2013年2月8日金曜日

女子柔道「悩み聞くシステムの導入を」(山口香)。そんな問題ではない。

 かつて「女三四郎」と異名をとった女子柔道の世界の女王,山口香さん(48歳)。現在は筑波大学で教鞭をとるかたわら,日本オリンピック委員会の女性スポーツ専門部会会長をつとめている。『女子柔道の歴史と可能性』という著書もある。

 その山口香さんが女性スポーツ専門部会の会議後に記者たちの取材に応じて,「選手たちの悩みや意見を吸い上げるシステムを迅速に構築する必要性」を訴えたという。この記事を読んで,わたしは唖然としてしまった。これでは,斎藤美奈子さんのいうとおり「隠蔽体質」から抜け出すことはできない,同じ穴の狢(むじな)そのものではないか。

 選手たちを悩ませたり,恐怖に陥れたりするような「指導」が行われているということ,そのことの異常性こそが問われているのに,そこには目が向かない。それも,オリンピック代表選手をめざす日本のトップクラスの選手たちばかりを集めた場の,最高の「指導」が行われなくてはならない現場での話だ。言ってみれば,オリンピック候補選手たちの最終段階の,ブラッシュ・アップするための,仕上げの場での「指導」だ。その最高の場で,選手たちを「悩ませ,恐怖に陥れ」ていることの,とんでもない実態には目を向けようとしていない。

 言ってみれば,同業者仲間の庇い合い体質が剥き出しだ。「見て見ぬふりをしている」か,あるいは,そういう「指導」が常態化しているために「気づかない」のか。

 名選手,かならずしも名監督ならず,という名言がある。名選手が名監督になるには,選手としての実績に+αが必要なのだ。プロ野球の監督は,シーズン・オフのキャンプをとおして選手たちを鍛え,チーム・ワークを構築していく。このプロセスもオープンにされている。密室で行われるのは「ミーティング」くらいのものだろう。あとは,何万人という大観衆の前で試合をし,その采配ぶりが,試合ごとにチェックされ,評価されていく。そうして厳しい淘汰を経て,名監督として名を残す人はほんの一握りの人になる。

 女子柔道のトップ選手たちを集めての,最終段階での「指導」は,かなり異質なものにみえる。第一,選手たちはそれぞれの指導者のもとで育ち,全日本のトップ選手として活躍できるところまで登りつめてきている。その育ての親ともいうべき指導者の手を離れたところで,まったく新たな別の指導者のもとに委ねられる。選手たちは,大きな夢や憧れと同時に大きな不安もかかえて,全日本の合宿練習にやってくるはずである。

 そこで待っていたものが,一方的で過剰な狂った愛,すなわち,地獄のようなしごきだったとなれば・・・・・。

 全日本の監督を選出し,それを引き受けさせるということが,どういうことなのか,全日本柔道連盟の幹部たちがわかっていない。園田監督にどれだけの指導実績があったというのか,あの年齢からは想像もつかない。そして,各選手たちを育ててきた各監督さんたちから,どれほどの信頼をされていたのか。園田監督の指導は公開されていたのか。それとも密室だったのか。監督選出のプロセスを透明化すること,練習を公開すること(少なくとも,選手を送り込んだ各監督さんや部員,そして,肉親,友人には),などなど。反省点は山ほどあるはずだ。

 その上で,ほんとうに人間的に信頼できる人に監督になってもらいたい。15人の選手たちが訴えていることは,そういうことではないのか。そのための「システム」をしっかりと構築することが求められている,とわたしは考えるのだが・・・・。

 「選手たちの悩みを聞くシステムの導入」は,これまでの指導体制はそのままで,選手たちの苦情を聞いてやろう,それでいいだろうというように聞こえる。それは,やはり隠蔽体質そのものでしかない。そこにメスを入れること。

 もっとも,いま,わたしたちにわかっていることは氷山の一角でしかないように思う。理事会内部の熾烈な派閥争いもちらほらと聞こえてくる。国際柔道連盟に,柔道の本家である日本から,たったひとりの理事も送り込めないという惨状もまた,もうひとつの隠された大問題である。全日本柔道連盟が抱え込んでいる問題の全容が明らかになるのは,まだまだ遠いさきのようだ。その前になんとか「まるく収めよう」という力学ばかりが先行する。

 山口香さん。「まるく収めよう」という力学を打破すること,JOCの女性スポーツ専門部会会長としての仕事はそこからはじまることを銘記しておいてほしい。

 3月にはIOC委員たちが日本のオリンピック招致に関する準備段階について調査にやってくる。それへの「影響が懸念」されるなどというケチな考え方をも打破すること。女子柔道の未来のために。ひいては日本柔道の未来のために。

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