2012年2月18日土曜日

『核のある世界』未来を切り開くために(西谷修・中山智香子編)がとどく。

昨日(17日)の夜,寒さにふるえながらいつものように事務所から家にもどったら,西谷修さんから科学研究費による報告書がとどいていた。題して,ドキュメント2008/2011『核のある世界』未来を切り開くために(西谷修/中山智香子編)。協力:広河隆一,萱野稔人,土佐弘之,七沢潔。

この報告書は,全体が三部構成になっている。
第一部は,シンポジウム「核と未来」(2011年7月16日,於・東京外国語大学研究講義棟226教室)の載録。ゲスト:広河隆一,萱野稔人,討論者:土佐弘之,西谷修,中山智香子。
第二部は,座談会「アフター・フクシマ」(2011年8月11日,於・『DAYS JAPAN』事務所)。座談者:広河隆一,西谷修,中山智香子。
第三部は,シンポジウム「核と現代」(抄録)(2008年7月12日,於・東京外国語大学事務棟中会議室)。抄録執筆者:七沢潔,土佐弘之。

第一部と第二部は,東京外国語大学クローバル・スタディーズ・ラボラトリー(GSL)が,科学研究費補助研究(B)「生命統治時代の<オイコス>再考とポスト・グローバル世界像の研究」(代表:西谷修)による研究の一環として,2011年3月11日の東日本大震災とそれに始まる東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け,7月16日(土)に開催したシンポジウム「核と未来」と,8月11日に開催した座談会「アフター・フクシマ」を載録したものである。

第三部は,前の科学研究費にもとづくシンポジウム「核と現代」のうち,第一部・第二部に連動する内容で,しかもきわめて重要と思われる七沢潔さんの報告「被ばく・その隠蔽と忘却~あるいはメディアの不能について」と土佐弘之さんの報告「リスク/ハザードの配分とポストコロニアリズム」を収録したものである。

この報告書の趣旨は,西谷修さんの「はしがき」によれば,以下のとおりである。
本研究は,グローバル化した世界で,国家横断的な政治的統治が個々の人間の生命レヴェルにまで及ぶ今日,人間を生かし社会を機能させるとみなされる普遍的活動としての「経済(オイコーノミア)」を,上からの管理と調整の観点ではなく下からの具体的生存の場面からもう一度問い直すこと,また,その問い直しを通じて既成のグローバル世界秩序を組み替える,ありうべき世界像を模索するということを課題にしている。

さらに,つぎのようにつづく。
この研究は,とりわけ2008年の世界金融危機といわゆる「テロとの戦争」の破綻とをきっかけとして組まれたものであり,その意味では東日本大震災や福島第一原発事故の以前から,現代世界にとっての喫緊の課題になっていた。そこに,二つの(いや一つの)出来事はその緊急性をさらに高めるものとして出来したのである。3月11日以来多くの人びとは,日本は(あるいは,世界は)もはやこれまでと同じではありえないと感じてきた。その具体的な内容については別稿に譲るが(西谷修「近代産業文明の最前線」『世界』2011年5月号,「”自由”のもたらす破壊と荒廃,ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』に寄せて」『世界』2011年10月号などを参照されたい),「千年に一度」と言われたこの大災害があらわにしたのは,近代二百年の技術・産業・経済システムの行き詰まりと破綻であり,その延命を支えてきた核エネルギー利用の危うさだった。

このあとにも西谷さんによる「はしがき」には重要なことが書かれているが,長くなるので,このあたりで割愛。あとは,この報告書を手にとって確認してみてください。

わたしのような人間でも,もはや,「3・11」以前の社会にもどることはできない,と痛切に考えています。また,もどってはいけない,とも考えています。「3・11」以前の,どこが,どのように間違っていたのか,そこをきちんと検証した上で,「3・11」以後の社会のあり方を模索していくことが,いま,わたしたちに課された喫緊の課題である,と。

もちろん,わたしの場合には,それをスポーツ史研究やスポーツ文化論という領域で考え,あらたな提案をしていこうというわけです。その一つが,最近,書いたばかりの「スポーツ学」(Sportology)の提唱です。その内容については,これから追々,書き加えていきたいと考えています。そのためにも,この西谷さんが送ってくださった『核のある世界』未来を切り開くために,は必読の書というわけです。

また,いつか,この本を読んで,「ISC・21」の月例研究会などでみなさんと一緒に議論をしたいと思っています。

今日のニュースでは,またぞろ経団連のお偉方たちが民主党政権に圧力をかけて,原発再稼働に向けて舵を切ろうとしています。その一方では,福島原発の第4発電所の直下で大地震が発生する確率がきわめて高いことを実証する論文が国際学会誌に掲載され,強い警告を発している,といいます。

時々刻々と,信じられないことばかりが起きています。ここは,なにがなんでも,一度,原発を止めて,原発だけではなく,わたしたち自身の頭も冷やして,つぎなる方法を模索していくしかない,とわたしは考えています。

なお,この報告書は,市販はされていません。もし,興味・関心のある方は,直接,東京外国語大学に問い合わせるなり,わたしのところに連絡してください。とりもちます。

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