2014年3月27日木曜日

「横綱の名を汚さぬよう,一生懸命努力します」(横綱鶴竜口上)。いいですねぇ。完璧。

 Simple is the best.




 さすが鶴竜ですねぇ。どんな口上になるのだろうかと楽しみにしていましたが,ここでも「平常心」を貫きました。それでいてどこにもスキがありません。完璧です。余分なことは一切言わず,さりとて言うべきことはきちんと言って,みごとな決意表明になっています。この口上に,鶴竜のすべてが凝縮している,とわたしは受け止めました。そして,感動しました。


 大関になったときの口上は以下のとおりです。
 「これからも稽古に精進し,お客さまに喜んでもらえるような相撲を取れるよう努力します」でした。じつに素直に自分の気持を表出させたみごとなものでした。このときの感動はいまも忘れることができません。そのことについては,このブログにも書いたとおりです。


 そして,横綱になったときの口上は以下のとおりです。
 「これからより一層稽古に精進し,横綱の名を汚さぬよう一生懸命努力します」でした。鶴竜の選んだ四文字熟語は「一生懸命」でした。このことばを知らない日本人はいません。そのもっとも分かりやすい,しかも鶴竜自身にとってもっとも大事な「座右の銘」を口上に盛り込みました。16歳で日本にやってきて,このことばの意味を覚えたときから,つねにこのことばを支えにして,入門からこんにちまで厳しい稽古に耐えてきました。つまり,鶴竜にとっての横綱口上は,これまでの生き方をそのまま延長させていく,その決意表明をしようという気持の籠もったものになった,ということなのでしょう。そして,それしかないという究極の選択でもあったというわけです。


 ここにも,鶴竜がつねづねことばにするもうひとつの座右の銘「平常心」がそのまま表出しています。火のように燃える情熱をこころの奥深くに秘め,ふだんの顔は童顔のままニコニコと笑い,土俵の上では明鏡止水を思わせるような静かな表情をみせ,そして,ときには込み上げる感情を押し殺した哀しげな表情もちらりとのぞかせる(千秋楽で琴奨菊を寄り切ったときの顔,北の湖理事長から優勝賜杯を受けとったときの顔,優勝インタヴューの途中でちらりとみせた感極まったときの顔,など)。さらに極めつけは,鶴竜の細い眼。これは,かれの内面をいっさい押し隠したまま,なにを考えているかも相手には察知させない,まさに勝負師のまなざし。それだけにニコッと笑ったときの童顔が印象的。これもまた「あるがまま」。


 多くの先輩力士たち(寺尾,旭天鵬,など)が証言するように,「あいつは最初に会ったときからいままで少しも変わってはいない。むかしからもの静かで,邪魔にならない。それでいてとても気配りのできる優しいこころの持ち主。しかも,稽古はだれにも負けないほど気持をこめて熱心に取り組む。いい奴ですよ」,と。言ってみればだれからも愛される人格者。


 爪先立ったところがどこにもありません。つねに,あるがまま。それでいて,いま,なにをしなくてはならないのか,をじっくりと考え,それをコツコツと実行していく。そして,自分の納得できる方法で「自己を超え出ていく」ための努力を惜しまない。それが鶴竜のいう「一生懸命」なのでしょう。まことに地味な存在ですが,そこにはだれも真似のできない,自律/自立した力士の立派な姿が浮かび上がってきます。


 「理想とする横綱像は?」と聞かれ,鶴竜はそっけなく「自分は自分ですから」と肩すかしをくわせた上で,「ほかの力士から尊敬される存在になりたい」とことば少なに応答しています。すでにして,鶴竜は世俗の関心事には眼もくれず,みずから求める力士の理想像を思い描き,そこに向かってまっしぐら,という印象を受けます。そこにみえてくるのは,まさに「求道者」の姿です。


 その意味で,これまでの横綱とは一味違う,まったく新たな横綱の誕生をわたしは予感しています。もちろん,まだ,多少の浮き沈みはあるでしょうが,やがては,もう一回りも二回りも大きなからだと,もう一つ次元の異なる「平常心」をわがものとした暁には,もはや,だれにも負けない「大横綱」となることでしょう。いままでみたことのない立派な横綱の誕生をわたしは心待ちにし,いまから楽しみにしています。そして,鶴竜ならできる,と。


 来場所からの鶴竜の相撲に注目です。そして,その取り口が他の力士たちに与える影響を,じっくりと楽しみたいと思っています。たとえば,白鵬の相撲が・・・・・。そして,大相撲の世代交代が・・・・。こうした予言はいつかまた書いてみたいと思っています。


 とりあえず,今回は,横綱・鶴竜力三郎(本名・マンガラジャラブ・アナンダ)の誕生をこころから言祝ぎたいと思います。おめでとう!アナンダ!


 ※アナンダは,お釈迦様の10大弟子のひとりで,もっとも賢くてお釈迦様がもっとも頼りにしていた人の名前と同じです。

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