2014年9月20日土曜日

スコットランド独立,否決。バスクや沖縄などへの影響は?

 全世界が固唾をのんで見守った「スコットランドの独立」はならなかった。しかし,大英帝国に激震をもたらしたことは間違いない。そして,300年の大英帝国の歴史が新たな道へ一歩を踏み出すことになりそうだ。それは,ブリテンという連合王国から連邦へと,国家のあり方の根幹にかかわる変更を迫るものだ,と考えられるからだ。

 と同時に,全世界の少数民族による独立志向の地域に対しても,きわめて大きな影響力をもつことになったことも間違いない。たとえ,スコットランドの独立がならなかったとはいえ,それでも「住民投票」という方法によって,自らの進むべき道を明らかにしたことの意義ははかりしれないほど大きい。つまり,自己決定権の行使だ。なぜなら,形骸化しつつあった民主主義の大原則が,立派に機能していることを照明してみせたからである。84%を超える投票率,選挙権を16歳まで与えたこと,こうして政治への高い関心が若い世代にも伝承されていく。

 その意味では,イギリスという国が培ってきた民主主義の成熟ぶりもまた称賛されるべきだろう。国民の意思を無視して「暴走」をはじめたどこぞの国は見習うべきだ。いな,世界中の国家が,いま一度,胸に手を当てて,じっくりと反省すべきだろう。とりわけ,テロとの戦いを開始した国,およびそれを支持している国々(奇しくもイギリスもこのなかにいる)は。テロとの戦いなどという「正義」はどこにも存在しないことを。むしろ,テロとの戦いこそテロリズムそのものではないか,とすでに多くの人が気づいている。

 今回の住民投票をとおして,スコットランドは自らの意思で独立を否決したけれども,その反面ではイギリス政府から自治権拡大という特大の確約をとりつけた。この成果は無視できない大きなものであった,と言っていいだろう。これは,敗れたとはいえ独立賛成派の盛り上がりがもたらした大きな成果であった。その点は,独立反対派も認め,文句なく歓迎するところであろう。

 日本のメディアの一部では,この住民投票によってスコットランドには大きな亀裂が生じ,その修復はたいへんだろう,と報じている。もちろん,少なからぬ亀裂は生じたであろうが,そこは日本人の感覚とはいささか違う,とわたしは考えている。彼らの大半はパブでビールを飲みながらYes派とNo派が,冷静に議論のできる人たちなのである。つまり,民主主義の精神をしっかりと体得している人びとなのだ。だから,ラグビーの試合と同じように,闘志を剥き出しにして議論を闘わせるけれども,闘いが終われば「ノー・サイド」となり,お互いに握手ができる人たちなのだ。つまり,成熟した大人なのだ。

 こんな憶測はさておいて,今回のスコットランドの住民投票が,独立を志向している少数民族に与える影響力ははかりしれないものがある,とさきに書いた。いま,すでに住民投票をすると宣言しているスペインのカタルーニャ自治州と,してはならないとするスペイン政府(憲法違反だと主張)の間の確執が,これまた世界の注目の的となっている。ニュースなどでみる州都バルセロナでの集会の熱気やデモの規模の大きさに,わたしなどは圧倒されてしまうほどだ。

 スコットランドの独立が否決され,やや冷や水を浴びたかたちになるが,それでも長年にわたってカタルーニャ自治州の住民の間にたまっているマグマはそんなにかんたんには収まらないだろう。しかも,住民投票をすることが,中央政府に対する絶大なプレッシャーになることだけは間違いないし,中央政府もそれなりの対応を迫られることになる。これからどのような駆け引きや戦略が展開されるのか,眼が離せない。

 スペインには,もう一つの時限爆弾が待ち受けている。バスク自治州だ。いまは,独立反対派が自治州政府を抑えているが,つい,この間まで,独立派が政権を長い間,握っていた。ふたたび,独立派が勢いづくことは眼にみえている。カタルーニャ州の成り行きいかんによっては,バスク自治州にも火が点くことは間違いないだろう。

 こうした動向は,たんに他山の火事では済まされない事情が日本にもある。いうまでもない,それは沖縄県だ。敗戦後以来,こんにちまで押しつけられている米軍基地問題をめぐる闘争の戦略上の見直しである。このブログでも繰り返し書いてきたように,最近の大きな流れは,日本政府に見切りをつけ,直接,アメリカと交渉しようという方向になっている。当然のことながら,そこには沖縄の「独立」も視野に入っている。すでに,そのための「学会」まで立ち上げ,その可能性を探る議論が熱心になされている。

 9月19日の東京新聞「こちら特報部」が,つぎのような記事を載せている。


 この記事は,少しでも沖縄事情に詳しい人間には,俄か仕込みの取材による,かなり荒っぽい記事になっていて,いささか不満ではある。しかし,いま,沖縄が直面している問題の核心の一部は抉りだしているので,まずは可としたい。わたしの推測では,いま,沖縄の人びとの関心は「自己決定権」に集中しているのではないか,と思う。アンケート調査によれば,80%を超える人びとが,米軍基地の県外移設を望んでいる,という。にもかかわらず,この県民の民意はどこにも届かないまま,日本政府によって握りつぶされている。

 ならば,交渉相手はアメリカ政府しかない,と見切りをつけ「新外交イニシアティブ」が2013年に立ち上げられ,めざましい活動を展開している。アメリカ政府と議会にむけて,直接のロビーイングを開始しているのだ。そして,かつての米軍基地問題にかかわっていたアメリカの元高官をシンポジウムに招き,「辺野古移設は見直し可能である」という発言をとりつけている。こうして,いま,着々とその威力を発揮しはじめている。名護市長によるアメリカでのロビー活動の,あらゆる支援もこの「新外交イニシアティブ」が引き受けている。

 わたしは息を殺して,その成り行きを見守っている。

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