2011年5月30日月曜日

DVD映画『バーレスク』を観る。

ちかごろはまことにありがたいお仕事が舞い込むようになった。DVD(映画)が送られてきて,その感想を聴かせてくれ,とのこと。しかも,スポーツ史家という肩書で,感じたままを書いていい,とおっしゃる。こんなにありがたいことはない。

さて,今回の映画は『バーレスク』(BURLESQUE)。いつもだと,DVDのほかにもリーフレットや関連の解説などがあって,ある程度の予測がつくのだが,今回は,丸裸のDVDだけがポンととどいた。カバーの写真や短いキャッチ・コピーだけが手がかり。
「バーレスク」かぁ,と短いため息をひとつ。このため息は,忘れていた世界を懐かしく思い出すときの,あの少しだけ緊張が解けたときの,ごくごく短いため息だ。それでいて,犬であれば,しっぽを振りまくっているはず。なぜなら,「バーレスク」ということばから真っ先に浮かぶイメージは,情けないことに「ストリップ・ショウ」だ。ケースの写真にもそれらしきものが載っている。だから,この映画はストリップに違いない,と勘違いをしたのだ。そんな,ストリップ劇場に足を運ぶときのような,ときめきを感じながら,パソコンにセット。

しかし,予想はみごとにはずれた。そんな卑猥な関心事とはなんの関係もない,堂々たる歌とダンスをふんだんに盛り込んだ素晴らしい映画だった。しかも,人生はどこまでも自分の夢を追い求めていくべきで,けして途中で諦めてはいけない,というお馴染みの「アメリカン・ドリーム」を絵に描いたような映画だ。そして,人間が「信」をおくべきものは「金」ではなくて,ほんものの「愛」だよということも,しっかりと教えてくれる。たぶん,この映画は折に触れて何回も観たくなるに違いない。落ちこんだときに観れば,間違いなく元気が湧いてくる。だから,DVDとして手元にあることは,それだけで幸せである。貯金が少しばかりたまったような気分。

ストーリーはカバーに書いてあるコピーを借用すると・・・。
バーレスク・ラウンジ,それはセクシーなダンサーたちがゴージャスなショーを繰り広げる大人のためのエンタテインメントクラブ。片田舎を離れ,アリは歌手になる夢を追いかけて,ロサンゼルスを目指す。テスが経営するクラブで自分が思い描いていた憧れの世界に出会ったアリは,アルバイトを始める。やがて,アリは抜群の歌唱力と突出したダンスの才能が話題となり,クラブは大盛況を極めていくのだが・・・・。

この映画がとてもよくできているなぁ,とごく個人的に感心したのは,つぎのようなことだった。
ひとつは,主人公のアリの顔がメイクひとつでみごとに変化するということ。つまり,歌う歌とダンスにマッチするように顔のメイクがみごとに工夫されているということ。メイクの威力とでもいえばいいだろうか。人間の顔というものはかくも変化するものなのか,とびっくりするほどである。映画の中ですら,同じ人間とはとても思えないほどの顔の変わり方をする。日常生活でそれをやったら,ひとりで何役をもこなすことができそうだ。それだけメイクの技が高度化したということでもあるのだろうが,それにしても驚くべきことだ。この女性のもつ奥行きの深さに,男は圧倒されてしまう。まことに残念なことではあるが・・・・。
だから,アリはステージに立つたびに,まったくの別人に変化してしまう。まったくの別人が歌を歌い,まったく別人がダンスを踊る。幕が上がるまでは,アリがどんな顔でスポットライトの中に浮かび上がってくるのか,だれも予測がつかない。考えてみれば,それこそが「バーレスク・ラウンジ」の見せ所でもある。そのお目当てのスターの変身ぶりが客を惹きつける。リピーターの客はそれが楽しみでまたやってくる。

もうひとつは,映画のストーリーの展開に合わせるようにして主人公のアリの顔も変化していく。これもまたメイクの威力なのだろう。田舎にいるときのアリは,まだ,田舎娘のままだ。そのアリがロサンゼルスにでてきて,少しずつ,そこでの生活に慣れてくると,顔や立ち居振る舞いも変化してくる。街中を歩く姿までが自信に満ちてきて,都会風となる。人間はこころの成長とともに歩き方も変わる。そういう演出もみごとだ。

さいごのひとつは,嫉妬や愛憎の渦巻くダンサーたちが,どんなにもめごとが起きようとも,さいごのところではひとつになって団結していかなくてはステージはつとまらない,ということをしっかりと承知している点だ。長年の借金の返済を迫られ,しだいに追い詰められていく経営者のテス(歌手であり,演出家でもある)を,アリは必死で支えていく。そのアリに,このバーレスク・ラウンジを買収しようとする資本家の誘惑の手がのびてくる。そして,お決まりのようにアリのこころは揺れ動く。しかし,意外にアリはしっかり者である。そこでも自分が「信」をおくべきところは「金」ではなくて,「友愛」だと自覚していくアリが描かれる。

まあ,歌とダンスがストーリーとみごとに織りなされていて,現実とステージとが入れ子模様のように展開していく。が,なんといっても,アリを演ずるクリスティーナ・アギレラの歌唱力の素晴らしさ,そして,ダンスの歯切れのよさ,がさいごまで観る者の眼を釘付けにする。もう,それだけで十分という映画だ。

きわめて健康的で,きわめて健全な映画だ。だから,こちらがピンチに陥ったときには間違いなく元気がもらえる。そういう映画になっている。いまの日本の,このどんよりとした,なんとも気持の晴れない世相にあっては,一場の救いの神様であるかもしれない。

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