2012年10月10日水曜日

太極拳は,踊りでもなく,体操でもありません。武術です。(李自力老師語録・その20.)

李老師:最近の太極拳は,踊りのような所作になったり,ダンスに近い体操になったりする傾向があり,困ったものです。太極拳は武術です。このことを忘れてはなりません。
わたし:でも,日本では,太極拳は「健康体操」だと思っている人は少なくありません。わたしの周囲にもたくさんいらっしゃいます。
李老師:そのことは,わたしもよく知っています。日本の太極拳は,最初に,楊名時さんが健康法の一種として紹介し,それが広まったために,いまでも多くの人がそう思い込んでいるところがあります。そして,いまも,その娘さんである楊慧さんが日本健康太極拳協会を組織して,「健康太極拳」の普及に努力していらっしゃいます。ですから,太極拳は健康法の一種であると信じている人は少なくありません。そして,そういう目的で太極拳をやること自体はなにも悪いことではありません。ただ,わたしが考えている太極拳はあくまでも武術であるということです。
わたし:なるほど。だから,日本武術太極拳連盟は,健康太極拳とは違いますよ,と宣言しているわけですね。
李老師:そうです。中国語では太極拳は武術を意味します。ですから,武術太極拳という言い方は,中国人からすると少し変な感じがします。なぜなら,武術・武術というトートロジー(同語反復)になってしまうからです。でも,日本語としては違和感がないようですので,武術太極拳という言い方は内容をはっきりさせるという意味で,とてもいいと思います。
わたし:では,武術太極拳が踊りのようになってしまうのは,なぜなのでしょうか。
李老師:表演を美しく見せようと意識しすぎるからだと思います。表演の採点では,動きのしなやかさや滑らかさ,美しさと同時に力強さも要求されているのですが,いつのまにか力強さが忘れられて美しさに向っていく傾向があります。とくに,女性の場合にみられがちです。ある程度は仕方のないことですが,それでも美しさの中に力強さが加わったときに,太極拳の真の美しさが表出するのだと考えています。
わたし:なるほど,力強さを欠いた美しさは,単なる踊りのようになってしまうということですね。では,ダンスに近い体操になる傾向というのはどういうことですか。
李老師:最近では東南アジアでも太極拳が普及していて,アジア大会などにも選手が出場するようになりました。ところが,どこで,どのように解釈を間違えてしまったのか,ダンスと体操のミックスしたような動きをする選手がでてきています。これは早急に直さないといけないと思っています。日本ではそのような誤解は生まれてはいません。
わたし:そうですか。それは,太極拳が国際化していくときのひとつの宿命のようなものでもありますね。日本の柔道が,いま,JUDOとなって,オリンピックでも行われるようになりましたが,わたしからみると,もはや柔道とはいえない,別のもの,すなわち,JUDOになってしまっています。太極拳も競技化とともに大きく変化していますし,それが,さらに国際化していくと,また違った変化を起こすことになるのでしょうね。
李老師:柔道がJUDOに変化したことに,わたしは強い関心をもっています。太極拳も,国際化すればするほど,かならず大きな変化をしていくことになると思っています。そのときに,どこまでも「武術」であるということをしっかりと意識していく必要があります。
わたし:日本の太極拳は,中国や東南アジア,そして,ヨーロッパの太極拳とくらべたとき,なにか,特徴のようなものがありますか。
李老師:日本の太極拳は,とても忠実に,本来の太極拳の精神を引き継いでいると思います。むしろ,本家の中国の方が,極端に競技志向に向っていて,伝統的な太極拳が軽視されているように思います。これはちょっと困ったことになりつつある,とわたしは憂慮しています。その点,日本の指導者は伝統的な太極拳を基礎に置いて,その上に競技を考えているように思います。これはとてもいいことだと思っています。
わたし:そのうちに,日本が太極拳の本家になるかもしれませんね(笑い)。
李老師:このままでは,そうなりかねません。が,中国もそのうちに気づくのではないか,と思っています。わたしも,そのように働きかけていますので・・・・。
わたし:どうも,ありがとうございました。今日のところはここまでにしましょう。

1 件のコメント:

kanto shigeharu さんのコメント...

このたびはあなた様のブログで、太極拳のことを沢山学ばせていただきました。
ありがとうございます。
私、現在66歳、太極拳を習い始めて6年目に入っております。表演もそうですが、いまいち何故に習っているのかも忘れがちになっておりました。
今回読ませていただいて目から鱗の部分が多々ありました。
長くなりますので長々とは書きませんが、今後も読ませていただきたいと思っております。
有り難うございました。