2015年1月20日火曜日

いま話題の『相撲ファン』(創刊号,大空社)を購入。センスが光る。新しい時代への挑戦。

 昨日(19日)のブログで,抗ガン剤治療を放棄して気分が軽くなったことを書きました。そして,その勢いで書店に立ち寄り,本の衝動買いをした,とも書きました。そのうちの一部は,大相撲専門雑誌でした。いつもなら,書店で立ち読み(拾い読み)をして,それでおしまい。ですが,昨日は買ってしまいました。

 第一の目的は,創刊されたばかりの『相撲ファン』(大空社,2015年1月15日発行)を探して,購入することでした。なぜなら,書店にならんだらすぐに売り切れになってしまい,増刷に入った,となにかで読んだからです。それで慌てて,近くの比較的大きな書店に走ったのですが,やはり,すでに売り切れでした。

 ならば,二子玉川まできたついでに・・・と高島屋のなかにある紀伊国屋書店に立ち寄ったという次第です。ここにはかろうじて初版の最後の一冊が残っていました。すぐに手にとってみて,アッと驚きました。編集のセンスがいい。これなら,いまの若者も買うだろうし,女性の相撲好き(「スージョ」と呼ぶらしい)はもっと喜ぶことだろう,と直観しました。なにを隠そうこのわたしも,こういう相撲雑誌を待ち望んでいた,とひとまず言っておきましょう。

 
大相撲に関する雑誌は,これまでにもいろいろと紆余曲折がありました。が,最近は,『がっつり!大相撲』(日本文芸社)と『大相撲ジャーナル』(NHK G-Media )の2誌に落ち着いています。しかも,この2誌のつくり方は対称的で,読者も二分されているようです。前者は,徹底した週刊誌なみの本のつくり方をしています。表紙も中の紙質も,週刊誌さながらの体裁です。見るからに安っぽい。その代わり値段は440円と格安。いわゆる読み捨て雑誌。

 
それに引き換え,後者は,むかしながらの大相撲雑誌の伝統を引き継ぎつつ,新しいアイディアを盛り込み,誌面も明るくなるように編集の工夫がこらされています。上質紙をつかったカラー・ページが多いのも,なんとなく落ち着き,楽しめます。その代わり値段も980円と,前者の倍以上する。ただし,前者は広告ページがかなりあるのに対して,後者はほとんど広告をとっていません。これも,意外にすっきりしていていいものです。

 
さて,この2誌を視野に入れての第三の相撲雑誌の参入です。それが『相撲ファン』の創刊号というわけです。本のサイズも,前の2誌がB4サイズなのに対して,こちらはA4の変形版。横幅はA4と同じですが,縦がやや短い。ですから,どこかどっしりとした安定感があり,誌面も大きく,ゆったりしているように見えます。つまり,どのページをめくってみてもゴージャスな雰囲気が漂います。ここが,まずは,編集のセールス・ポイントなのでしょう。それでいて値段は1000円。NHKの『大相撲ジャーナル』を意識してか,ページ数もまったく同じ(128ページ)。この両者をならべて比較したら,やはり文句なく『相撲ファン』を選ぶことになるでしょう。

 内容も新鮮。とりわけ,女性のまなざしが随所に見られます。相撲といえば,どこか女人禁制の雰囲気が漂ってきましたが(たとえば,土俵の上には女性は立たせない,など),その壁を打ち破って,新しい相撲文化の可能性を探ろうとしているようです。奥付をみますと,Senior Editor に女性編集者の名前が載っています。

 そのせいか,女性のライターも多く登用されていて,その繊細なまなざしが光ります。男性であるわたしが読んでみても,新たに教えられることがたくさんありました。なるほど,女性は相撲をこんな風にして楽しんでいるんだ,と。たとえば,「国技を彩る『和』の情緒」という特集ページが6ページにわたって組まれています。中味は,化粧回しの生地や刺繍の仕方,それに博多帯,足袋,相撲浴衣,行司装束,などをきれいなカラー写真を使って見せた上で,これらを支える職人さんたちの巧みな技を紹介しています。

 これはほんの一例にすぎません。相撲がはねたあとの食の楽しみ方,それも女性目線でのもの,スージョの相撲談義,など男のわたしが読んでも楽しめます。要するに,相撲を文化としてトータルに捉えなおそうという編集者たちの意欲が伝わってきます。これは明らかに新聞,テレビの堕落した報道姿勢に対するカウンターをねらったものだと言っていいでしょう。すなわち,相撲は「勝ち負け」だけではないのだ,という高い志をもった新たな挑戦です。

 時代は,もはや近代主義の権化ともいうべき優勝劣敗主義にある意味での限界を見届け,「見切り」をつけて,つぎなる時代への幕開けがはじまっている,と編集者たちは感じ取っているように思います。もっと言ってしまえば,近代の男性中心主義の時代はもはや終焉を迎えつつあるのだ,と。それを男ばかりの偏見に満ちた大相撲の世界に「女性のまなざし」を取り込むことによって,突破口を見出そうというわけです。この勇気ある試みに,わたしは大いなるエールを送りたいと思います。

 というようなわけで,しばらく禁欲していた大相撲の鑑賞を解禁して,これからは思う存分楽しもうと思っています。わたしにとっては,もっとも体重をかけて堪能できる大相撲鑑賞こそが,抗ガン剤に代わる妙薬になるに違いない,と信じて・・・・。

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