2012年7月19日木曜日

「ひまわりの花も花,芍薬の花も花,たんぽぽの花も花」「自分の花を咲かせなさい」・李自力老師語録・その15.

 李老師のお話はだんだんと佳境に入ってきました。
 その14.の話のつづきのような話ですが,とても大事な内容ですので,書き留めておきたいと思います。

 最初に李老師の口からでてきたことばは,「大きな円も円,小さな円も円」,どちらも「円」であることに変わりはない,というものでした。

 わたしは禅寺育ちの人間ですから,おおきな円を筆で書いた掛け軸にこどものころから馴染んでいました。禅仏教では悟りの境地を「〇」で表現します。「〇」はどこにも角がない。転がせばどこまでも転がっていきます。なんの抵抗もしません。なされるがままに身を委ねています。自由自在にどこにでも転がっていきます。他者の働きかけしだいでどこにでも転がっていきます。つまり,自己を完全に脱却した状態,すなわち「無私」,あるいは「無」の状態です。

 ですから,なるほど,そのとおり,と応対していたのですが,さらに加えてつぎのようなお話をしてくださいました。

 「ひまわりの花も花,芍薬の花も花,たんぽぽの花も花」というお話です。どの花も花として完璧です。どれがよくてどれが悪いということはありません。花としてみんな完成されています。花同士の序列もありません。ただ,大きいか小さいか,そして,それぞれの花の個性が違うだけ,花としてはみんな同じです。だから,自分の花を自分らしく咲かせなさい,と李老師。

 そうか,師匠はとうとう,こういうことをわたしたちに要求されるようになったか,と兄弟弟子のNさんとにっこり笑顔で顔を見合わせました。まことに嬉しいかぎりです。

 さて,こうなるとわたしはどういう花になるのだろうか,と考えてしまいます。肩に力が入ったままの花は,たぶん,どこかゆがんでいて花としては不完全のままのはず。とにもかくにも,花として,とりあえずは十分に咲ききることが先決です。だとしたら,上手も下手もありません。とりあえずは自分の花を咲かせることだ,と気づきます。

 そこで思い起こす李老師のことばがあります。足など高く挙げる必要はありません。それよりも大事なことは「安定」。そして「ゆったり」と表演すること。余分なことは考えない。自分のからだの心地よさと向き合うこと。そこに集中すること,などなど。

 と考えてくると「自分の花を咲かせなさい」ということばも奥が深いことがわかってきます。そんなにかんたんに「自分の花」は見つかりません。自己にこだわり,自己を見つめつつ,自己を超えでて,自己を忘却していくこと・・・・まるで「十牛図」の段階を踏んでいくことと瓜ふたつです。つまりは禅の世界です。もっとも,禅のルーツをたどっていきますと,そのひとつは『老子道徳経』にいたりつきます。つまり,道家思想です。この老子の世界が太極拳の思想的なバックグラウンドのひとつになっているのですから,当然といえば当然の話です。

 老子のいう「無為自然」も「行雲流水」も,みんな太極拳の極意中の極意と言われています。もちろん,李老師も,よくこの話をされます。いずれ,このブログでも取り上げて書いてみたいと思っています。今日のところはとりあえずパス。

 最初は小さくてもいい。まずは自分の花を咲かせなさい。その花の咲かせ方を極めていけば,たとえ小さな花であっても,いつか存在感のある,大きな花に見えるようになります。ひとつの花として立派に咲ききれば,その花は無条件に美しいし,人びとのこころを惹きつけるに十分な力を身にまといます。

 この地平こそ,哲学用語でいえば「脱自」「脱存」と訳されるジョルジュ・バタイユの「エクスターズ」(extase)の世界ではないか,とわたしは考えています。ハイデガーはドイツ語でEkstase(「エクスターゼ」)という造語で表記しました。人間存在の原点をどこに求めるかは,個人差があってその主張はさまざまですが,おおよそのところは「脱自」(自己の軛を脱すると解釈すれば,禅の「無私」や「無」と通底していきます)のあたりに集約されるのではないか,とこれまたわたしの解釈です。

 こんな風に考えていきますと,太極拳もじつはたいへんな思想・哲学の実践であることがわかってきます。いい師匠にめぐまれ,いい兄弟弟子にめぐまれ,いい兄妹弟子にもめぐまれ,わたしは幸せでいっぱいです。少しだけ追加しておけば,兄弟弟子のNさんはジョルジュ・バタイユの研究者としても著名な方です。同時に,わたしの思想・哲学の師匠でもあります。兄妹弟子のKさんは能面を打つ天才です。とんでもない人たちに凡人のわたしがひとり囲まれているというのが真相です。これまたありがたいことです。

 そして,この李自力老師語録を書くたびに,書いているわたしのこころが洗われて(現れて),とてもすっきりした気分になります。これもまたありがたいことだと感謝しています。

今日のところはここまで。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

この老師語録の中で好きな語録です!李老師の皆さんへの気持ちがよく表現されている言葉だとおもいました。大挙拳を学ぶ中で美しく私の中に響いた語録をありがとうございました、私も咲かせたいとおもいました!

匿名 さんのコメント...

この老師語録の中で好きな語録です!李老師の皆さんへの気持ちがよく表現されている言葉だとおもいました。大挙拳を学ぶ中で美しく私の中に響いた語録をありがとうございました、私も咲かせたいとおもいました!