2012年10月28日日曜日

今福さんのイベント:トークとピアノの工房<レヴィ=ストロース 夜と音楽>に行ってきました。

 素晴らしいイベントでした。いや,初めての体験でした。ですから,驚きと感動と新たな発見でいっぱいでした。加えて,いま考えつづけている「スポーツを批評する」という企画本についての新しいアイディアもいっぱい湧き出てきて,大満足でした。よし,これで行けると背中を押されたように思いました。あとは,これまでに溜め込んであるメモをもう一度,整理すれば,いよいよ執筆に向けてGOというわけです。

 考えてみれば,この体験には「前奏曲」というか,「序曲」がありました。ことしの夏の「第2回日本・バスク国際セミナー」(8月6日~9日)からずっと鳴り響いている「音」があって,その「音」の延長線上に位置づくもののように思います。その口火を切ったのが,8月6日(月)の国際セミナーの冒頭でなされた今福さんの特別記念講演でした。それも一人二役で,スペイン語で話したことを日本語に直してくれるという,これも初めての体験でした。その直後に,わたしが基調講演をするというプレッシャーの極に達する経験がありました。そして,残り3日間は,日本・バスクの研究者たちによるプレゼンテーションとディスカッションがありました。その最後の締めくくりに,西谷修さんが「グローバル化と身体の行方」とう特別講演をしてくださいました。この講演がまたことのほか大きな衝撃をもたらすものとなりました。その骨子は,西洋近代をとおして,どのように「グローバル化」が進展し,それとともに「身体」はどのように変化・変容してきたのか,ということをじつにわかりやすく,単純明解に提示してくれるものでした。

 その後も,今福さんが主宰する奄美自由大学(9月7~9日)での奄美の島々でのめくるめくような体験があり,さらには「アフター国際セミナー」(10月13日)での西谷修さんを囲む会での,またさらに新しい世界に踏み出す弾み車となる,稠密な時間の経験がありました。ですから,わたしの頭も身体も,今福さんと西谷さんという偉大なる「作曲家」兼「演奏家」による「音」の世界にどっぷりと浸りこんでいます。いってみれば,四六時中,わたしの耳にはいつでもお二人の音楽が鳴り響いています。

 その上での昨日の体験でした。一触即発といってもいいほどのレディネスがあったのも事実です。そこに,素晴らしいピアノの演奏と小沼純一vs今福龍太両氏によるじつに味わいのあるトークとが,みごとに絡み合い,不思議な時空間を醸しだしていました。ですから,あっという間に,レヴィ=ストロースの<夜と音楽>の世界に誘導され,丸裸にされたような感覚のなかで浮游しているわたしがいました。こうなれば,あとは,この「場」の力学に誘われるようにして新しいアイディアがつぎつぎに浮かんでくるだけです。

 「スポーツを批評する」,つまり「スポーツ批評」。そこへの第一歩をどのようにして踏み出すか,いまひとつ踏ん切りがつかないでいました。もう,単行本企画の構想のほとんどはできあがっているのですが,あとひとつ,背中を押すものが欲しかったのです。それが,昨日の今福さんのイベントで果たすことができた,という次第です。もう,あとは迷わず「離脱と移動」(西谷修)に向けて走りだすのみです。

 ちなみに,昨日のイベントのプログラムを紹介しておきますと,以下のとおりです。

 トークとピアノの工房<レヴィ=ストロース 夜と音楽>

 対話 今福龍太×小沼純一
 ピアノ 内藤晃

I レヴィ=ストロースと音楽家たち
 ショパン 練習曲作品10第3番「別れの曲」
 サティ 「ジムノペディ 1番」
 ラヴェル ピアノ編曲版「ボレロ」他

II レヴィ=ストロースのブラジル
 ダリウス・ミヨー 『ブラジルの郷愁』より「ソロカーバ」「ガヴェア」
 エイトール・ヴィラ=ロボス 「ブラジル風バッハ 第4番」Prelude

III レヴィ=ストロースの神話論理と音楽的主題
 バッハ「パルティータ第4番」序曲
 バッハ「ゴルトベルク変奏曲」より
 ドビュッシー「音と香りは夕暮れの大気に漂う」他

日時:10月27日(土)15:00~18:00(開場14:30)
場所:日仏会館ホール(恵比寿駅下車徒歩10分)

 最後にピアノを演奏してくださった内藤晃さんにひとことお礼を。ピアノの音がこんなにもさまざまな表情をするものだ,ということを初めて知りました。まことに弱々しい頼りない音から夢幻に誘う音,そして剃刀のように切れ味鋭い音,さらに直近に落雷があったかとびっくりするような轟音,いやはや,驚くべきわたしの初体験のはじまりでした。いつもは舞台の上で,かなりの距離をおいて聞くことになるリサイタルしか経験がなかったものですから,びっくりしました。この日は,今福さんのアイディアもあって,舞台の上ではなく,聴衆と同じフロアにピアノをセットしてあったからでしょうか。じつに,繊細な音の変化を聞き取ることができました。しかも,内藤晃さんの演奏が抜群にいい。早速,CDを探しに行こうと思っています。

 この日,わたしがどのようなアイディアを頂戴したかは,これから書くことになる本のなかで明らかにしたいと思います。

 それにしても素晴らしいイベントを,今福さん,ありがとうございました。
 登山へのお誘い,赤道直下でのサッカー対決,できるだけ早い時期に実現させたいと思います。よろしくお願いいたします。

1 件のコメント:

Akira さんのコメント...

稲垣さん、メッセージをありがとうございます。昨日はお陰様で愉しいアトリエになりました。ホールではない、至近距離で音楽の創造の瞬間を皆で共有できる空間も、スリリングでわたしは好きです。是非またお目にかかれればと思います。