2012年11月2日金曜日

『戦後史の正体 1945-2012』,孫崎享著,創元社,2012年8月刊。10月7刷。必読のこと。

 昨日(1日)のブログのつづき(4冊の本を衝動買いして・・・・)。その2.

 この本に手が伸びたのは,孫崎享(まごさき・うける)という著者の名前でした。そうです。『世界』(岩波書店)の11月号に「尖閣問題 日本の誤解」を書いた人です。この説得力のある論考が強烈に印象に残っていましたので,迷わず手が伸びていきました。そして,2~3ページ読んだところで,あっ,これは買わなくてはと即断しました。

 それでもなお,あちこちページをめくっては拾い読みをしていました。が,読めば読むほど面白い。しかも,驚くべき発見があちこちに見受けられます。元外務省情報局長,防衛大学校教授などを歴任,『日米同盟の正体──迷走する安全保障』『日本の国境問題──尖閣・竹島・北方領土』などの著者として知られているとおりの,あるいは,それ以上の迫力で読者に迫ってきます。

 面白いと思ったのは,この本が,高校生に読んでもらうために書かれた,という点です。ですから,あまりややこしいことは言わないで,話の骨の部分を単純明解に語りかけてきます。気がつけば,あっという間にかなりの分量を読んでいました。当然ながら,時間もびっくりするほど経過していました。立ち読みで,これほど惹きつけてくれる本も珍しいことでした。

 みなさんは,「ポツダム宣言」の全文を読んだことがおありでしょうか。恥ずかしながら,わたしはこの本で初めて読みました。高校生向けに口語訳になっていますので,とても読みやすく,一気に読みました。ここでも驚くべき発見がありました。わたしたちは「ポツダム宣言」すら忘れてしまって,いまを生きています。それも仕方のないことかもしれません。しかし,「ポツダム宣言」をよく読んでみますと,この無条件降伏を求めた条文すら忘れてしまった(あるいは,忘れたふりをしている),ヤワな頭で尖閣問題を「わが国固有の領土である」と言い切る政治家や官僚,そして,評論家に唖然とさせられてしまいます。このポツダム宣言の第「八」項にはつぎのように述べられています(全部で「十三」項)。

 八,「カイロ」宣言の条項は履行されるべきものとし,日本国の主権は本州,北海道,九州および四国ならびに,われわれの決定するいくつかの小島に限定される。

 これを読んで,わたしは戦慄を覚えました。なぜなら,沖縄諸島ということばはどこにも見当たりません。ということは,この「ポツダム宣言」の段階では,沖縄諸島の帰趨すらはっきりしてはいなかった,ということになります。ですから,1972年に沖縄が本土復帰を果たすまでは,アメリカの統治下に置かれたままだったわけです。しかも,それまでの尖閣諸島はアメリカ軍の軍事訓練の場所として使われていた,と聴いています。つまり,尖閣諸島の領土問題は未解決のまま,取り残されているというのが実情です。アメリカが,尖閣諸島は安保条約の範囲内ではあるが,領土問題としては日本にも中国にも与しない,という微妙な発言をすることの意味が,ここにあることがわかります。しかも,この本の趣旨からいいますと(つまり,孫崎さんの主張からいいますと),アメリカは「尖閣」をこんごの情勢いかんによっては日本・中国の両国に対する「取引」の材料にすることは充分に考えられる,というのです。

 おまけに,「降伏文書」(昭和20年9月2日東京湾上において署名)の冒頭の部分も,巻末に掲載されています。恥ずかしながら,わたしはこの文書を読むのも初めてで,思わず眼を皿のようにして読んでしまいました。いわゆる「無条件降伏」の文面です。つまり,すべては連合国側の思うままにされても文句はいいません,という誓約書です。

 その連合国側には,中国も入っています。このことを忘れてはいけません。ポツダム宣言もそうですが,連合国とは,アメリカ,イギリス,中国,そして,ソ連の4カ国です。この4カ国によって,日本国の主権の及ぶ範囲を限定する,と宣言しているのです。それを受けて,アメリカが6年間にわたって日本を占領下におき,統治します。そして,1951年9月に,ようやくサンフランシスコで講和条約と日米安保条約を締結します。が,このときすでに日本という国はアメリカの思うようにコントロールできる国としての性格が決定してしまいます。その主役を演じたのは吉田茂です。アメリカ従属路線を引いた主役です。日本の「自発的隷従」の姿勢はここからはじまります。

 「戦後史」(アメリカと日本の関係史)というもののほんとうの姿は,これまでひた隠しにされてきました。しかも,それを語ることはタブーとして,忌避されてもきました。ですから,わたしたちはアメリカと日本の「戦後史」の真実の姿をなにひとつ知らないまま,こんにちを迎えています。その覆い隠されてきた真実を曝け出そうというのが,この本です。ですから,最初からとてもスリリングな内容になっています。

 これ以上,書いてしまいますと,読む楽しみがなくなってしまいそうですので,この本についての話はここまでとします。あとは,本をめくりながら楽しんでみてください。日本国および日本人がいかにして骨抜きにされてきたか,その謎解きを。

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