2013年9月28日土曜日

「高江に行ってきます」とNさん。「えっ?」と驚くわたし。「ちょっとだけ座ってきます」とNさん。

 25日(水)の太極拳の稽古のあとの昼食をとりながらの雑談で,ふと,ひとりごとのように「高江に行ってきます」とNさんがぽつりと言う。「えっ?あのー,やんばるの?」とわたし。「そう。ちょっとだけ座ってきます」とNさん。わたしは呆然としてしまって,つづくことばが出ない。頭の中では,ああ,目取真俊さんや中里効さんのことなどが浮かんでいるのだが,会話をはずませることができない。残念の極み。Nさんは,そのあとひとこと,ふたこと加えただけで,話題を変えてしまった。なんだか,申し訳ない,と思う。

 わたしはNさんの個人的な生活サイクルのすべてを知っているわけではない。しかし,毎週,太極拳で汗を流し,昼食をとる間柄になれば,おのずから,いま,どんなスケジュールをこなしていらっしゃるかは,想像できるようになる。でも,それもほんの一部にすぎないはずだ。それでも,わたしなどは想像もできないほどの過密スケジュールをこなしていらっしゃる。たとえば,このときも「今月は雑誌原稿をひとつ落としてしまったんですよ」といささか寂しげにぽつりとおっしゃる。

 なのに,「高江に行ってきます」とおっしゃる。このところ自分のことで精一杯の生活を送っていたわたしは「高江」と聞いても,ピンとこなかった。そのあと,鷺沼の事務所に着いてから,なぜ,いま,なのだろう,と考える。そういえば,最近,高江関係のネット情報をチェックしていないなぁ,と気づく。慌てて,検索をはじめる。

 2012年9月29日,この日は,前代未聞の「アメリカ軍・普天間基地が封鎖された日」だった。つまり,オスプレイを配備することに反対する住民が立ち上がって,敢然として普天間基地のゲートを封鎖したのだった。高江はそのオスプレイの演習場として想定されていたのだった。だから,ここでも村民が立ち上がって,封鎖の座り込みが行われたのだった。

 そんなことが,つぎつぎにわかってくる。ああ,そうか,Nさんはそのことが念頭にあって,この9月29日に合わせて,たった一日でもいい,とにかく「行って,座ってこよう」と決心されたのだ,と気づく。あの,超多忙のスケジュールをこなしているNさんが・・・・。自分のことを犠牲にしてでも,とにかく「高江で座る」ことを選ぶ,その心意気。このことに気づいて情けなくなるわたし。

 沖縄のことはかなり意識してきたつもりだった。しかし,やはり,他人事でしかなかった,と。自分自身の問題として真っ正面から対峙する自覚に欠けている,と。もう少し,日常的にも,沖縄のことをわが身に引き受けることをしなくては・・・,と悄気てしまう。

 ふと,Nさんが講義のなかで語られた「自発的隷従」のことを思い出す。このことばは,ルネッサンス期にエティエンヌ・ドラボエシーという18歳の若者が書いた論文のタイトルに使われたのだ,という。しかも,たった一つのこの論文によって,ドラボエシーは後世にその名を残すことになったという。ドラボエシーのいう「自発的隷従」とは,以下のような意味できわめて重要であり,いま,まさに,このことばの意味をしっかりと受け止めなくてはならない,という。

 ときの権力は,力で住民をねじ伏せて,権力の維持・拡大をはかるのではない。むしろ,住民がなにも文句もいわずに我慢しているから権力がのさばるのだ,と。これが骨子だという。つまり,多くの住民は,多少の不満があっても我慢する。文句も言わず,意志表明もしない。もちろん,デモもしない,座り込みもしない。むしろ,自発的に権力にすり寄っていき,率先して隷従を引き受ける。だから,権力は力を誇示する必要もなく維持され,ますます増長するのだ,と。

 こんにちの日本人の圧倒的多数が,いまや,この「自発的隷従」の陥穽のなかに,無意識・無自覚のまま陥っている。だから,この「自発的隷従」の状態をしっかりと自覚し,それを突破すること,これこそが喫緊の課題である,とNさんは講義を締めくくったように記憶する。

 Nさんは,それをみずからに課して,実行していらっしゃる。雑誌原稿を一つ落としてもなお,いまは,高江で座ることを優先させる。時間もカネもかかる。しかし,背に腹は代えられぬ。まずは,立ち上がって,行動すること。ここからすべてがはじまる。それに引き換え,このわたしは口で言うだけ。行動が圧倒的に足りない。深く恥じ入るばかり。

 この歳になっても,まだ,ひとりの人間として自立・自律できていない。情けない。わたしも「自発的隷従」に与していたことを深く恥じ,こころを入れ換えて,今日からの生き方をきびしくチェックしていくことにしよう。などと言わずに,気がついたら「自発的隷従」の<外>にでていた,といえるようになりたい。もって瞑すべし。

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