2012年2月13日月曜日

文芸・評論誌『Kototoi』第一号を読む。

11日(土)の名古屋の研究会の席で,Mさんからこの文芸・評論誌『Kototoi』の紹介がありました。どこかでこの誌名を眼にしたな,とピンときたのですが,そのさきが思い出せません。手にとって見せてもらい,拾い読みしてみたら,とても面白い。あとで購入しようと思っていたら,Mさんが帰り際にこっそりとプレゼントしてくれました。

今日(13日),ほかの仕事を脇において,この本を読みはじめました。最初から最後まで,読みはじめたら止まらない。一気呵成に読んでしまいました。その途中で,あっ,この本のことは『東京新聞』のコラムかなにかに書いてあった,と思い出しました。

Mさんの話では,この本との出会いはとても偶然とは思えません,とのこと。玄侑宗久さんが書いているというので買ってみましたが,この本全体のコンセプトがいまのわたしにとっては絶妙なタイミングでの出会いでした,これは必然以外のなにものでもありません,と。そう聞いていましたので,わたしも楽しみにしていました。

読んでみて,なるほど,Mさんの仰るとおりの本でした。その感想はわたしにもそのまま当てはまるものでした。いよいよ,こういう本がでるようになったか,と感慨無量です。しかも,菊谷文庫と銘打つように菊谷さんご夫妻が,手作り(和綴じ)で,丹念に作り上げたものだ,ということがインターネットで調べてみましたら,わかりました。こういう上質の文庫は,それ相応の思い入れのある編集者が,小さなグループで,採算を度外視して取り組まなくてはできないものです。大手の出版社はいくら逆立ちしてもできないものです。これからの出版のあり方に大きな波紋を呼ぶことになりそうです。また,ぜひ,そうあって欲しいと思いました。

この菊谷文庫の『Kototoi』は,ひとことで言ってしまえば,「3・11」以後を生きるわたしたちにとって「生きる」とはどういうことかと問いかけ,「3・11」以前とはまったく異なる「生」のあり方を模索しよう,そのためには「詩」の復権が必要だ,と声を大にして叫んでいる,そういう本です(わたしの印象では)。そうして,当然のことではありますが,もちろん「脱原発」を標榜する新しい感性の持ち主を,あらゆるジャンルで仕事をしている人たちの中から見出そう,そういう情熱が強く伝わってくる本です。

書き手は,玄侑宗久さんのような作家・僧侶をはじめ,吉本隆明(詩人・評論家)さんのような著名な方たちを含む詩人や音楽家や画家や,そして,新進気鋭の学者さんが並んでいます。わたしには詩を論評する力がありませんので,そこの部分だけがまことに残念ですが,あとは,いずれの論考もとても魅力的でした。

わたしが考えているような「3・11以後のスポーツを考える」という論考なども,しっかり書けば掲載してくれそうだな,と思いました。編集長の菊谷さんが意図している編集方針とどこも齟齬がありません。それどころか,スポーツの分野からの投稿はかえって歓迎してくれるのではないか,とさえ思いました。たとえば,「近代スポーツ競技の促進と原発推進のロジックは瓜二つ」というようなタイトルで(すでに,このブログの中で書いていますが)書けば,いけるのではないかとそんな気にさせてくれる本です。いつか時間がとれたところで,気合を入れて,もう少し論理的に(あるいは詩的に)書いてみようかな,と思っています。

たくさんの論考のなかでも,わたしの考えていることと,とことん共鳴した論考がありましたので,紹介しておきたいと思います。
それは,中野佳裕さんの「リスク社会から脱成長社会へ」です。まだ若い新進気鋭の学者さんです。なにが嬉しかったかといえば,論考の冒頭から,西谷修さんの『世界』(2011年5月)に書いた「近代産業文明の最前線に立つ」が援用され,そのあとにも,西谷さんの論考に共鳴・共振している記述があちこちで顔をみせることです。たとえば,「核と未来」と題した東京外国語大学の講演会(2011年7月23日)での発言を引用し,「未来の可能性が放射能汚染によって制約されているという点で,3・11後の日本はそれ以前とは全く異なる社会である」と西谷修は述べている・・・・という具合です。

ついでに我田引水を承知で書いておきますと,中野さんの「脱成長社会」の主張は,わたしがもう何年も前に「下降志向のスポーツ」の模索をと提言したときのものと,基本的にはまったく同じベクトルのものだ,ということです。こうなりますと,もはや,偶然の出会いではなく,間違いなく必然ではないか,と思いたくなってきます。

もうひとつだけ。高坂勝さんの「うつらうつらテツガクする──第一回 昼寝革命」などは傑作と呼びたいほどのエッセイになっています。第一回,とあることは連載ということのようですので,これからどのような論考が展開するのか,とても楽しみです。このエッセイの柱もまた「ダウンシフター」という概念を提示し,その生き方の実践例が紹介されています。つまり,あくせく働かないで,必要最小限の労働をして,あとは,できるだけなにもしないで昼寝をしていましょう,というまことに説得力のあるテツガクを展開してくれています。まさに,「3・11」以後の日本人としての生き方のひとつのサンプルのようなお話です。

というような調子で書いていくと際限がなくなりそうですので,このあたりで,このブログはおしまい。詳しい情報は「Kototoi」で検索してみてください。ホーム・ページにすべて必要な情報はアップされています。お薦めの一冊です。

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