2012年9月23日日曜日

おめでとう!日馬富士!ついに掴んだ「綱」の夢。さあ,これからだ。大横綱への道。

 大相撲史上に残る名一番を制してみごと二場所連続全勝優勝をはたし,横綱になるための条件をすべてクリア。あとは,正式発表を待つのみ。文句なしの横綱昇進。おめでとう!日馬富士!

 日馬富士,白鵬ともに死力をつくしての大一番。久し振りに血が逆流するほどの素晴らしい相撲をみせてくれた。この両者に大きな拍手を送りたい。勝った日馬富士は,白鵬を投げたあとも一緒に倒れこみ,しばらく立ち上がれなかった。そして,呼吸を整えると,いつもの最後の仕切りのように両手をついて頭を土俵すれすれまで下げて,額を土俵につけた。でこちんに土俵の砂がべっとり。全勝優勝を叶えてくれた土俵への日馬富士の感謝の気持の表明である。

 二場所全勝優勝して横綱に昇進したのは,双葉山,貴乃花につづいて3人目の偉業。大横綱への道を切り開くみごとなものである。

 この大一番,勝ち負けを度外視して,日馬富士がどんな相撲をとるのか,そこだけをわたしは注目していた。白鵬に勝つための相撲は,もはや手の内にある。その勝つための相撲の手順を封印して,今日は真っ向勝負にでた。これが嬉しかった。日馬富士もまた勝負を超越していたのだ。「なる者はなる。ならない者はならない」と信じて。「やるべきことはやった。あとは運命が決する」と自己の外に身をおいた。天の力を確信して。

 立ち合い,両者ともに真っ正面から激しく当たり合い,お互いに右を差した。しかし,両者ともに左の上手がとれない。一呼吸おいたところで日馬富士が左の巻き替えにでた。その瞬間,白鵬も左を巻き替えていた。しかし,日馬富士の左は肩まで入ったのに対して,白鵬の左は浅かった。日馬富士はその白鵬の左を右で上手をつかみながら挟み付けるようにして絞り上げた。苦しくなった白鵬は左の差し手を抜いた。その結果,日馬富士は双差しとなった。

 ここで勝負あった,というところ。しかし,白鵬もそうは簡単に負けるわけにはいかない。日馬富士が左から投げを打って白鵬の体勢をくずしておいて,がぶって寄ってでる。白鵬はずるずる後退し,俵に足をかけて必死で寄り返す。体を入れ換えて,なおも日馬富士が寄りをみせる。ここでも白鵬は渾身の力で踏ん張った。その瞬間,日馬富士が右から下手投げを打つ。白鵬はたたらを踏むようにしてその投げをこらえたが,土俵を一周したところで,ついに土俵に落ちた。

 長い相撲だった。見応えのある相撲だった。両者ともにすべての力を出し切った,そんな相撲だった。こんなにみごとな攻防のつまった相撲を久し振りにみた。この両者の渾身の力の入った相撲展開は「名勝負」として,長く相撲史に残るだろう。

 しかし,終わってみれば日馬富士の一方的な相撲でもあった。白鵬はひたすら守勢に回らされた。この相撲をみて,わたしは,日馬富士ははっきりと白鵬を越えたと確信した。白鵬も,もはや,真っ向勝負では日馬富士には勝てないことを知ったはずである。となると,来場所からは白鵬は奇襲戦法を繰り出すしかない。それに対して,日馬富士はどのように応戦するのだろうか。奇襲戦法なら日馬富士の方が一枚上手だ。これまでは白鵬にからだ負けしていたので,できるだけお互いの間合いをとって,そのわずかな間隙を縫うようにして勝機を見出す,これが日馬富士の相撲だった。が,もはや,その必要はなくなった。こんどは白鵬の方が仕掛けてくる。それでも,スピードに勝る日馬富士は有利だ。となると,白鵬はよほどのことがないかぎり日馬富士には勝てない。

 そのことを実証するような大一番でもあった。

 表彰式では,賜杯に,やはり「でこちん」を何回もつけていた。喜びと感謝の意志表明だ。よほど嬉しかったのであろう。それを密かに,ほとんどの人に気づかれないように,それでも自分の気持を賜杯に伝えていた。賜杯を受け取り,一礼するときの姿勢も,きちんとしていて美しい。立派な力士となった証である。

 優勝インタヴューも素晴らしかった。
 「先祖と両親に,このからだ,このこころを与えてくれたことを感謝したい」
 「全力を絞り出すようにして,一番一番,全身全霊を籠めた」
 「いい親方に出会い,いい先輩力士にめぐまれ,わたしは幸せ者です」
 「応援してくださったみなさんにこころから感謝しています」
 「これからも感動と喜びと勇気を与えられるような立派な相撲をとるよう頑張りますので,よろしくお願いします」
 と,大きな声で,ことばを選びながら宣言。そこに涙はなかった。意志の強い人だと思った。ここでも冷静だった。

 日馬富士の強さの秘密は,足腰のバネのよさ,スピード,相撲勘のよさ,そして,この一番に賭ける集中力の高さ,しかも,冷静さを失わない,ところにある。加えて,からだが一回りも二回りも大きくなったこと,肩のあたりの筋肉の盛り上がりは先場所にはなかったものだ。

 出を待つときに花道の奥で,2,3回両足で跳び上がる準備運動をしてから入場する。その跳躍の高さ,軽やかさをみて,わたしは驚愕した。これは力士の跳躍力ではない。陸上競技のアスリートのものだ。

 この足のバネのよさが,今日の大一番の最後の最後の右下手投げの連続技となってでてきた。そのわずかなバネの差が明暗を分けた。白鵬の桁違いのバネのよさが,土俵を一周するまで,その投げをこらえさせたが,紙一重のバネの差で日馬富士は勝利の女神を呼び込むことになった。そして,白鵬が土俵に落ちたとき,すでに,日馬富士に立っている余力はなかった。

 解説をしていた元舞の海が名言を吐いた。「相撲は体重でとるものではないということを実証してくれた」「他の力士たちの手本となった」「この功績は大きい」と。

 これまで何回も怪我に泣かされてきた日馬富士。もっともっと,怪我をしないからだに仕立てあげて,後世に残る名横綱になってほしい。君ならできる。そして,朝青龍の名誉を挽回してやってほしい。

 おめでとう!日馬富士!バンザイ!

0 件のコメント: