2012年3月22日木曜日

ウォーキング・シューズは軽い方がいいのか?わたしは重いチロリアン・シューズ愛好者。

新聞などの広告をみていて気になることがいくつかあります。そのうちのひとつは,ウォーキング・シューズの軽さを強調する広告が多いことです。いつから,シューズは軽い方がいいということになったのでしょうか。しかも,ウォーキングという一種のトレーニングのために履くシューズが軽さを競っているという現状が,いまひとつ納得がいきません。

トップ・アスリートたちが,たとえば,短距離の100mランナーの履くシューズをどれだけ軽くすることができるか,とシューズ・メーカーたちはその技術の粋を結集している,という話はかなり前から聞いてはいました。その当時は,まあ,そんなものなのかなぁ,くらいの意識でしかありませんでした。

しかし,よくよく考えてみると,短距離ランナーたちは間違いなく筋肉もりもりの選手ばかりです。あの筋肉の固まりのような肉体の保持者たちが,シューズの重さがわずかに100グラム軽くなったからといって,スピード・アップにつながるものなのでしょうか。わたしにはちょっと信じられません。でも,選手たちがそれを望んでいるとしたら,経験的にそういうことがわかっているか,あるいは,それを証明するようなデータがでているのでしょう。

だからといって,ウォーキング・シューズを軽くするのはいかがなものでしょうか。発想としては,長距離ランナーと同じで,下からの衝撃を吸収するための靴底の柔らかさ・厚さと軽さとのバランスが求められるのは,よくわかります。しかし,ウォーキングは競走ではありません。むしろ,健康の保持増進のなめのトレーニングの一種です。だとしたら,からだに一定の負荷をかけることの方が重要なのではないでしょうか。

もちろん,年齢や性差,脚力や体力に応じて,シューズの重さを調整することは必要でしょう。そのときの基準は「軽さ」ではなく「重さ」ではないでしょうか。

日本の伝統的な武術家のなかには,鉄の下駄を履いて,日常的に脚力を鍛えている人が少なからずいます。わたしも若いころに憧れて,鉄ではなく,ホウバの下駄を履いていたことがあります。要するに厚い板でつくられた高下駄のことです。わたしの地方では「サッチョロ」と呼び習わしていました。この高下駄を履いて,カランコロンと音を響かせながら歩くことが,高校生の間では流行していました。もちろん,校則では禁止されていました。いま考えてみますと,脚筋力のトレーニングというよりは,むしろ,バランス感覚のトレーニングには役立ったように思います。姿勢や歩行もきちんとしていないと,この下駄を履きこなすことは難しかったと思います。がに股矯正には大いに役立ったと思います。

いま,流行りのウォーキングはトレーニングの一種ですので,本格的に取り組んでいる人たちは,両手にダンベルを持って,腕を振りながら歩いている姿をみかけます。たぶん,ダンベルの重さは個人差に合わせているはずです。なのに,シューズを軽くする,というメーカーの発想がいまひとつ合点がいかない,という次第です。

わたしは,学生時代に山登りを覚え,そのころから,日常的にはチロリアン・シューズを履くようになりました。イタリア製の,しっかりした牛皮に登山靴と同じビブラム製のゴム底を張った,ずっしりと重いシューズです。ですから,ショックを吸収するどころか,着地のときの衝撃がそのまま伝わってくる,かなり乱暴な靴です。その靴をいまも愛用していて,いま履いている靴で4足目です。一足の値段は,いまでも3万円ほどします。わたしにとっては高価な靴です。しかし,その靴を履きつぶすには最低でも10年はかかります。長いと15年くらいかかります。雨の日も雪の日も,もちろん,晴れの日も,夏冬変わりなく,毎日,履いています。ここまで徹底して履くと,割安になります。

このきわめて重いチロリアン・シューズを履いているのは,じつは,わたしの脚力のトレーニングのためです。アスファルトの道路などは,下からの衝撃がストレートに伝わってきます。足首,膝,股関節には,常時,相当の衝撃が伝わっているはずです。それよりも,最近になって気づいたことは,大腿筋(太ももの筋肉)に相当の負荷を与えているということです。結果的には,太極拳をするからだを維持するには,とても役立っているということです。しかも,大腿筋を鍛えるということは,膝と股関節に負荷を与えるということでもあります。ですから,一挙両得というわけです。

ですから,ウォーキングをしてからだを鍛えたいという人には,わたしはできるだけ重いシューズを選びなさい,と薦めています。それは,筋肉系のトレーニングになるだけではなく,心肺・循環器系のトレーニングにもなって,いいことだらけ,ではないかとわたしは考えています。

なのに,なにゆえに,シューズ・メーカーはまるで競うようにして「軽い」ウォーキング・シューズを「売り」にしようとしているのか,わたしには理解不能です。

だからといって,いきなりチロリアン・シューズに履き替えるというようなことはしないでください。いろいろの理由で,脚筋や関節を痛めること必定です。靴の重さは徐々に増やしていくように,くれぐれもご注意ください。

2 件のコメント:

柴田晴廣 さんのコメント...

ウォーキングシューズからは外れますが、私はこんなもの↓作るぐらいの革靴マニアです。
 http://www.joy.hi-ho.ne.jp/atabis/newpage7.htm
 靴の重さということですが、革靴の場合、「底付け」が大きく関係します。
 右記の頁 http://www.shoe-style.jp/enjoy/knowledge/shoes01.php にありますように、革靴の底付けには、マッケイ、グッドイヤー、セメントの3つがあります。
 マッケイは直接底が付けられる日本の足袋のように、表革と表底が直接縫いつけられているものです。タキシード着用の際のオペラパンプスなどのドレスシューズなどがこの方式です。歩くことが少ない海軍の軍靴の多くもこのスタイルです。
 チロリアンシューズなどは、基本的には、つぎのグッドイヤーになります。マッケイと異なり、ウェルト(細革)と甲革を縫い付けて、このウェルトと表底を縫い合わせます。この方式は中底と表底の間に隙間が出来ることから、ここにコルクが詰められ、さらに土踏まずにシャンク(板バネ)が組み込まれます。マッケイに比べて重いですが、コルクがクッションになり、シャンクにより「マネキ」が良くなることから長時間歩行しても疲れません。
 ビジネスシューズや陸軍の軍靴がこの方式です。
 グッドイヤーというのは、この底付けの機械化を図ったチャールズ・グッドイヤーにちなむもので、タイヤメーカーのグッドイヤーは、息子のチャールズ・グッドイヤー・Jrが創業します。グッドイヤー社のロゴの中央に羽根が生えたブーツがあるのは、元々は靴屋だったからです。ちなみにブリジストンも元々は久留米の足袋屋で、地下足袋の実用新案を機に運動靴、自転車を経て自動車タイヤを手がけます。
 余談ついでに加えておけば靴に左右ができるのは、確か1890年代、紳士靴の一大生産地・イギリスのノーサンプトンの老舗メーカー(現在はプラダに買収)・チャーチが最初です。
 それ以前は、下駄や草履と同じで左右はありませんでした。時代的に考えれば、坂本龍馬のブーツに左右があるというのはおかしなことなんです。

Unknown さんのコメント...

とても興味深いコメントをありがとうございました。蘊蓄の深さを知り,感動しました。このコメントに触発されて,「モカシン・シューズ」のことを思い出しました。いつか,このブログに書いてみたいと思います。
柴田さん,ありがとうございました。これからも,よろしくお願いいたします。

inamasaより。