。


 さあ,つぎの課題は来場所までに体を完治させること。右手と左足首が癒えてしまえば,あとはなんの不安もない。ますます多彩な攻撃が自由自在となる。しかも,スピードがある。投げがある。相手の態勢を崩しておいてからの寄りがある。そうなったら,もはや敵なしである。


 今場所の全勝対決は,その意味でとても大事な一番だった。その結果は,日馬富士の一方的な相撲に終わったが・・・・。白鵬は最初から最後まで受け身にまわり,防戦一方だった。そして,なすすべもなく敗れた。白鵬にとってはショックが大きかったと思う。その反面,日馬富士にとっては大きな自信になったと思う。つまり,立場が逆転してしまったということだ。これからは白鵬が日馬富士を倒すための戦略を練る番だ。


 千秋楽の結びの一番,全勝対決は,立ち合いにすべてがある,と予想していた。そして,わたしの予想は,日馬富士が左から張ってでて,つぎの瞬間に右のどわを入れて,左上手をとる,というものだった。しかし,その予想は反対になった。右からののどわ(つっぱりにもみえた)がさきで,つぎの瞬間に左からの張手,そして左上手を引くという手順になった。白鵬としては予想していたはず。いずれにしても,白鵬には立ち合いの攻撃がない。一歩踏み込んで,自分充分の態勢をつくる。これだけだ。しかし,日馬富士にはこの立ち合いは通用しない。だから,毎場所,日馬富士には後手にまわることになる。それでも白鵬には,左上手で半身となってからの日馬富士の攻撃に耐えられるという自信もある。いつかの場所では,そのどうにもならない態勢からすそはらいという奇襲攻撃で日馬富士を裏返しにしてしまったこともある。だから,今場所も白鵬にはどことなく余裕すら感じられた。いつもの態勢になったから。

 がしかし,今場所の日馬富士は違った。なにがなんでも勝ってみせる,という強い心が漲っていた。日馬富士が何回も左からの上手投げをくり出すものの白鵬は余裕をもってそれを防いでいた。そして,さて,どの手で攻めようかと白鵬の気の緩んだ瞬間を日馬富士は見逃さなかった。左上手をぐいっと引きつけたとき,白鵬の右腰が伸びきってしまった。そこを逃さず右はずで寄りたてた。すでに,白鵬には残る腰はなく,あっさり土俵を割ってしまった。一見したところ,あっけない勝負にみえたかもしれないが,理づめのみごとな内容のある相撲だった。

 白鵬にとっては,23回目の優勝と,歴代最多となる全勝優勝(9回目)という記録への挑戦があった。それがあえなくついえ去ってしまった。しかし,こんなことは大したことではない。来場所,頑張って達成すればいい。まだ,27歳と若い。いくらでもチャンスはある。しかし,ショックだったのは,日馬富士の想定外の「成長」ぶりだっただろう。こんな相撲を取られたら,もはや,白鵬に勝つチャンスはない。そのことをだれよりも深く理解したのは白鵬自身に違いない。

 だから,白鵬は,土俵を引き上げる通路の途中で立ち止まり,上体を深く前に曲げて頭を下げ,両手を膝にあてた姿勢でしばらく動かなかった。これがなにを意味していたか,わたしには痛いほどわかる。これまで苦労して積み上げてきた白鵬の相撲のすべてが音を立てて崩れ落ちた瞬間だったのだ。でも,さすがに白鵬。控えにもどってからのインタビューでは「なにかが足りない。原点に戻って,基本からしっかり思い出したい」と応答している。つまり,一からやり直さないかぎり,これからの日馬富士には勝てない,と自覚したのである。

 この一年の両者の取組みをみると,3勝3敗の五分なのである。日馬富士が怪我で不調がつづいていた間でも五分。白鵬が唯一,苦手としている相手がじつは日馬富士だったのである。これから,充実期に入る日馬富士に勝つためには「原点に戻る」しかないのである。ここで白鵬がさらに精進して(じつは,今場所は稽古不足。前半戦のあの不調をみれば明らか),心技体のバランスをとりもどして,土俵にもどってきてほしい。

 そのとき,さらに次元を異にする二人だけの相撲の世界が開かれてくる。他の力士との差を見せつけるような土俵が展開することを,わたしは密かに期待している。

 日馬富士は,すでに気合充分だ。優勝決定後の土俵下でのインタビューで,「横綱への抱負は?」と聞かれて,「なりたいからなれる地位ではない。運命によってなるべくしてなるもの」と答え,「全身全霊で頑張ります。よろしくお願いします」と声高らかに宣言した。この心意気に館内も湧いた。そして,控えにもどってからのインタビューでは「神様が与えてくれたチャンス。気持ちは次の場所に入っている。しっかり心と体を鍛えたい」と応答している。

 まだ,入幕したばかりのころの,日馬富士のしこ名をもらう前の,安馬のころからのファンとしては,いまの日馬富士を眼の前にして,涙なしにはいられない。じつは,昨夜から「嬉し涙」に暮れている。幸せである。

 日馬富士公平。本名ダワーニャム・ビャンバドルジ。モンゴル・ゴビアルタイ出身。伊勢ヶ浜部屋。28歳。二人の子の親。

 頑張れ,ビャンバドルジ。もうひとりの尊敬する「ドルジ」の分まで。力士の元祖は金剛力士だ。あの恐ろしい形相を内に秘めた,新しい「ドルジ」の誕生に向けて,「全身全霊」で頑張ってほしい。神様に与えられた絶好のチャンスだ。そのためには,自己を超えでていくことだ。その勇気をわがものとせよ。

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