日馬富士の全身に気魄が漲り,立つ気満々で左手を下ろそうとして待っているのに,白鵬の手が下りない。戦略として,意図的に下ろさないのではない。気魄に圧倒されて,下ろせないのだ。この時点ですでに勝負はついていた。日馬富士は二度,立とうとした。が,白鵬は立てない。じれた日馬富士が右手で「待った」の合図をした。審判長から注意があったのか,日馬富士はそちらに向かって軽く会釈をした。だとしたら,それは間違いだ。審判長が注意すべきは白鵬の方だ。そして,白鵬が謝るべき場面だ。でも,このあたりは微妙だった。なぜなら,このときの審判長は伊勢ヶ浜親方だ。すなわち,日馬富士の親方だ。だから,分かっていたが,日馬富士の方に注意をした。これがまた,白鵬にはプレッシャーになったかもしれない。
こんなこともあってか,二度目の立ち合いはお互いに呼吸を合わせてきれいに立った。日馬富士は鋭く立って,すぐに左に変わり得意の左上手をとりにでる。白鵬は前に泳いだが踏みとどまる。が,日馬富士に左から出し投げを打たれて体勢を崩す。向き直ったところに日馬富士が頭から真っ正面の白鵬の胸に向かって突っ込んでいく。白鵬は腰砕けの状態で仰向けに倒れた。決まり手は「押し倒し」。白鵬はなすすべもなく負けた。日馬富士の一方的な相撲だった。
全勝できていた白鵬を一敗で追っていた日馬富士がみずからの力で待ったをかけた。これで一敗で横に並んだ。これで日馬富士にはますます気魄が漲ってくるだろうし,白鵬も負けじとばかりに頑張るだろう,とおもわれた。しかし,白鵬は14日目の照の富士戦で全力を使い果たして負けてしまった。右膝の悪い照の富士がよく頑張ったというべきだろう。照の富士は,もう,こうなったら気力だけで相撲をとっている。部屋の横綱・日馬富士が右肘の怪我で二場所休場しての再起の場所だ。休場している間,横綱がどれほど苦しみ,努力をつづけてきたか,照の富士はそばでみていたはずだ。
しかも,稽古をしなければ強くはならないと照の富士に活を入れたのも日馬富士だ。そこで目覚めた照の富士は,猛然と稽古をはじめた。そして,あっという間に逸の城を追い越し,主役の座を奪い,大関にまで昇進した。さあ,これからだ,というときに右膝を痛めてしまった。今場所は手負いの場所だった。勝ち星もあがってはいない。しかし,白鵬にだけはどうしても勝ちたかった。そして,兄弟子の日馬富士の援護をしたかった。その気持ちが土俵に現れていた。そして,長い相撲を我慢し,疲労困憊の末に勝ち星をもぎとった。この勝ち星は大きい。こんごを占う上でも大きい。貴重な一勝を手にした。
これで,14日目にして日馬富士が一敗で単独トップに立った。そして,千秋楽。日馬富士はこのところ圧倒的に有利な相撲を展開している稀勢の里が相手。勝てば,優勝決定。白鵬は鶴竜が相手。こちらも白鵬が得意としている。だから,日馬富士としては,みずからの勝利で優勝を手に入れること,そこに専念したはずだ。
ところが「好事魔多し」という。なぜか,日馬富士の仕切り直しに迫力がない。勝てるという気持ちがどこかにあったか。淡々と仕切っている。それに引き換え,稀勢の里の目に力が漲っている。いつもよりも大きく目を見開き,相手をしっかりと見据えている。おやっ?と悪い予感が走る。案の定,日馬富士の立ち合いにいつもの鋭さがない。先手をとるための攻撃もない。だから,あっという間に稀勢の里の得意の左が入ってしまう。右肘の悪い日馬富士にとっては最悪の組み手。これでは勝負にならない。あっさり土俵を割ってしまった。
これで,白鵬の逆転優勝の目がでてきた。いつものように鶴竜を裁いて,優勝決定戦に持ち込みたいところ。しかし,ここにも落とし穴が待っていた。鶴竜のいつもとは違う気魄に対して白鵬はいつもどおりの仕切り。この一番もまた,おやっ?という予感。いったい,どうしたのだろう,とテレビを見入る。ほとんど表情を変えない鶴竜だが,全身から発するオーラはいつもとは違う。案の定,こちらも鶴竜の一方的な相撲になってしまった。白鵬は,立ち合いから先手をとられ防戦一方,なすすべもなく負けてしまった。鶴竜の完勝である。これで,日馬富士の優勝が決まった。
なんとも後味の悪い結末だった。もう少し,千秋楽らしい,すっきりとした面白いドラマが期待されていただけに残念だった。
しかし,場所が終わってみると,今場所は13日目の日馬富士と白鵬の一番が強烈な印象となってのこっている。まさに,相撲の醍醐味が凝縮していたといっていいだろう。それも仕切り直しの間の両者の所作にすべてが表れていた。つまり,両者の気魄が仕切り直しのたびに,その差を広げていった。白鵬は仕切り直しのたびにそれを感じとっていたはずだ。だから,最後の仕切りでは「立てなかった」。
これまでもそうだったが,日馬富士が絶好調のときには白鵬は一度も勝ったことがない。全部,日馬富士の相撲に翻弄され,必死で抵抗するのが精一杯だった。
が,今場所の白鵬は,12日目に栃煌山を相手に「猫騙し」という奇襲戦法を用いた。その上,あっさり土俵を割った栃煌山の左胸を平手でポンと叩いた。あとで「愛の鞭」だと言ったそうだが,あれは余分だった。そういう所作が土俵上ででてしまうというところに,白鵬の勝負師としてのこころの隙を垣間見てしまった。この,わたしの見方は間違っているのだろうか。結果論とはいえ,それから三連敗。大横綱にしては解せない連敗記録だ。
気力・体力ともに,いよいよ峠を越えたか,というのがわたしの正直な感想だ。来場所は,日馬富士の右肘はもっとよくなってくるだろう。照の富士の右膝もかなり回復してくるだろう。鶴竜も自信をつけ気持ちを引き締めてかかってくるだろう。となると,終盤の三日間に,この三人を倒すのは容易なことではない。もちろん,白鵬とて,こんなことでおめおめと引き下がるわけにはいかないだろう。もう一度,ギアを入れ直して,初場所に備えるに違いない。
となると,初場所は,最後の三日間の星のつぶし合いで大いに盛り上がるのではないか。そこで,自分の相撲をとりきることができるのはだれなのか。心技体のバランスをうまく調整して,絶好調で初場所に臨むのはだれか。こうなってくると,初場所は,歴史に残る名勝負を期待できそうだ。勝っても負けても,感動を生みだす相撲を期待したい。大いに楽しみだ。
来年は,日馬富士と照の富士が大活躍し,伊勢ヶ浜部屋時代の幕開けになるか,そんな期待も高まってきている。
こんなこともあってか,二度目の立ち合いはお互いに呼吸を合わせてきれいに立った。日馬富士は鋭く立って,すぐに左に変わり得意の左上手をとりにでる。白鵬は前に泳いだが踏みとどまる。が,日馬富士に左から出し投げを打たれて体勢を崩す。向き直ったところに日馬富士が頭から真っ正面の白鵬の胸に向かって突っ込んでいく。白鵬は腰砕けの状態で仰向けに倒れた。決まり手は「押し倒し」。白鵬はなすすべもなく負けた。日馬富士の一方的な相撲だった。
全勝できていた白鵬を一敗で追っていた日馬富士がみずからの力で待ったをかけた。これで一敗で横に並んだ。これで日馬富士にはますます気魄が漲ってくるだろうし,白鵬も負けじとばかりに頑張るだろう,とおもわれた。しかし,白鵬は14日目の照の富士戦で全力を使い果たして負けてしまった。右膝の悪い照の富士がよく頑張ったというべきだろう。照の富士は,もう,こうなったら気力だけで相撲をとっている。部屋の横綱・日馬富士が右肘の怪我で二場所休場しての再起の場所だ。休場している間,横綱がどれほど苦しみ,努力をつづけてきたか,照の富士はそばでみていたはずだ。
しかも,稽古をしなければ強くはならないと照の富士に活を入れたのも日馬富士だ。そこで目覚めた照の富士は,猛然と稽古をはじめた。そして,あっという間に逸の城を追い越し,主役の座を奪い,大関にまで昇進した。さあ,これからだ,というときに右膝を痛めてしまった。今場所は手負いの場所だった。勝ち星もあがってはいない。しかし,白鵬にだけはどうしても勝ちたかった。そして,兄弟子の日馬富士の援護をしたかった。その気持ちが土俵に現れていた。そして,長い相撲を我慢し,疲労困憊の末に勝ち星をもぎとった。この勝ち星は大きい。こんごを占う上でも大きい。貴重な一勝を手にした。
これで,14日目にして日馬富士が一敗で単独トップに立った。そして,千秋楽。日馬富士はこのところ圧倒的に有利な相撲を展開している稀勢の里が相手。勝てば,優勝決定。白鵬は鶴竜が相手。こちらも白鵬が得意としている。だから,日馬富士としては,みずからの勝利で優勝を手に入れること,そこに専念したはずだ。
ところが「好事魔多し」という。なぜか,日馬富士の仕切り直しに迫力がない。勝てるという気持ちがどこかにあったか。淡々と仕切っている。それに引き換え,稀勢の里の目に力が漲っている。いつもよりも大きく目を見開き,相手をしっかりと見据えている。おやっ?と悪い予感が走る。案の定,日馬富士の立ち合いにいつもの鋭さがない。先手をとるための攻撃もない。だから,あっという間に稀勢の里の得意の左が入ってしまう。右肘の悪い日馬富士にとっては最悪の組み手。これでは勝負にならない。あっさり土俵を割ってしまった。
これで,白鵬の逆転優勝の目がでてきた。いつものように鶴竜を裁いて,優勝決定戦に持ち込みたいところ。しかし,ここにも落とし穴が待っていた。鶴竜のいつもとは違う気魄に対して白鵬はいつもどおりの仕切り。この一番もまた,おやっ?という予感。いったい,どうしたのだろう,とテレビを見入る。ほとんど表情を変えない鶴竜だが,全身から発するオーラはいつもとは違う。案の定,こちらも鶴竜の一方的な相撲になってしまった。白鵬は,立ち合いから先手をとられ防戦一方,なすすべもなく負けてしまった。鶴竜の完勝である。これで,日馬富士の優勝が決まった。
なんとも後味の悪い結末だった。もう少し,千秋楽らしい,すっきりとした面白いドラマが期待されていただけに残念だった。
しかし,場所が終わってみると,今場所は13日目の日馬富士と白鵬の一番が強烈な印象となってのこっている。まさに,相撲の醍醐味が凝縮していたといっていいだろう。それも仕切り直しの間の両者の所作にすべてが表れていた。つまり,両者の気魄が仕切り直しのたびに,その差を広げていった。白鵬は仕切り直しのたびにそれを感じとっていたはずだ。だから,最後の仕切りでは「立てなかった」。
これまでもそうだったが,日馬富士が絶好調のときには白鵬は一度も勝ったことがない。全部,日馬富士の相撲に翻弄され,必死で抵抗するのが精一杯だった。
が,今場所の白鵬は,12日目に栃煌山を相手に「猫騙し」という奇襲戦法を用いた。その上,あっさり土俵を割った栃煌山の左胸を平手でポンと叩いた。あとで「愛の鞭」だと言ったそうだが,あれは余分だった。そういう所作が土俵上ででてしまうというところに,白鵬の勝負師としてのこころの隙を垣間見てしまった。この,わたしの見方は間違っているのだろうか。結果論とはいえ,それから三連敗。大横綱にしては解せない連敗記録だ。
気力・体力ともに,いよいよ峠を越えたか,というのがわたしの正直な感想だ。来場所は,日馬富士の右肘はもっとよくなってくるだろう。照の富士の右膝もかなり回復してくるだろう。鶴竜も自信をつけ気持ちを引き締めてかかってくるだろう。となると,終盤の三日間に,この三人を倒すのは容易なことではない。もちろん,白鵬とて,こんなことでおめおめと引き下がるわけにはいかないだろう。もう一度,ギアを入れ直して,初場所に備えるに違いない。
となると,初場所は,最後の三日間の星のつぶし合いで大いに盛り上がるのではないか。そこで,自分の相撲をとりきることができるのはだれなのか。心技体のバランスをうまく調整して,絶好調で初場所に臨むのはだれか。こうなってくると,初場所は,歴史に残る名勝負を期待できそうだ。勝っても負けても,感動を生みだす相撲を期待したい。大いに楽しみだ。
来年は,日馬富士と照の富士が大活躍し,伊勢ヶ浜部屋時代の幕開けになるか,そんな期待も高まってきている。
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