2012年8月18日土曜日

西谷 修講演「グローバル化と身体の行方」(第2回日本・バスク国際セミナーにて)。

 第2回日本・バスク国際セミナーの最後の締めくくりの特別講演を,西谷修さんが引き受けてくださり,それはそれはみごとなものでした。題して「グローバル化と身体の行方」。

 今回の国際セミナーのテーマは「グローバリゼーションと伝統スポーツ」。そのことを強く意識した西谷さんのお話でした。

 まずは,世界がグローバル化するということはどういうことなのかを説き,そのこととわたしたちの身体がどのようにかかわっているのか,わけても,その身体を生きることによって成立する近代スポーツ競技や伝統スポーツとはなにかをわかりやすく説き,さらに,スポーツから生まれる感動とはなにか,というところまで踏み込んでお話をしてくださいました。

 これまで,わたしの頭のなかでもやもやしていたものが一度にすっ飛んでいき,すっきりとした青空が広がりました。お話の全体は,必ず活字にして,みなさんにも読んでもらえるようにしたいと考えていますので,ここでは割愛。そのうちの,わたしにとって重要だと思われる部分について,わたしなりに理解できたことを書き記しておきたいと思います。

 それは以下のとおりです。

 グローバル化の進展とともにわたしたちの身体は「中性化」してしまう。つまり,地域に固有のバナキュラー性(土着の言語,信仰,生業形態,文化,など)が削ぎ落とされ,平準化,規格化,数量化できる身体の要素だけがクローズアップされることになる。そして,産業社会に貢献できる身体,すなわち中性化した身体が増産されていく。

 前近代から近代への移行過程で起きたことの大きな特徴がそれである。スポーツもまたその渦に巻き込まれ,グローバル化への道を選んだものが近代スポーツ競技となり,それを拒否したものが伝統スポーツとして温存されることになった。その結果,近代スポーツ競技を支える身体は,ますます「中性化」し,「透明化」していくことになる。その反面,伝統スポーツはバナキュラー性を保持した「豊穣な」身体を維持していくことになる。

 しかし,その伝統スポーツにもグローバル化の波が押し寄せていて,徐々に変化・変容を余儀なくされつつある。つまり,伝統スポーツをささえる身体が危機に瀕している。他方,近代スポーツ競技にいたってはドーピングする身体が登場して,大きな壁に突き当たってしまっている。その最大の問題は,グローバル化によってもたらされたテクノサイエンス(科学技術)と経済によって,スポーツ本来のあり方が圧倒されてしまって,あらぬ方向に彷徨いはじめたことにある。

 にもかかわらず,オリンピックを筆頭とする近代スポーツ競技も,地域に伝承されている伝統スポーツも,衰えるところを知らない。なぜなら,スポーツには人を「感動」させる力があるからだ。素晴らしいパフォーマンスに立ち会う人間は,アスリートもそれを観る人も,みんな「感動」の渦に巻き込まれていく。

 この感動の源泉は,アスリートたちの真剣さであり,純粋さであり,それらを支える無償性にある。利害得失を度外視して,全身全霊を注ぎ込む,生身の身体の剥き出しの表出にある。その身体に触れたとき,わたしたちは抑えきれない感動に身を震わせる。そのとき,生きている,とわたしたちは実感する。わたしたちが「生きる」ということの実感は,この純粋な身体経験を積み重ねることにあるのだ,と。

 これは,アスリートたちによる無償の「贈与」である。だからこそ感動が生まれるのだ。贈与(マルセル・モース)には計算も打算もない。無償性によって支えられる贈与だ。それは場合によっては公衆の面前での破壊であり,焼却である。つまりは「消尽」である。その贈与のルーツをたどっていくと,そこには「供犠」が待っている(ジョルジュ・バタイユ)。

 以上です。多少,わたしの脚色もまじってしまいましたが,西谷さんの講演を聞いてのわたしの感想の一部です。この他にもたくさんの重要な問題についてお話をしてくださいましたが,それらはいずれまたの機会に。

 そしていま,わたしの脳裏をよぎるのは,供犠とはなにか,儀礼とはなにか,そして「スポーツ儀礼」とはなにか,という問題です。「スポーツを考えることは,人間とはなにか,を問うことだ」とこのところずっと考え,人にも話してきています。そのための重要な扉のひとつを,西谷さんの講演は指し示してくれた,とわたしは受け止めました。

 10月13日(土)に予定されている「アフター・国際セミナー」(公開)の企画も,西谷講演を手がかりにして展開してみたいと考えています。それが「グローバリゼーションと伝統スポーツ」を考えるための,重要な土俵を提供してくれている,と考えるからです。場所は同じ。神戸市外国語大学三木記念会館。西谷さんも,再度,参加してくださるとのことです。ご期待ください。

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