2012年1月22日日曜日

把瑠都の初優勝,おめでとう!先輩大関の意地。日本人大関誕生の皮肉な効果。

琴奨菊につづいて稀勢の里が大関となり,日本人大関の活躍を期待した人は多いだろう。しかし,意外や意外,二人の日本人大関の誕生によって,眠っていた外国出身大関が発奮した。そして,大活躍。その結果,陰が薄くなってしまったのが横綱白鵬だ。

大関が活躍する場所は面白い。

横綱白鵬を倒す力士の登場は,当分の間,ないだろうと思われていた。それほどに,白鵬の強さが際立っていた。他の力士がつけ入るスキはない,とまで思われていた。しかし,そうではなかった。じつは,白鵬がダントツに強かったのではなかったのだ。他の力士が不甲斐なかっただけの話。つまり,白鵬を除く他の力士が弱すぎただけの話。そのことが,この場所で証明された。

それにしても,相撲というものは面白い。心技体というが,そのトップにあるのが「心」だ。この「心」の持ち方ひとつで相撲内容は大きく変化する。そのことを今場所はじつによくみせてくれた。心技体のうち,技と体にめぐまれた若手力士がつぎつぎに育っているのに,肝心要の「心」が足りないために足踏みする有望力士が多い。

今場所,際立って奮起したのは,外国出身の大関陣。琴奨菊や稀勢の里に追い越されてなるものかとばかりに,闘志に火がついた。とりわけ,一度も優勝経験のなかった把瑠都の意識が大きく変化した。その結果,相撲内容まで大きく変化した。前半のバタバタ相撲が,少しずつ落ち着いてきて,後半には力強い相撲が何番もあった。とりわけ,琴欧州を圧倒した力相撲は,把瑠都の将来を照らしだす素晴らしい相撲内容だった。あの型ができあがると,把瑠都は間違いなく横綱になれる。その意味では,いま,最短距離にいる。

相撲というものは面白いものだ。把瑠都ほどの馬力があっても,気持に迷いがあったり,闘志が足りなかったりすると,いとも簡単に攻め込まれてしまう。先場所までの把瑠都はそうだった。今場所は,迷わず前にでることに専念した。そして,粗削りながら,がむしゃらさもでてきた。これでいいのだ。相手につけ入るスキを与えない,そういう攻撃力が,相手得意の型に持ち込ませない破壊力となる。その印象が力士たちの間に広まっていくからこその,あの稀勢の里をはたき込む変化ワザが生きるのだ。だれでもできるワザではない,ということを銘記すべし。

今場所の初優勝で,把瑠都は大きな自信をもつことができただろう。立ち合いの破壊力をもっともっと磨いて,相手がいやがるような型を身につけ,その上でがっぷり胸を合わせるところに持ち込めば,あとは把瑠都の思いのままだ。諸手突きで突き放し,相手の上体をおこした上で,相手が突っ込んでくるところを軽くいなして,横から上手をつかみ,一気に振り回すような型をもつこと。そう,あの琴欧州戦のときのような。

休場つづきだった琴欧州も,今場所で,なにかをつかんだはず。日馬富士も,スランプから眼を覚ましたかのような活躍をした。白鵬を倒す最短距離にいるのは日馬富士だと,わたしはずっと以前からみている。真っ向勝負で突き立てておいて,一瞬の間合いで,白鵬を横向きにさせるスピードとセンスは天性のものだ。今場所も,過去の真っ向から突き立てる立ち合いが白鵬の頭にあったからこその,変化ワザがみごとにはまったのだ。白鵬を上回る敏捷性を武器に,日馬富士も相撲の型を身につけること。

こうして,外国出身大関たちが大きく立ちはだかってくると,日本人大関も黙ってはいられまい。もっともっと稽古をして,先輩大関を超えでていける力をつけること。そうして,壮烈な大関同士の闘いがはじまると,大相撲はまことに面白くなる。そこに,つぎの大関候補が割って入ってくる。そういう期待のできる力士はごろごろしている。いつ,目覚めるか。つまり,しっかりと自覚した「心」をわがものとするか。そのとき,相撲が「化ける」。

その意味で,今場所の把瑠都の初優勝のもたらす効果は大きい。把瑠都を先頭にして,打倒白鵬の意気込みを大関陣がもつこと。そして,それにつづく有望力士がつぎつぎに名乗りをあげること。そうなると,大相撲全体が白熱してくる。そうなったときに,白鵬のほんとうの強さが証明されることになろう。これまでの白鵬の強さは,他の力士が弱すぎただけのことだ(と,わたしは考えている)。大関が元気になれば,白鵬ももっともっと気合が入ってこよう。

このとき,上質の相撲がみられるようになる。それこそが,わたしの期待する芸能としての大相撲なのだ。その世界は,たぶん,歌舞伎のような「美」意識を挑発するような,アーティスティックな濃密な時空間を醸しだすことになろう。そこまでくると,もはや,だれが勝っても負けても,みんな大満足するような一大スペクタクルの完成である。

大相撲のめざす世界はそれではないか。

把瑠都の初優勝を見届けたところでの,わたしの感想である。
まずは,初優勝,おめでとう。そして,来場所はもっと強くなった姿をみせて欲しい。
ヒーロー・インタヴューでの,あの涙は美しかった。わたしも,もらい泣きしてしまった。こういう涙はいいものだ。把瑠都よ,来場所の嬉し涙をこころから期待しているから。

1 件のコメント:

大仏 さんのコメント...

『把瑠都ほどの馬力があっても,気持に迷いがあったり,闘志が足りなかったりすると,いとも簡単に攻め込まれてしまう。』
、とおっしゃるとおりの相撲が千秋楽での白鵬戦でしたね。あの一戦は白鵬の方が勝っていました。
 気持ちを緩めなかった白鵬に拍手!!です。