2015年10月11日日曜日

『森のなかのスタジアム』──新国立競技場暴走を考える(森まゆみ著),を読む。

 「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」(以下,「手わたす会」)の2年間にわたる活動をまとめた森まゆみさんの入魂の記録です。わたしも何回か,この人たちの活動に参加させていただきました。「この人たち」と書いたのは,森まゆみさんを含め,女性ばかり11名が,この会の共同代表となり,互いに手をとりあって会を運営してきたからです。

 ひとことで言ってしまえば,男性が組織した会とは違って,いかにも女性らしく,じつにきめ細かに気配りの効いた,しかも粘り強く,みごとなチームワークで会が運営されているという点に,大きな特徴と魅力がある,とおもいます。この会の共同代表のひとりである大橋智子さんは,わたしの主宰する研究会(4月25日・青山学院大学で開催。テーマは「東京五輪2020を考える」)にも参加してくださり,お馴染みです。

 そんな関係もありましたので,このテクストが刊行されてすぐに書店に走りました。『森のなかのスタジアム』──新国立競技場暴走を考える(森まゆみ著,みすず書房,2015年9月25日刊)。しかし,溝の口の書店ではみつからず,渋谷まで足を運ぶことになりました。

 
著者の森まゆみさんのことは,お名前だけで,書かれたものについてはほとんどなにも知らないでいました。ですから,このテクストを読むことによって,初めて森まゆみさんのイメージがしっかりと固まってきました。たくさんの著作があり,数々の受賞作品もあることも,今回,知りました。が,なによりの発見は,地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を1984年以来,ずっと発行してこられたということ,でした。つまり,ご自分の生まれ育った地域にしっかりと「根」を下ろし,地域文化の発掘と保存・普及に力を注いでこられたということです。その延長線上に,東京駅のレンガづくりの駅舎保存・修復の活動があったことも,知ることができました。

 わたしは迂闊にも,森まゆみさんという作家が,なにを,突然,国立競技場問題に首を突っ込んできたのだろうか,と不思議におもっていました。そして,共同代表をつとめていらっしゃるほかの10名の方たちの経歴をみても,まだ,なんとなくピンときませんでした。なぜ,この人たちは,こんなに熱心に国立競技場問題に取り組んでいらっしゃるのだろうか,と。

 その疑問は,このテクストを読むことによって一気に氷解しました。その鍵は,なんと,その会の名称にありました。すなわち,「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」に。

 わたしの理解は以下のとおりです。「神宮外苑と国立競技場」は,わたしたちみんなの文化遺産である。その大事な文化遺産を,わたしたちの知らないところで,言ってしまえば密室で,好き勝手に作り替えようとしている,しかも,じつに杜撰で,無責任に。ですから,そのとんでもない手法に待ったをかけた,ということ。こんなに大きな国民的な大事業を,国民に非公開の場(=密室)で,どんどん推し進めてしまっていいのか,しかも神宮の景観を破壊するようなとんでもない建造物を建ててしまっていいのか,と。少なくとも,「国民にわかりやすく説明」をし,「国民の理解と支持」を得て,進めるべきではないのか。すなわち,民主主義のルールをきちんと守ってほしい,と。

 ですから,最初は,まことに楚々として会を立ち上げ,声明文に遠慮がちな「質問状」を付して,関係各省庁にはたらきかけることから会の活動をはじめています。しかし,関係各省庁からはほとんどなしのつぶて。なんの応答もなし。そこで,これではいけないということになり,いろいろの分野の専門家を招いて「勉強会」をはじめます。そうして,人脈を拡げながら,少しずつ力をつけ,地に足のついた活動を展開していくことになります。そして,いまや,その存在を無視することのできないところまで,実績を残してきました。

 デモも行いました(わたしも参加しました)。国会議員への請願書の提出もしました。できることはなんでもやる,という地道な活動を共同代表のみなさんが手分けをして,積み上げてきました。その「2年間」の活動記録が,このテクストとなって結実したと言っていいでしょう。

 10月1日には,「リセット 東京五輪」②国立競技場問題,というタイトルで,これまでの活動報告がなされました。森まゆみさんが基調報告を,そして,大橋智子さんが建築家の視点からの問題提起を,さらに,清水伸子さんからは請願書提出の経緯についての報告がありました。こちらは,YouTubeで見ることができます。ご確認ください。

 この席でも,森まゆみさんが,最後におっしゃっていますように,このテクストは共同代表のみなさんの結束とそれを支えてくださった各界の専門家の方々のお蔭であって,わたしひとりの作品ではありません,と。とりわけ,巻末に付された「関連年表」は,みんなで作り上げた作品です,と。

 この「関連年表」は「手わたす会」のHPに,どんどん書き加えられていくことによって出来上がったものです。これまでは,いちいち,HPを開いて,活動の足どりを確認していましたが,これからはこのテクストを開けばすぐに事足りることになり,わたしにはとても助かります。

 それ以外の「資料編」に収められた要望書や質問状も,とても貴重なものばかりです。その内容は以下のとおりです。
 1.要望書等リスト
 2.国際デザイン競技に関する公開質問状(2013年12月24日)
 3.新競技場に関する公開質問状(2014年1月31日)
 4.国立競技場を壊したくない10の理由(2014年6月9日)
 5.解体と樹木伐採への抗議声明(2015年3月5日)
 6.現行案に対する緊急市民提言(2015年6月16日)
 7.関連年表

 長くなってしまいました。
 こんご,国立競技場問題を論議する上での必読のテクストであることは間違いありません。そして,このテクストをとおして,さらなる議論が立ち上がることも間違いないでしょう。その意味できわめて重要なテクストの出現と言っておきたいとおもいます。

 わたしの主宰しています研究会でも,ぜひ一度,合評会を開催したいとおもっています。
 広く,一般の方々にもお薦めしたいとおもいます。名著です。
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