2012年10月23日火曜日

孫崎享論文「尖閣問題 日本の誤解」(『世界』11月号)がお薦めです。

 『世界』(岩波書店)11月号が,「尖閣問題」東アジアの真の平和のために,を特集しています。そして,中江要介,孫崎享,小林陽太郎,朱建栄,羽根次郎,姜誠,坂本義和,といった錚々たる論客が素晴らしい論考を展開しています。すでに,さまざまなメディアをとおして,さまざまな意見が披瀝されていますが,そのほとんどはわたしの失望を誘うものばかりでした。なかには,失笑をかってしまうほど稚拙な見解を(盲信というべきか),堂々と述べ立てる論客もいて困ったものだと思っていました。ですから,この『世界』11月号の特集は,たいへん役に立ちました。

 もう,ずいぶん前のブログに,わたしの記憶では,たしか,尖閣問題は「棚上げ」になっていたはずと書きました。そうしたら,『世界』10月号で河野洋平氏が「棚上げ」になった経緯について詳しく論じていることがわかり,ほっとしました。しかも,この「棚上げ」論は,日本の実効支配を認めるという点で中国側の驚くべき(当時)譲歩であった,とも論じています。間違っていなくてよかった,と安堵の胸をなぜおろしました。

 にもかかわらず,この「棚上げ」論を忘れてしまったかのように,日本の政治家たちを筆頭に,ほとんどの評論家たちもみんな,尖閣に「領土問題」は存在しない,日本固有の領土である,と口を揃えて平然としています。日本共産党の志位委員長さえもが,国際法上も日本固有の領土だと主張しています。メディアもそれらの情報をそのまま垂れ流しています。ですから,日本国民の大多数も,尖閣は日本固有の領土だと信じて疑わなくなってしまっているようです。しかも,日本政府は強行姿勢をくずそうとはせず,中国との外交交渉に入ろうともしません。ですから,事態はますます悪化の一途をたどろうとしているように見受けられます。困ったものです。

 このままでは,中国も引くに引けないでしょう。ですから,とことん自分たちの主張を貫こうとしているように思います。この問題は,なすすべもなく,だらだらと長期化していくことでしょう。まったく解決の糸口も見出せないままに。のみならず,場合によっては,やっかいなことになりかねません。すでに,自衛隊まで出動させて,力づくで「国有化」を押し進めようというのですから。

 わたしは単純に,尖閣に関しては,日本側のルール違反であり,一方的な約束破棄だと考えています。いわゆる日中友好条約を締結したときの紳士協定である「棚上げ」論が守られてきたからこそ,日中の「友好」がここまで進展してきたのではなかったでしょうか。その「40年」の節目の年に,なんの外交交渉もなく,突然,「国有化」などということを言い出したのは日本政府です。ほんとうに,いまの政府はなにをやりだすかわかったものではありません。やることが,思いつき,衝動的で,まるで子どもじみています。困ったものです。

 そのように考えていましたので,『世界』11月号の特集はとても役に立ちました。とくに,孫崎享論文「尖閣問題 日本の誤解」(P.86~92.)が,わたしにはもっとも納得のいく論考でした。詳しい内容については,ここでは触れることはできませんが,ピン・ポイントで問題の所在を紹介しておけば以下のとおりです。

 孫崎氏は,「1945年8月14日,米国,英国,ソ連,中国に対し『天皇陛下ニオカレテハ”ポツダム”宣言ノ条項受諾ニ関スル詔書ヲ発布セラレタリ』との通告を関連在外公館に発出した。”ポツダム”宣言受諾が戦後日本の出発点である。かつ1945年9月2日の降伏文書には,『ポツダム宣言ノ条項ヲ誠実ニ履行スル』と記されている。」と述べた上で,さらに,つぎのように加えています。

 「このポツダム宣言は第8項において,『カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルベク又日本国の主権は本州,北海道,九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島に局限セラルベシ』となっている。」

 ここから説き起こして,さらにカイロ宣言の内容に立ち入り,その上で,日本が尖閣諸島を自国領とした経緯(外務省『尖閣諸島に関するQ&A』)を紹介し,加えて,中国側の主張(『北京週報1996年No.34,「釣魚島に対する中国の主権は弁駁を許されない」)を紹介しています。

 このさきの論考は,ぜひ,本文に当たってみてください。まだ,書店に並んでいますので,どうぞ,手にとってご覧になってみてください。孫崎氏の,このあとの論考を「小見出し」で紹介しておきますと,以下のとおりです。

〇尖閣に「領土問題はない」のか?
〇「係争地」にどう対応するか
〇「米軍参戦」をめぐるトリック
〇米国が傾く「第三の選択」とは

 以上です。眼からうろこが落ちるような分析と,それを裏付ける論拠とが,つぎからつぎへと展開しています。まことに説得力のある,素晴らしい論考だと,わたしは受け止めています。こういう論者をなぜマス・メディアは無視するのでしょうか。真実により深く接近する論考こそが,いまの日本政府および日本人には不可欠です。にもかかわらず,一方的に「わが国固有の領土である」で押し切ろうとしています。しかも,中国側は国際司法の場で議論をと提案しているにもかかわらず,日本側は拒否しています。これも情けない姿ではないでしょうか。(韓国との領土問題では,まったく逆の立場をとっているにもかかわらず・・・・)

 わたしの現段階での立場は,以下の二つです。
 1.もう一度,「棚上げ」論に立ち返って,仕切り直しをすること。実効支配が長くつづけば,その 実績によって国有化への道が開かれるのだから。
 2.でなければ,国際司法の場で堂々と決着をつけること。こちらは,どうやら日本に勝ち目はなさそうだ。そのことは日本政府がもっともよくわかっているはず。

 このままの状態を,いつまでもずるずると続けていてはならないことは,みんなわかっているはずです。目先の利害に走ることなく,長期的な視野に立つ決断が必要なことも,みんなわかっているはずです。そういうことも含めて,孫崎論文をぜひ一度,読んでみてください。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

>「棚上げ」論は,日本の実効支配を認める

それなら、石原都知事や政府による所有権購入の動きも、中国側にとって別に文句をいうことではないはずですよ。

中国の本当の意思は、イギリスによる香港支配ど同様、いずれ尖閣諸島を「回収する」ことにあります。そうじゃなければ、ここまで中国は騒がないはずです。

中国にとって、香港の場合は1997年の租借期限がありました。しかし、尖閣の場合は中国による実力行使意外に回収の手段がありません。

だから、実力付くまで回収できないという意味での「棚上げ」じゃないんでしょうか?そう理解したほうが自然に思えますが?