しばらく前に,かつての同僚であった船渡和男さんからメールがあり,講演をしてほしい,とのこと。テーマはなんでもいい,ということでしたので,お引き受けしました。ちょうど,『世界』の原稿を書き上げたばかりのころでしたので,わたしの頭のなかは「オリンピックとはなにか。スポーツとはなにか。」この二つが渦巻いていました。ですから,迷うことなく,即座にテーマはこれでいこう,と決断。すぐに,船渡さんに返信メールを送りました。
そうしたら,こんなに立派なポスターをつくってくださいました。このポスターが東京体育学会の会員のみなさんに,情報として流されるはずです。わたしもかつては会員でしたので,この学会がどんな活動をしてきたかというおおよそのところは承知しています。ただし,あまり熱心な会員ではありませんでしたが・・・・。ですから,何人の方が聞きにきてくださるかはまったくわかりませんが,まずは,それなりの準備をして・・・と考えています。
お世話をしてくださった船渡さんには,『世界』11月号(10月8日発売)に寄せた拙稿「オリンピックはマネーゲームのアリーナか──「魂ふり」から「商品」へ 変転するスポーツ」のコピーを,当日の参加者に配布してくださるよう,お願いをしておきました。わたしの記憶では,実験系の会員の方たちが熱心に活動されていたように思いますので,この方たちが,こういう話をどのように聞いてくださるのか,いまから楽しみではあります。
じつは,10月28日は,わたしにとっては特別の日でもあります。それは,研究者としての道を歩むことになったきっかけを与えてくれたKarl Gaulhofer の命日であるからです。第一次世界大戦後のオーストリアの体育改革を推進し,そのコンセプトとなった Natuerliches Turnen (自然体育)を提唱した中心人物がカール・ガウルホーファーでした。
この人との出会いは,学部3年生だった年の秋に早稲田大学で日本体育学会が開催され,そこに設営されていた書籍販売会場の洋書コーナーでした。会員でもないのに物珍しさからふらりと初めて日本体育学会という場に足を踏み入れました。黒の学生服を着て角帽を被り(当時は当たり前の格好でした),いろいろの会場を覗かせてもらいました。会費も払わずにもぐり込みました。ですから,名札をつけていません。が,だれもとがめる人もいませんでした。おおらかな時代だったと思います。
その洋書コーナーに,Karl Gaulhofer, Margaret Streicher の Natuerliches Turnen, 全5巻が並んでいました。まだ,ドイツ語もたいして読めないのに,あちこち拾い読みをしながら,当てずっぽうにあれこれ内容を想像していました。そのうちに,この本はひょっとしたら,それまでの体育の考え方を根底からくつがえす画期的な本なのではないか,と思いはじめ,ついには,確信に変わっていました。そして,そのとき持っていた金を全部はたいて購入しました。とても勇気を必要とする決断でした。
こうした出会いがあったお蔭で,大学院の修士論文は「Natuerliches Turnen (自然体育)の研究」でまとめることができました。この論文で,はっきりと研究者を目指そうと決心しました。以後,大学に勤務するようになり,在外研究員として向かったのもかつてKarl Gaulhofer が勤務していたウィーン大学でした。わたしの在外研究を引き受けてくれた Dr.Hannes Strohmeyer さんに挨拶に行く前にウィーン大学のスポーツ科学研究所を下見してみました。そうしたら,その一角に,Karl Gaulhofer の記念碑を見つけました。
ちょうど,ウィーンに向かったのが10月の中旬でしたので,生活の基盤をととのえて,そろそろご挨拶にと思ったときが,10月28日の数日前のことでした。ですから,ご挨拶には,この10月28日に,と決めました。地下鉄の駅で花束を買って,でかけました。そして,初めて会うDr.Strohmeyerさんに,開口一番,「今日はどういう日かご存じですか」と質問。かれは首をひねって「わからない」と。そこで,わたしは「この花束をKarl Gaulhofer に捧げたい」と言った瞬間に,Dr.Strohmeyerさんは顔を真っ赤にして,「Denkmal(記念碑)の場所は知っているか」と聞きますので,「わたしが案内します」と自信満々のわたし。
これがDr.Strohmeyer さんとの最初の出会いでした。お蔭で,すっかり意気投合して,仲良しになることができました。あとは,家族ぐるみのお付き合いをさせていただき,今日にいたっています。
そんな記念すべき日に,東京体育学会で講演をさせていただけるのは,わたしにとってはなにものにも代えがたい光栄です。ですから,なにがなんでも気合を入れて,悔いの残らない講演にしたいと,いまから楽しみにしているところです。多少,話が脱線したとしても,『世界』の掲載論文が配布されていると思えば,安心です。できるだけ,会員のみなさんの印象に残る話題に絞り込んでお話をしてみたいと考えています。
どなたでも参加できるようですので(会費も申し込みも不要),時間と興味のある方はどうぞ,お出かけください。楽しみにお待ちしています。では,会場で。
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