2012年11月21日水曜日

日馬富士,白鵬の2横綱に土。終盤の星のつぶし合いが面白くなる。

 2横綱が立て続けに負けた。日馬富士はひとりで転んだ。白鵬は力負けした。さて,この負け方が残り4日間の両横綱の相撲にどのような影響を及ぼすことになるのか,俄然,面白くなってきた。わたしの予想は日馬富士の逆転優勝なるか,という希望的観測に賭けたい。

 今日の太極拳のあとのランチ・タイムで,珍しくNさんと相撲の話で盛り上がった。Nさんの批評は,ふつうの人とはちょっと眼のつけどころが違っていて面白かった。Nさんは,横綱という地位がそうさせるのか,あるいは,横綱に到達した人だからこそそうなるのか,たぶん,その両方なのだろうが,横綱の立ち合うまでの所作が,大関以下の力士とはまるで違う,という。

 横綱は,呼び出されて土俵に上がったときから,もう,すでに別世界を創り出す。土俵に上がってからの一つひとつの所作に凛としたもの感じさせる。つまり,見ているこちらのこころもからだも,ピリッと引き締まる,そういうオーラのようなものを発している。もっと言ってしまえば,力士として,相撲人(すまいびと)として,生きている次元が違う。そういう次元の違いを見せつける凛とした所作が,そこはかとない迫力となって伝わってくる。だから,当然のことながら,相撲内容も違ってくる。横綱相撲とは,そういう身心ともに充実した,ひとつ天井を抜け出た者のみが表出することのできる,密度の濃い相撲のことではないか,とNさんは力説する。

 わたしもまったく同感である。すくなくとも,朝青龍,白鵬,日馬富士とつづくモンゴル出身の横綱には,それが強く感じられる。だから,仕切り直しをしているときから,身も心も異次元に引きこまれていく。それが堪らない魅力になっている。

 その横綱が,今日(21日),立て続けに負けた。

 まず,日馬富士。両足ともに流れたまま,ばったり前に落ちた。まるで,ひとりで落ちたようにみえた。両足ともに一歩も前に踏み込んではいないのだ。とくに,左足はすべって,後ろに流れていたようにみえた。上半身に力が入りすぎて,下半身がお留守になってしまう,悪い立ち合いの見本のようなものである。低い立ち合いはむかしからのもので,そこを狙って相手力士は「はたく」のだが,滅多に前に落ちることはない。むしろ,そこを好機とばかりに相手のふところに飛び込み,得意の相撲を展開する。だから,こんな落ち方,それも自分で落ちたような落ち方は,わたしが記憶するかぎり見たことがない。そんな珍しい負け方をした。

 この負け方は尾を引くことはないだろうとわたしは考える。明日からは,これをバネにして,また,別人のようになって蘇ってくるだろうと,これはわたしの希望的観測。

 それに引き換え,白鵬の負け方は傷が深いとみる。琴欧州に左上手を引かれ,左から攻めつづけられ,ただ防戦するのみ。最後は,右半身で相手の攻撃を待つだけの,白鵬の悪いパターンが露呈した。そして,最後の最後まで,なすすべもなく,寄られるとあっさりと土俵を割った。一方的な琴欧州の勝ち相撲である。以前も,これとよく似た相撲でやられている。このままだと,琴欧州に左上手を引かれると,もう勝てないとからだが記憶してしまう恐れがある。

 このダメージは相当に大きいのでは?とわたしは考える。明日は稀勢の里だ。あの強烈な左おっつけが炸裂したときには,過去にも辛酸を舐めたことがある。それをどうさばくか,明日の壁が大きくのしかかってくる。今夜は眠れないのではないか,と思う。もっとも,それを撥ね除けるのが横綱たるものの力量というものだ。さて,どうなることか。

 昨日までの両横綱の相撲について,テレビの解説者(毎日,変わる)も,新聞の北の湖理事長の談話なども,白鵬の磐石の強さを絶賛している。その一方で,日馬富士の相撲に関しては辛口の批判が多かった。わたしは,この相撲の専門家たちの批判には違和感をいだいていた。白鵬の強さをほんものだろうか,と。どこか違うのでは?と。こういう一方的な勝ち方をしていると,形勢不利な態勢からの反撃ができなくなるのでは?と。その危惧が今日の相撲となってでた。それに引き換え,日馬富士は,毎日,違う相撲をとっている。わたしの推測では,いろいろの工夫を試しているのではないか,とさえ思う。とくに,立ち合いの仕方は,日替わりメニューのように違う。その歯車(手順)が狂ったのが,今日の相撲だ。あと4日間の相撲は,これまでに積み上げてきた勝ちパターンの立ち合いをしていけばいい。あとは臨機応変にスピード相撲をこころがければいい。

 さて,白鵬はどうするか。右を差して左上手を引けば,磐石の相撲がとれる。しかし,右腰に食いつかれて,左上手が引けない態勢になると,なすすべがなくなる。今日の琴欧州のように。日馬富士はその相撲が得意だ。しかし,先場所は白鵬の左上手投げと日馬富士の右下手投げの応酬だった。そして,土俵を一周する投げの打ち合いの結果,日馬富士が勝ちを制している。相撲の常識である上手投げと下手投げの打ち合いでは上手投げが有利という,その定石を覆す日馬富士の右からの下手投げだった。白鵬の得意とする左上手投げを制したのだ。このダメージは相当に大きいだろうと思う。

 こうなってくると,星勘定とは別の次元で,千秋楽の横綱対決はみものである。想像するだけで,もう,いまから息が止まりそうなほどだ。その鍵を握るのは「立ち合い」だ。ここで先手をとった方が勝ち。だから,この対決を意識してか,日馬富士の今場所は立ち合いの仕方を日替わりのように変化させ,試している。千秋楽には,すでに一度だけみせたあの千代の富士を彷彿とさせる立ち合い(左前みつを引く)が炸裂するのではないか,とわたしは楽しみにしている。

 さて,今日の負け相撲を,両横綱はどのように裁いて,明日以降の終盤の相撲に生かしていくのか,これもまた横綱に課せられた重要な課題である。明日からの星のつぶし合いが面白くなる。と同時に,わたしはその相撲内容にも注目していきたい。つまり,来場所につながる相撲をきちんととりきることができるかどうか。長い眼でみると,こちらの方が面白い。

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