連日の猛暑と闘い,日常の雑務にまぎれているうちに,いつのまにか今日はすでに8月2日(木)。ずっとさきのことだと思っていた第2回バスク・日本国際セミナーの開催日がもうすぐそこに迫ってきている。そのことに気づいた瞬間に緊張がはしる。テーマは「グローバリゼーションと伝統スポーツ」。
8月6日(月)から4日間,9日まで,そして朝から夕刻までびっしりのスケジュールで第2回バスク・日本国際セミナーが開催される。精確には,バスク大学と神戸市外国語大学の姉妹大学協定にもとづく国際セミナー。実行委員会委員長は竹谷和之教授(神戸市外大)。長年にわたってバスクの伝統スポーツをメインの研究テーマにして取り組んできた日本を代表する研究者だ。そのかれと,バスク大学のホセバ教授との熱い友情の結果として,この国際セミナーの企画が誕生した。第1回目は,5年前,バスク大学主催(実行委員長はホセバ教授)で開催された。
本来ならば,4年後に開催という約束だったので,昨年開催するつもりで準備を進めていた。しかし,あの「3・11」後のフクシマの問題もあって,1年延期してことしの開催となった。折しも,セミナー初日の8月6日はナガサキの日,セミナー最終日の8月9日はヒロシマの日。偶然とはいえ,フクシマのあとの国際セミナー開催日としては最高のお膳立て。やはり,日本からの発信メッセージは,原爆と原発を抜きには語れないということか。
この国際セミナーの目玉は四つある。
一つは,セミナーのオープニングを飾る文化人類学者・今福龍太氏の特別講演である。
二つめは,能面アーティスト柏木裕美氏の作品展示と制作実演である。
三つめは,李自力老師による太極拳のワークショップである。
四つめは,セミナーの締めくくりとしての思想・哲学の西谷修氏の特別講演である。
今福龍太氏の特別講演のテーマは「近代スポーツ科学に抗うローカル・ハビトゥス」。伝統スポーツを問うためには不可欠のピン・ポイントの視点だと思う。この視点から,今福氏がどのような論理を展開されるのか,いまからとても楽しみである。文化人類学者として,アカデミックに認知されてきたいわゆる参与観察という方法に疑問を投げかけ,その壁をひとつ越えたところの,フィールドにじかに触れるための参加観察を提案し,実践してきた人の問題提起として,わたしはいまからわくわくしながら楽しみにしている。ローカル・ハビトゥスをこんごどのように温存していくのか,21世紀を生きるわたしたちにとってきわめて重大な視点を提示してくれるのではないか,という期待でいっぱいである。
柏木裕美氏はこんにちの能面作家のうちでも特異な存在としていまもっとも注目を集めているアーティストのひとりである。それは,伝統面の制作の枠組みに閉じこめられることを拒否し,伝統面を尊重しつつ,さらに,自由奔放な能面制作の世界にその作品の幅を広げているからである。それは,ひとくちで言ってしまえば,伝統面の制作と,現代人を能面に写し取る制作と,小面を百変化させる制作と,能面の様式を守りつつアヴァンギャルドの世界に飛び出す制作の四つの分野にわたっている。さらに,追加しておけば,最近では能面の絵を描き,その世界を文章化することにも意欲的に取り組んでいる。だから,この人の作品は見るだけで楽しい。しかも,今回はその制作現場を実演してみせてくれるというのだから,贅沢な話である。
李自力老師は,日本武術太極拳連盟のナショナル・チームのコーチとして,長年にわたり日本に滞在し,日本の太極拳の普及に大きな貢献をしている方である。のみならず,『日中太極拳交流史の研究』で博士号を取得された文武両道の人でもある。温厚な人柄と,高度な太極拳の表演能力(現代の名人と言われている)と,そして優れた指導力によって,太極拳の世界では大きな信頼を獲得されている方である。いま,太極拳の世界のトップに立つ李老師のワークショップがこのセミナーのプログラムのなかに組まれていることの意味は重大である。そして,冒頭では,李自力老師と一緒に,西谷修,三井悦子,稲垣正浩の3人が加わって24式太極拳の表演が行われる。さらに,最後のところで,楊式太極拳の表演が李老師によって行われる。これは必見である。
最後の西谷修氏の特別講演のテーマは「グローバル化と身体の行方」である。これまたとてつもなく大きな,そして重いテーマでの講演である。わたしたちはいま,否応なくグローバル化が進展するなかで生きている。ということは,好むと好まざるとに関係なく,わたしたちの身体は無意識のうちに変化・変容させられるとういうことだ。しかし,そのことにわたしたちは無抵抗でいるだけでは済まされないだろう。必ずや,ローカル・ハビトゥスとしての,たとえば,伝統スポーツが身体のグローバル化には抗うことになるだろう。というように考えてくると,オープニングの今福龍太氏の講演と,エンディングの締めくくりの西谷修氏の講演は,みごとに呼応し合うことになる。まさに,このセミナーの全体テーマの「クローバリゼーションと伝統スポーツ」の収めの講演として,きわめて重要な意味をもつことになる。その意味で,わたしはいまからワクワクしている。
この今福龍太氏と西谷修氏の講演の間に,日本側から10題,バスク側から10題の研究発表とディスカッションが用意されている。さて,どんな展開が待っていることだろうか。興味津々である。
バスクの研究者は,1日に第一グループが,今日2日に第二グループが日本に到着している。そして,明日から神戸を中心とした各地の伝統スポーツのフィールド・ワークを開始する。竹谷教授やその周辺のサポーターは大変な仕事が待っている。でも,すでに準備は万端怠りなく進んでいるので,心配はないと思う。
そろそろ,わたしもスイッチを入れてこのセミナーに備えなくてはならない。まずは,すでにできあがっている膨大な「発表抄録集」を読み込んでおかなくてはならない。明日からは,第2回バスク・日本国際セミナーに突入である。そのさきに待っているものはなにか。真剣勝負である。その真剣さが,つぎの展開を導き出すと信じて進む以外にはない。だから,楽しいのだ。
それこそが,バスクと日本の架け橋を築く基となるべきものだから。
8月6日(月)から4日間,9日まで,そして朝から夕刻までびっしりのスケジュールで第2回バスク・日本国際セミナーが開催される。精確には,バスク大学と神戸市外国語大学の姉妹大学協定にもとづく国際セミナー。実行委員会委員長は竹谷和之教授(神戸市外大)。長年にわたってバスクの伝統スポーツをメインの研究テーマにして取り組んできた日本を代表する研究者だ。そのかれと,バスク大学のホセバ教授との熱い友情の結果として,この国際セミナーの企画が誕生した。第1回目は,5年前,バスク大学主催(実行委員長はホセバ教授)で開催された。
本来ならば,4年後に開催という約束だったので,昨年開催するつもりで準備を進めていた。しかし,あの「3・11」後のフクシマの問題もあって,1年延期してことしの開催となった。折しも,セミナー初日の8月6日はナガサキの日,セミナー最終日の8月9日はヒロシマの日。偶然とはいえ,フクシマのあとの国際セミナー開催日としては最高のお膳立て。やはり,日本からの発信メッセージは,原爆と原発を抜きには語れないということか。
この国際セミナーの目玉は四つある。
一つは,セミナーのオープニングを飾る文化人類学者・今福龍太氏の特別講演である。
二つめは,能面アーティスト柏木裕美氏の作品展示と制作実演である。
三つめは,李自力老師による太極拳のワークショップである。
四つめは,セミナーの締めくくりとしての思想・哲学の西谷修氏の特別講演である。
今福龍太氏の特別講演のテーマは「近代スポーツ科学に抗うローカル・ハビトゥス」。伝統スポーツを問うためには不可欠のピン・ポイントの視点だと思う。この視点から,今福氏がどのような論理を展開されるのか,いまからとても楽しみである。文化人類学者として,アカデミックに認知されてきたいわゆる参与観察という方法に疑問を投げかけ,その壁をひとつ越えたところの,フィールドにじかに触れるための参加観察を提案し,実践してきた人の問題提起として,わたしはいまからわくわくしながら楽しみにしている。ローカル・ハビトゥスをこんごどのように温存していくのか,21世紀を生きるわたしたちにとってきわめて重大な視点を提示してくれるのではないか,という期待でいっぱいである。
柏木裕美氏はこんにちの能面作家のうちでも特異な存在としていまもっとも注目を集めているアーティストのひとりである。それは,伝統面の制作の枠組みに閉じこめられることを拒否し,伝統面を尊重しつつ,さらに,自由奔放な能面制作の世界にその作品の幅を広げているからである。それは,ひとくちで言ってしまえば,伝統面の制作と,現代人を能面に写し取る制作と,小面を百変化させる制作と,能面の様式を守りつつアヴァンギャルドの世界に飛び出す制作の四つの分野にわたっている。さらに,追加しておけば,最近では能面の絵を描き,その世界を文章化することにも意欲的に取り組んでいる。だから,この人の作品は見るだけで楽しい。しかも,今回はその制作現場を実演してみせてくれるというのだから,贅沢な話である。
李自力老師は,日本武術太極拳連盟のナショナル・チームのコーチとして,長年にわたり日本に滞在し,日本の太極拳の普及に大きな貢献をしている方である。のみならず,『日中太極拳交流史の研究』で博士号を取得された文武両道の人でもある。温厚な人柄と,高度な太極拳の表演能力(現代の名人と言われている)と,そして優れた指導力によって,太極拳の世界では大きな信頼を獲得されている方である。いま,太極拳の世界のトップに立つ李老師のワークショップがこのセミナーのプログラムのなかに組まれていることの意味は重大である。そして,冒頭では,李自力老師と一緒に,西谷修,三井悦子,稲垣正浩の3人が加わって24式太極拳の表演が行われる。さらに,最後のところで,楊式太極拳の表演が李老師によって行われる。これは必見である。
最後の西谷修氏の特別講演のテーマは「グローバル化と身体の行方」である。これまたとてつもなく大きな,そして重いテーマでの講演である。わたしたちはいま,否応なくグローバル化が進展するなかで生きている。ということは,好むと好まざるとに関係なく,わたしたちの身体は無意識のうちに変化・変容させられるとういうことだ。しかし,そのことにわたしたちは無抵抗でいるだけでは済まされないだろう。必ずや,ローカル・ハビトゥスとしての,たとえば,伝統スポーツが身体のグローバル化には抗うことになるだろう。というように考えてくると,オープニングの今福龍太氏の講演と,エンディングの締めくくりの西谷修氏の講演は,みごとに呼応し合うことになる。まさに,このセミナーの全体テーマの「クローバリゼーションと伝統スポーツ」の収めの講演として,きわめて重要な意味をもつことになる。その意味で,わたしはいまからワクワクしている。
この今福龍太氏と西谷修氏の講演の間に,日本側から10題,バスク側から10題の研究発表とディスカッションが用意されている。さて,どんな展開が待っていることだろうか。興味津々である。
バスクの研究者は,1日に第一グループが,今日2日に第二グループが日本に到着している。そして,明日から神戸を中心とした各地の伝統スポーツのフィールド・ワークを開始する。竹谷教授やその周辺のサポーターは大変な仕事が待っている。でも,すでに準備は万端怠りなく進んでいるので,心配はないと思う。
そろそろ,わたしもスイッチを入れてこのセミナーに備えなくてはならない。まずは,すでにできあがっている膨大な「発表抄録集」を読み込んでおかなくてはならない。明日からは,第2回バスク・日本国際セミナーに突入である。そのさきに待っているものはなにか。真剣勝負である。その真剣さが,つぎの展開を導き出すと信じて進む以外にはない。だから,楽しいのだ。
それこそが,バスクと日本の架け橋を築く基となるべきものだから。
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