2010年9月26日日曜日

白鵬の偉業をこころから讃えたい。でもね・・・。

 今日,千秋楽を迎えた大相撲は,横綱白鵬の4場所連続全勝優勝,しかも,62連勝という輝かしい記録とともに幕を閉じた。この調子なら,来場所も全勝,そして,77連勝も不可能ではない。
 なぜなら,朝青龍がいなくなってしまって,いまや,白鵬を脅かす力士がひとりもいないからだ。いまごろになって,日本相撲協会は朝青龍を残しておくべきだった,とほぞを噛んでいることだろう。いまや,向かうところ敵なしだ。千代の富士を引退に追い込んだ貴乃花のような若手の力士がいない。この調子では,100連勝も不可能ではない。
 しかし,ひとことだけ言っておかなくてはならないことがある。それは,白鵬がずば抜けて強い,ということではないということ。そうではなくて,他の力士があまりにも弱いというだけのこと。わたしは個人的には白馬富士に期待を寄せていたが,どういうわけか,その後の伸びがない。なにか目標を失ってしまったような相撲をとっている。そうではないだろう。もっと,真っ正面からぶちかましていって,そのあとの変化だろう。当たりが弱すぎる。あれでは,そのあともなにもできないし,勝てない。それ以外には白鵬を脅かす力士はいない。だから,このまま,だらだらと勝ち星を重ねるだけになってしまう。なんとも,迫力のない土俵がつづくことになる。
 相撲は,やはり,実力が伯仲していて,やってみないことにはどちらが勝つかわからない,これが基本だ。はらはらどきどきするから面白いのだ。それがなくなって,まあ,よほどのことがないかぎり白鵬が勝つなぁと思ってみているテレビは面白くない。千代の富士が全盛の時代は,強い力士がきら星のごとくいた。だから,ひょっとしたら千代の富士は負けるのではないか,といつもはらはらどきどきしながらテレビを見入っていた。熱烈な千代の富士ファンとしては不安で不安で仕方がなかった。いま,わたしは白鵬のファンである。しかし,少しもはらはらどきどきしない。相手があまりにも弱すぎるからだ。負ける気がしない。だから,あとは,どんな取り口で勝負をつけるのかな,ということしか楽しみがない。これではいけない。一番肝腎な「ドキドキ」感がない。
 だから,本場所まで見に行こうともおもわない。ましてや,テレビを見ようともおもわない。どうせ,白鵬が勝つに違いないと確信しているから。結果があらかじめわかってしまうほどつまらないことはない。スポーツは「やってみなければわからない」からこそ面白いのである。もう一度やったら,どちらが勝つかわからない,それがスポーツの醍醐味だ。
 白鵬が負けるとしたらどういう場面か。残りの楽しみはこれしかない。これから白鵬の連勝記録は限りなく伸びていくことだろう。そのことによって,いっときは,大相撲人気は高まりをみせるだろう。しかし,それに寄り掛かっていると,それが大相撲の命取りになりそうだ。なぜなら,なんの異変も起きない,想定どおりの土俵は面白くないからだ。
 ここにきて,朝青龍という横綱の存在がどれほどのものであったか,多くの人が気づきはじめていることだろう。かれは,勝っても負けても,絵になった。あの全身から溢れ出てくる気迫,仕切り直しのたびに少しずつ変化する肉体,そして,最後の仕切りでは,顔つきまでが極限状態に入る。もう,これだけで充分だ。わたしは,ここまでで,すでに満足している。しかも,立ち上がってからの相撲は,まったく予測がつかない。なにが起こっても不思議はない。まるで,ダンスのコンタクト・インプロビゼーションを見ているような楽しみがあった。相手の出方次第でいかようにも対応する。からだが勝手に反応する。自分でもよくわからない,と朝青龍は応答したことがある。これがみていて面白い相撲なのだ。
 もちろん,間違いなく白鵬は偉大な横綱だ。相手に付け入るスキを与えない。こういう相撲もあっていい。どちらかと言えば玄人好みの相撲。かつて,輪島が全盛時代にこういう相撲を取った。少し長い相撲であったが,負けない相撲を取った。じっくりと構えて,相手がいやがるところを攻めて,いつのまにか自分得意の型に持ち込む。そこから勝負にでる。絶対に負けない相撲という点では,いまの白鵬は申し分ない。だから,その相撲を楽しむことはできる。しかし,それだけでは面白くないのである。
 今場所,一度だけみせた「呼び戻し」の大技。ただし,場内アナウンスは別の決まり手をとった。そんなことはどうでもいい。もっとも大きな技,たとえば,「仏壇返し」のような技をやってほしい。そうすれば,間違いなくお客さんは入る。わたしも重い腰を上げてでかける。大技を,この眼でみてみたいのだ。連勝記録もさることながら,わたしは大技をみたい。早く,どこかで負けて連勝記録が止まったら,この大技がでるのではないか,むしろ,こちらの方が楽しみである。そして,その方が大相撲のためにもなる。ファンも増える。
 白鵬は間違いなく歴史に残る名横綱である。それも,とてつもない記録を残すことによって。しかし,記録だけを追っていると,相撲の醍醐味を失ってしまう。ないものねだりになってしまうが,白鵬には,その両方を追ってほしい。そのときこそ,前人未到の名横綱の名をわがものとすることができるだろう。そして,だれもが尊敬のまなざしを向けるだろう。
 とりあえず,おめでとう! のエールだけを白鵬に送っておきたい。
 そして,いつか,直接会って,話をしてみたい。

1 件のコメント:

まゆのほっぺ さんのコメント...

お久しぶりです。先が見える相撲は本当に面白くないですよね。