最近,なんの脈絡もなく突然,こどものころのことがふっと脳裏に浮かんでくることが多くなってきたようにおもいます。加齢による特異現象の一つなのでしょうか。あるいは,惚けのはじまりか。でも,慌てても仕方ありません。あるがままの「いま」を素直に受け止めて,そのことをエンジョイすることにしています。
その中の一つ。赤っ恥をかいて,顔から火がでそうになった思い出。
1945年の初夏。敗戦直前の,国民学校2年生のときのこと。戦時中は小学校とはいわず,国民学校と呼んでいました。新しい担任の先生ともなじんできて,授業がとても楽しかった記憶が,遠い向こうの方にみえています。ある日の授業で,国語の教科書の「浦島太郎」の物語を勉強して,つぎの時間は,その物語の中の一節を「絵」にしなさい,という課題がでました。
絵は嫌いではなかったので,夢中になって描きました。でも,完成しないうちに時間がきてしまいました。それでも提出しなさいと先生が仰るので,持っていきました。ところが,絵の一節となる文章がまだ書いてありませんでした。先生が,「急いで,ここで書きなさい」と仰るので,教科書も見ないで記憶だけで書き込みました。
それが「おや,だれかとおもったら,この門のかめんだわ」という次第です。慌てて書いたものですから,二カ所に,誤字・脱字があります。それは「門」は「間」の間違い,「かめんだわ」は「かめさんだわ」で「さ」が脱字。正しくは,「おや,だれかとおもったら,この間のかめさんだわ」となります。
ところが,先生はなにをおもったのか,この絵を教室のうしろの掲示板に張り出しました。全部で3人の生徒の絵が張り出されました。まあ,比較的うまく描けた絵を張り出したのでしょう。ですから,わたしとしては得意満面でした。3人のなかに選ばれた,と。このときは,まだ,このような誤字・脱字があるということを,わたし自身が知らないでいました。たぶん,先生も気づいていなかったのではないかとおもいます。
この絵を,なぜか,たまたまわたしの教室を通りがかった次兄(4年生)がみて,その日の夕食どきにこの絵を話題にしました。しかも,いきなり「この門のかめんだわ」というのはなんなんだ,と詰問です。わたしは,なんのことやらさっぱりわからず,呆然としていました。しかし,次兄は「わけのわからん文章を書いて,それが張り出されている。恥を知れ」というわけです。でも,なんのことかわたしにはわかりません。
翌日,教室に入って真っ先に自分の描いた絵をみました。「アッ」とおもわず声を出してしまいました。顔から火がでる,とはこのことです。もう,恥ずかしくて恥ずかしくて,友だちに顔向けもできません。しかし,クラスメイトのだれ一人として,わたしの絵の間違いのことは話題にもしません。たぶん,だれもしっかり読んではいないのでしょう。
それをいいことにして,休み時間にみんな校庭に飛び出して行って,だれも居なくなるのを待って,大急ぎで「門」を「間」に,「かめんだわ」を「かめさんだわ」に直しておきました。それでも,教室ではなんの話題にもならないまま,過ぎていきました。
こうして,教室では,先生も友だちもなんの問題もなく,平穏に終わりました。
しかし,次兄からは,その後も折あるごとに「この門のかめんだわ」を話題にされ,わたしを冷やかします。それが,いまも続いています。法事などがあって,大勢の人が集って会食するときなどに,酒もほどほどにまわってきたころになると,これを話題にし,兄貴風を吹かせます。ですから,親戚中,この話を知らない人はいないほどです。いまは,もう,どんな風にからかわれようと,どうということはありません。が,かなりの年齢になるまでは,いやな奴だ,いつまでも・・・,と腹におもっていました。
どこかにしこりが多少は残っているのでしょうか。ふと,なんの脈絡もなく,このときのことが脳裏をよぎります。そして,こんなことがあったなぁ,という懐かしさと,くそっ,この野郎,いまにみてろ,とこころに誓って臥薪嘗胆,40歳をすぎたころから,ずいぶんと頑張って勉強したことを思い出します。こういう「負荷」を与えられて初めて発奮することもある,と感謝することすらあるのですから,兄弟というものは不思議なものです。
最近の次兄が酔いにまかせて吐くセリフは,「こんにち,お前があるのは,だれのお蔭だとおもっとるのか」というものです。わたしはなんの抵抗もなく,「はいはい,お兄様のお蔭でございます」と馬鹿丁寧に応答します。それでその場の笑いがとれればそれでおしまい,というわけです。
こどもが成長するにあたって受ける刺激(情報)のうち,なにがよくて,なにが悪いのか,こればっかりは個人差があって決められるものではありません。まあ,わたしなどは運がよかった,というべきかもしれません。このほかにも,いま,考えてみれば,ずいぶん酷い扱われ方をしたことが,子ども時代にはありました。そのために,一時は引き籠もりになり,口もきかないでいたこともあります。いまでは,だれも信じてはくれませんが・・・・。
その中の一つ。赤っ恥をかいて,顔から火がでそうになった思い出。
1945年の初夏。敗戦直前の,国民学校2年生のときのこと。戦時中は小学校とはいわず,国民学校と呼んでいました。新しい担任の先生ともなじんできて,授業がとても楽しかった記憶が,遠い向こうの方にみえています。ある日の授業で,国語の教科書の「浦島太郎」の物語を勉強して,つぎの時間は,その物語の中の一節を「絵」にしなさい,という課題がでました。
絵は嫌いではなかったので,夢中になって描きました。でも,完成しないうちに時間がきてしまいました。それでも提出しなさいと先生が仰るので,持っていきました。ところが,絵の一節となる文章がまだ書いてありませんでした。先生が,「急いで,ここで書きなさい」と仰るので,教科書も見ないで記憶だけで書き込みました。
それが「おや,だれかとおもったら,この門のかめんだわ」という次第です。慌てて書いたものですから,二カ所に,誤字・脱字があります。それは「門」は「間」の間違い,「かめんだわ」は「かめさんだわ」で「さ」が脱字。正しくは,「おや,だれかとおもったら,この間のかめさんだわ」となります。
ところが,先生はなにをおもったのか,この絵を教室のうしろの掲示板に張り出しました。全部で3人の生徒の絵が張り出されました。まあ,比較的うまく描けた絵を張り出したのでしょう。ですから,わたしとしては得意満面でした。3人のなかに選ばれた,と。このときは,まだ,このような誤字・脱字があるということを,わたし自身が知らないでいました。たぶん,先生も気づいていなかったのではないかとおもいます。
この絵を,なぜか,たまたまわたしの教室を通りがかった次兄(4年生)がみて,その日の夕食どきにこの絵を話題にしました。しかも,いきなり「この門のかめんだわ」というのはなんなんだ,と詰問です。わたしは,なんのことやらさっぱりわからず,呆然としていました。しかし,次兄は「わけのわからん文章を書いて,それが張り出されている。恥を知れ」というわけです。でも,なんのことかわたしにはわかりません。
翌日,教室に入って真っ先に自分の描いた絵をみました。「アッ」とおもわず声を出してしまいました。顔から火がでる,とはこのことです。もう,恥ずかしくて恥ずかしくて,友だちに顔向けもできません。しかし,クラスメイトのだれ一人として,わたしの絵の間違いのことは話題にもしません。たぶん,だれもしっかり読んではいないのでしょう。
それをいいことにして,休み時間にみんな校庭に飛び出して行って,だれも居なくなるのを待って,大急ぎで「門」を「間」に,「かめんだわ」を「かめさんだわ」に直しておきました。それでも,教室ではなんの話題にもならないまま,過ぎていきました。
こうして,教室では,先生も友だちもなんの問題もなく,平穏に終わりました。
しかし,次兄からは,その後も折あるごとに「この門のかめんだわ」を話題にされ,わたしを冷やかします。それが,いまも続いています。法事などがあって,大勢の人が集って会食するときなどに,酒もほどほどにまわってきたころになると,これを話題にし,兄貴風を吹かせます。ですから,親戚中,この話を知らない人はいないほどです。いまは,もう,どんな風にからかわれようと,どうということはありません。が,かなりの年齢になるまでは,いやな奴だ,いつまでも・・・,と腹におもっていました。
どこかにしこりが多少は残っているのでしょうか。ふと,なんの脈絡もなく,このときのことが脳裏をよぎります。そして,こんなことがあったなぁ,という懐かしさと,くそっ,この野郎,いまにみてろ,とこころに誓って臥薪嘗胆,40歳をすぎたころから,ずいぶんと頑張って勉強したことを思い出します。こういう「負荷」を与えられて初めて発奮することもある,と感謝することすらあるのですから,兄弟というものは不思議なものです。
最近の次兄が酔いにまかせて吐くセリフは,「こんにち,お前があるのは,だれのお蔭だとおもっとるのか」というものです。わたしはなんの抵抗もなく,「はいはい,お兄様のお蔭でございます」と馬鹿丁寧に応答します。それでその場の笑いがとれればそれでおしまい,というわけです。
こどもが成長するにあたって受ける刺激(情報)のうち,なにがよくて,なにが悪いのか,こればっかりは個人差があって決められるものではありません。まあ,わたしなどは運がよかった,というべきかもしれません。このほかにも,いま,考えてみれば,ずいぶん酷い扱われ方をしたことが,子ども時代にはありました。そのために,一時は引き籠もりになり,口もきかないでいたこともあります。いまでは,だれも信じてはくれませんが・・・・。
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