2011年2月10日木曜日

大相撲とはなにか,という根源的な議論を。

 今日(2月10日)の朝日・朝刊の「記者有論」というコラムに,またまた,西村欣也氏が登場し,「大相撲と八百長」と題して恐るべき「暴論」を展開しているのにあきれはててしまった。もう,こうなると無視するわけにはいかない。きちんと,書いておかなくては・・・と思う。しかし,このスペースで一気にというわけにもいかないので,小分けにしてこれから書いていこうと思う。
 で,まずは,今日の西村氏の主張について。見出しは,「スポーツなら全力士の調査を」,というもの。本来なら全文を紹介して,一字一句,きちんと確認した上で,持論を展開したいところであるが,その余裕もない。
 まず,最初に断わっておきたいことは,「西村さん,もう少し冷静にことに当たっていただきたい」「あなたの影響力は甚大なのだから」,と。書き出しの冒頭から喧嘩口調では困ります。冒頭の一文はこうだ。「それならば,どうぞ,八百長をしてください,と思う」。それにつづけて「大相撲の話だ」と。これではとりつくしまもない。その根拠として,さまざまな意見のあるなかに「『大相撲は日本の伝統文化でファンは八百長があることを薄々知っていて,それも承知の上で楽しんでいる』という言説がある。ならば,どうぞ,だ」。
 これでは議論になりません。西村さんのとりあげた識者の「意見」は,八百長を無制限にやっていいなどとはひとことも言っていません。「この程度の」八百長なら,大相撲の楽しみを疎外するものではない,と言っているだけの話です。その言説の意味をよくよく考えてみてください。たとえば,テレビ観戦をしていて,八百長であることが丸見えの相撲が続出したら,だれもみなくなるだけのことです。しかし,テレビ観戦をしているかぎり,だれも,八百長相撲に気づいていません。だから,「薄々知っていて,それも承知の上で楽しんでいる」と言っているわけです。つまり,「この程度の」八百長といった意味はそういうことです。
 日本相撲協会には,「故意による無気力相撲懲罰規定」(昭和47年制定)というものがあって,監察委員会を設け,土俵上の力士の相撲を「監察」していることは,西村さんもご存知のとおりです。この当時(昭和47年),「無気力相撲」が目だってきたために,このままてはファンが離れていってしまうという危機意識が日本相撲協会のなかに生まれ,急いで,このような「懲罰規定」を設け,監視することになりました。以後,しばらくは「無気力相撲」が監察委員会によって指摘され,注意を受けた力士がいました。が,最近では,ほとんどなくなってきています。ですから,もし,八百長相撲が仕掛けられていたとしても,だれも気づかない,そういうレベルで相撲が展開している,ということです。ですから,西村さんが取り上げた「意見」は,「この程度」の八百長なら,許容範囲の内である,というものです。けして,八百長をやっていいとはひとことも言ってはいません。それを「ならば,どうぞ,だ」では話になりません。
 そこで,わたしからの提案です。西村さんの眼でみて,「これぞ八百長相撲だ」という取り組みがあったら,教えていただきたい。そして,そういう相撲が多くなっているとお考えでしたら,やはり,八百長が仕掛けられているではないか,という証拠(傍証でも可)を提示してほしいのです。携帯電話でのメールを復元して明らかになったという八百長相撲の内容が「見るに耐えないものであった」という論説をみたことがありません。しかも,その当時,だれも,それが八百長相撲であったとは気づいていません。監察委員会の委員ですら(つまり,プロの眼ですら),見破ることはできなかった,ということです。
 わたしのいいたいことは以下のとおりです。金品の授受をともなう八百長相撲は絶対に許されるべきものではありません。あってはならない,と考えています。ですから,それをさせないように,しっかりと管理態勢をととのえることは急務です。その上で,わたしは,さらに,大相撲は「土俵の上がすべてだ」,と考えています。わたしは基本的に大相撲は,勝敗原理を取り込んだ芸能だ,と考えています。それはアート(芸術)にも匹敵する美しさをもっていると感じています。しかも,人間の極限状態での素の姿を無意識のうちに表出させるパワーをもっています。ですから,大相撲は「土俵=舞台」がすべてだ,とわたしは考えています。この問題はもっと掘り下げて論ずべきことがらですので,また,稿をあらためて論じたいと思います。
 が,こうした「勝敗原理を取り込んだ芸能」と考えるわたしの立場と,西村さんの仰る「屋台骨はスポーツだ」という立場とは根源的なところで違っています。どうしてこういうことが起こるのか,こここそが議論すべき喫緊の課題ではなかろうか,とわたしは考えています。
 この問題は,また,稿をあらためて書くことにしたいと思います。
 とりあえず,今回はここまで。

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