前日のブログのづきです。
組体操の「10段ピラミッド」が話題になっていますが,その是非を問う前に,この「10段ピラミッド」とはどういうものなのか,その理論と構造を確認しておきたいと思います。
なぜなら,わたしの知っているピラミッドの積み上げ方からすれば,それは不可能だからです。最初に,ネット上で「10段ピラミッド」ということばを見つけたとき,なにを馬鹿なことを言っているのか,とまったく理解できませんでした。そんなことができるわけがない,ありえない,これはわたしの確信でした。
不審に思って,ネットをあちこち探してみました。そこでわかったことは,ひとくちに「ピラミッド」と言っても,その積み上げ方はさまざまである,ということでした。いま,行われている「ピラミッド」はわたしの知っているそれとは発想の違う,まったくの別物でした。結論的にいえば,積み上げる,というよりは「立ち上げる」と言った方が適切ではないかと思います。
わたしたちがやっていたピラミッドは,全員が両手・両膝でウマになり,その上に,両手は下のウマの肩・肩甲骨あたりにおき,両膝は下のウマの臀部・骨盤のあたりにおき,さらに,3段目も同じようにして積み上げていきます。正面からみれば二等辺三角形ですが,横からみると単なる一枚の壁です。
この方法ですと,5段重ねのピラミッドが高校生の,しかも鍛練をつんだ体操部部員の限界でした。5・4・3・2・1という具合に下から順に人数を減らしながら,上に積み上げていきます。5・4・3までは,それほど苦労することもなく積み上げることができました。しかし,最後の2・1は別次元の難度でした。何回も何回も失敗を繰り返しながら,いろいろのアイディアや智恵を出し合い,精度を高めていきました。そうして,ようやく成功したときの喜びは感無量でした。この達成感はえも言われぬものでした。とりわけ,運動会の本番で成功したときの充実感はなにものにも替えがたいものがありました。
ですから,このわたしの常識からしますと,「10段ピラミッド」なんて,とんでもない,ということになります。サーカスのような特別の訓練をした人たちでも不可能でしょう。それは単純に力学的に考えてみて不可能だからです。なぜなら,一番下の真ん中のウマの上には,単純に計算しても,9人分の体重がかかることになります。仮に一人50㎏としても,450㎏の重力がかかることになります。それを両腕・両膝で支えることはできるわけがありません。
では,いま行われている「10段ピラミッド」はどういう方法で「立ち上げて」いるのでしょうか。完成した全体の形態をみてみますと,三角錐になっています。つまり,一枚の壁ではありません。そして,よくみてみますと四方から力を中央に寄せ集めつつ,下への重力の負担を軽減する,そういう工夫がこらされた,まったく新しいアイディアから誕生した「新・ピラミッド」であることがわかってきました。
この「新・ピラミッド」を考案したのが,よしのよしお(DVDネーム,実名は吉野義雄)さんです。かれは兵庫教育大学大学院で組体操の研究に取り組み,まったく新しい,つまり下への重力を軽減しつつ高さを求める,新・ピラミッドの立ち上げ方を編み出した,といいます。
その原理を短いことばで説明するのはとても難しいのですが,なんとかチャレンジしてみましょう。まず,基本形になるウマの種類は2種類。ひとつは,従来のように両腕・両膝でつくるウマ(A),もうひとつは,両腕をウマの両肩甲骨の下あたりに当てて上体を前に倒し両脚で立つウマ(B)です。この2種類のウマを組み合わせて,「新・ピラミッド」を立ち上げていきます。
まず,両手・両膝でつくるウマ(A)は最下段の第一列に横並びに置き,第二列目は両手・両脚でつくるウマ(B)が並びます。これが第二段目となります。そして,第三列目は両手・両膝のウマ(A)が並び,第四列目は両手・両脚のウマ(B)が並びます。という具合に第一段目(A)と第二段目のウマ(B)が交互に組み合わさって,まずは土台ができあがります。そして,第三段目からは,すべて(B)のウマで立ち上げていきます。
そして,この「新・ピラミッド」を立ち上げるためのポイントは二つあります。ひとつは,(B)のウマは両手に3割,両脚に7割の比重で重さを分散させること,つまり,垂直にかかる重力を斜め下に分散させること。もうひとつは,(B)のウマの両脚の間に,最下段のウマ(A)と一段下の(B)のウマが頭を入れ,両肩で上のウマの両脚をブロックすること。
つまり,重力の分散と負担の大きい両脚のブロック(固定化)を果たそう,というわけです。この発想そのものはみごとなもので,これによってピラミッドの高さを実現するという夢を飛躍的に可能としました。わたしの計算では,7段ピラミッドまでは,少し練習をすれば,比較的簡単に立ち上げることができそうです。しかし,8段目からは異次元の世界に一気に突入します。それは,わたしの試算では,上からの重力が飛躍的に大きくなるからです。
この境界領域で,たぶん,ピラミッドが一気に崩れてしまい,骨折などの事故が起きているのではないか,とこれはわたしの重力試算による推測です。7段ピラミッドくらいまでは,それぞれのウマとなる位置にふさわしい体格・体重・性格を慎重に選別していけば,たぶん,事故もなく立ち上げることは可能だと,これもまたわたしの重力試算の結果にもとづく推測です。
以上が,「新ピラミッド」の立ち上げの理論と構造と問題点の概略です。ほんとうは,もっと細かく留意点を説明する必要がありますが,ここでは割愛させていただきます。詳しくは,ネットで確認してみてください。たくさんの実践例と解説が公開されています。
今回は,これからの議論を展開していくための,基本の確認というところにとどめておきたいと思います。つまり,「新・ピラミッド」とはどういうものなのか,そして,「10段ピラミッド」の立ち上げ方はどうなっているのか,ということの概略を確認しておこうという次第です。その上で,名古屋大学の内田良さんの「言い分」や,賛否両論の内容を分析してみたいと思います。
ということで,今回はここまで。
組体操の「10段ピラミッド」が話題になっていますが,その是非を問う前に,この「10段ピラミッド」とはどういうものなのか,その理論と構造を確認しておきたいと思います。
なぜなら,わたしの知っているピラミッドの積み上げ方からすれば,それは不可能だからです。最初に,ネット上で「10段ピラミッド」ということばを見つけたとき,なにを馬鹿なことを言っているのか,とまったく理解できませんでした。そんなことができるわけがない,ありえない,これはわたしの確信でした。
不審に思って,ネットをあちこち探してみました。そこでわかったことは,ひとくちに「ピラミッド」と言っても,その積み上げ方はさまざまである,ということでした。いま,行われている「ピラミッド」はわたしの知っているそれとは発想の違う,まったくの別物でした。結論的にいえば,積み上げる,というよりは「立ち上げる」と言った方が適切ではないかと思います。
わたしたちがやっていたピラミッドは,全員が両手・両膝でウマになり,その上に,両手は下のウマの肩・肩甲骨あたりにおき,両膝は下のウマの臀部・骨盤のあたりにおき,さらに,3段目も同じようにして積み上げていきます。正面からみれば二等辺三角形ですが,横からみると単なる一枚の壁です。
この方法ですと,5段重ねのピラミッドが高校生の,しかも鍛練をつんだ体操部部員の限界でした。5・4・3・2・1という具合に下から順に人数を減らしながら,上に積み上げていきます。5・4・3までは,それほど苦労することもなく積み上げることができました。しかし,最後の2・1は別次元の難度でした。何回も何回も失敗を繰り返しながら,いろいろのアイディアや智恵を出し合い,精度を高めていきました。そうして,ようやく成功したときの喜びは感無量でした。この達成感はえも言われぬものでした。とりわけ,運動会の本番で成功したときの充実感はなにものにも替えがたいものがありました。
ですから,このわたしの常識からしますと,「10段ピラミッド」なんて,とんでもない,ということになります。サーカスのような特別の訓練をした人たちでも不可能でしょう。それは単純に力学的に考えてみて不可能だからです。なぜなら,一番下の真ん中のウマの上には,単純に計算しても,9人分の体重がかかることになります。仮に一人50㎏としても,450㎏の重力がかかることになります。それを両腕・両膝で支えることはできるわけがありません。
では,いま行われている「10段ピラミッド」はどういう方法で「立ち上げて」いるのでしょうか。完成した全体の形態をみてみますと,三角錐になっています。つまり,一枚の壁ではありません。そして,よくみてみますと四方から力を中央に寄せ集めつつ,下への重力の負担を軽減する,そういう工夫がこらされた,まったく新しいアイディアから誕生した「新・ピラミッド」であることがわかってきました。
この「新・ピラミッド」を考案したのが,よしのよしお(DVDネーム,実名は吉野義雄)さんです。かれは兵庫教育大学大学院で組体操の研究に取り組み,まったく新しい,つまり下への重力を軽減しつつ高さを求める,新・ピラミッドの立ち上げ方を編み出した,といいます。
その原理を短いことばで説明するのはとても難しいのですが,なんとかチャレンジしてみましょう。まず,基本形になるウマの種類は2種類。ひとつは,従来のように両腕・両膝でつくるウマ(A),もうひとつは,両腕をウマの両肩甲骨の下あたりに当てて上体を前に倒し両脚で立つウマ(B)です。この2種類のウマを組み合わせて,「新・ピラミッド」を立ち上げていきます。
まず,両手・両膝でつくるウマ(A)は最下段の第一列に横並びに置き,第二列目は両手・両脚でつくるウマ(B)が並びます。これが第二段目となります。そして,第三列目は両手・両膝のウマ(A)が並び,第四列目は両手・両脚のウマ(B)が並びます。という具合に第一段目(A)と第二段目のウマ(B)が交互に組み合わさって,まずは土台ができあがります。そして,第三段目からは,すべて(B)のウマで立ち上げていきます。
そして,この「新・ピラミッド」を立ち上げるためのポイントは二つあります。ひとつは,(B)のウマは両手に3割,両脚に7割の比重で重さを分散させること,つまり,垂直にかかる重力を斜め下に分散させること。もうひとつは,(B)のウマの両脚の間に,最下段のウマ(A)と一段下の(B)のウマが頭を入れ,両肩で上のウマの両脚をブロックすること。
つまり,重力の分散と負担の大きい両脚のブロック(固定化)を果たそう,というわけです。この発想そのものはみごとなもので,これによってピラミッドの高さを実現するという夢を飛躍的に可能としました。わたしの計算では,7段ピラミッドまでは,少し練習をすれば,比較的簡単に立ち上げることができそうです。しかし,8段目からは異次元の世界に一気に突入します。それは,わたしの試算では,上からの重力が飛躍的に大きくなるからです。
この境界領域で,たぶん,ピラミッドが一気に崩れてしまい,骨折などの事故が起きているのではないか,とこれはわたしの重力試算による推測です。7段ピラミッドくらいまでは,それぞれのウマとなる位置にふさわしい体格・体重・性格を慎重に選別していけば,たぶん,事故もなく立ち上げることは可能だと,これもまたわたしの重力試算の結果にもとづく推測です。
以上が,「新ピラミッド」の立ち上げの理論と構造と問題点の概略です。ほんとうは,もっと細かく留意点を説明する必要がありますが,ここでは割愛させていただきます。詳しくは,ネットで確認してみてください。たくさんの実践例と解説が公開されています。
今回は,これからの議論を展開していくための,基本の確認というところにとどめておきたいと思います。つまり,「新・ピラミッド」とはどういうものなのか,そして,「10段ピラミッド」の立ち上げ方はどうなっているのか,ということの概略を確認しておこうという次第です。その上で,名古屋大学の内田良さんの「言い分」や,賛否両論の内容を分析してみたいと思います。
ということで,今回はここまで。
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