2014年1月3日金曜日

東洋大学,おみごと。チームワークの勝利。その秘密は?選手たちの「自立/自律」。

 どの大学にも強い選手はいる。が,その選手が期待どおりの活躍をするとは限らない。ときには,無名の選手が突如として快走することもある。だから,面白い。スポーツはやってみなければわからない。ある種の賭けなのだ。それは人生そのものでもある。

 人生が想定どおりのものだとしたら,なんと味気ないことか。生きる夢も希望もなくなってしまう。人生は生きてみなければわからない。スポーツもやってみなければわからない。駅伝も走ってみなければわからない。想定外のことが起きるから面白い。

 しかし,現代社会はこの「想定外」ということばをとことん忌み嫌う。なにからなにまで「想定」できるようにしようとする。人間の驕りである。その端的な例が原発だ。科学の力を過信して,技術的にコントロールできないことまで,「そのうちにできるようになる」と前倒しにして,原発をつくってしまった。まさに,人間の驕りである。とりわけ,科学の領域においては,「想定」できないことに手を出してはいけない。iPS細胞も危ない,とわたしは受け止めている。遺伝子組み替えも危ない,と考える。理由は,神の領域に人間が手を出してはいけない,と考えるからだ。

 その反面,神を祀る祝祭は,可能なかぎり「想定外」の要素を残しておくべきだ,とわたしは考える。スポーツは基本的に祝祭なのだから,あまり厳しく管理しない方がいい。もちろん,危険に関しては徹底した管理が必要であるが・・・・。

 と,ぼんやり箱根駅伝をテレビ観戦しながら考えていた。
 この二日間,箱根駅伝にどっぷり浸っていた。そして,ぼんやりとした頭で,ぼやーっと浮かんでくるものを,ほわーっとした気分のまま,いろいろと考えていた。とてもいい勉強になった。義理でやる勉強と違って,突然,ボコッ,となにかが立ち現れる。その妄想のようなものとつきあいながら,あれこれ空想してみる。それこそ,そこは「想定外」の宝庫である。だから,ものすごく面白い。

 それにしても,ことしの東洋大学はみごと。そうか,チームワークが駅伝の最大の要なのだ,とあらためて知った。激しいトレーニングをすれば強くなる,という科学神話をもののみごとに突き崩してくれた。そうではないのだ。走るのは人間なのだ。科学ではない。このもっとも基本的なことをいつかしら忘れてしまっている。

 東洋大学のまだ若い酒井俊幸監督は語る。
 出雲駅伝,大学選手権とつづけて駒沢大学に破れて第二位。箱根駅伝で駒沢大学に勝つためにはどうすればいいのか,と部員に問いかけた。そうして,部員全員(上級生も下級生も)がみんな対等の立場に立って,どうすれば強いチームをつくることができるか,と議論を積み上げた,その結果だ。お互いが忌憚のない意見を交わし合うことができるチーム,それを目指したら,みるみるうちにチームの雰囲気が変化してきた。そうして,アッ,これはいける,と直感した,と。

 つまり,部員全員を「自立」(自律)させようと考え,それを実行したこと。それに対して部員が応えたこと。上下の関係は大事だが,駅伝で実力を発揮できるチームをつくるための議論に遠慮はいらない。ましてや「自発的隷従」などというものはなんの役にも立たない。最後に走るのは選手個人だ。その選手が自立/自律していないことには,いい走りはできない。と,これはわたしの勝手な解釈である。

 つねに自分で自分のからだのコンディションをチェックし,からだの声に耳を傾けながら,いま,どういう走りが可能なのかを考え,決断し,実行する,そういうことを繰り返す能力,を養うこと。これが最優先課題なのだ。もちろん,試合の前には徹底したミーティングが行われ,お互いの意識を一つに共有することも行われるだろう。そして,レースがはじまれば,監督からの指示がとぶ,他チームの情報も知らせてくれる,ありとあらゆる情報が(たとえば,気温とか,風とか,あるいは,いまのランニングフォームとか)選手の耳に届けられる。しかし,それでも「いま,このとき」のからだの声を聞くことができるのは自分ひとりだ。

 最終的な決断を下し,「いま」どのような走りをするかは自分で決めるしかない。だから,どれだけ自立/自律しているかが問われることになる。このことを選手たちに気づかせ,徹底させるかは,とてもむつかしいことなのである。頭でわかることと,からだでわかることとは別だから。

 昨年の覇者・日体大の別府監督は「人は変われる」という名言を吐いた。そして,そのとおりの結果を出した。だから,いまでも頭ではわかっている。そして,その実績もある。が,毎年,そのようなチームがつくれるかというと,そうではない。チームは生きものなのだ。なにもかも想定どおりというわけにはいかない。だから,面白いのだ。こうして,レースの途中では,想定外の喜劇・悲劇のドラマが生まれるのだ。

 さて,来年も東洋大学は同じようなチームをつくりあげることができるだろうか。ことしの日体大のような例もある(もちろん,ことしもよく健闘して3位に入っているが,優勝ではない)。みんな,どのチームの監督だってわかっているはずだ。だが,それをどこまで詰めていき,どこまでいいチームに仕上げることができるか,こここそが名宰相たるものの腕次第。

 そこのところを,わたしはテレビ観戦しながら,楽しんでいる。来年も楽しみだ。

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