2011年2月8日火曜日

柏木裕美さんの能面展,初日。

 親しい人の展覧会には,できるだけ初日に伺うようにしている。それも,できることならオープンして一番乗りで。なかなかそうはいきませんが・・・・。
 今日(7日)は,太極拳の兄妹弟子である柏木裕美さんの能面展の初日。2年に一度,開催される恒例の銀座・文藝春秋画廊での展覧会である。こちらは,なんといったって暇人だから(すべての時間が自分の自由になるという意味で),午前10時のオープンに合わせて,画廊に押しかける。まだ,だあーれもいない画廊に,柏木さんがひとりで公開制作の場所の準備をしていらっしゃる。明らかに緊張している表情がみてとれる。目つきが違う。眼がギラギラしている。人相までいつもとは違う。相当に気合が入っている証拠。滅多にこんなきびしい表情をすることのないお人だけに,慎重に声をかける。
 「おはようございます!」 その瞬間から,いつものあの笑顔にもどって,こころの籠もったお礼のことばが飛び出してくる。そして,すぐに,オバマ面の位置が低いので,もう少しだけ高くしておいて・・・という具合に仕事がはじまる。よしよし,この調子。つぎは,額が傾いているので,その調整を・・・と。やはり,早くきてよかった,と思う。じつは人手が足りないので,できるだけ手伝ってほしい,とは言われていた。が,それほどでもなかろう,と高をくくっていた。しかし,こういう展覧会の準備というのは,完璧ということはありえないので,なにやかやと後追い的に補足をしなくてはならないことが多い。とりわけ,初日はたいへんなのだ。
 ようやく,まあまあ,こんなところですか,というころにお客さんが入ってくる。それがまた,真板先生の未亡人。柏木さんが大好きだった真板先生の奥様である。とても物腰の柔らかな,エレガントな女性。表情がとてもチャーミング。お人柄が一目でわかる。わたしは初めてお目にかかる。なんとまあ,素晴らしい女性であることか。しばらく3人で歓談。
 そのうちに,つぎつぎとお客さんが入ってくる。
 入り口のすぐ左側に公開制作の場所を設けてあるので,そこで制作をはじめると道行く人たちが立ち止まって覗き込んでいる。そして,そのうちのかなり多くの人がなかに入ってくる。
 正面奥に,サイズの大きい般若面(白い般若が真っ黒の漆の額に入っているので,存在感は満点)があり,そこにまずは眼が吸いよせられる。そして,左側には江田五月さんと下田歌子さんをモデルにした新作面。この2面がとてもいい。というか,えもいわれぬ独特の雰囲気がある。ある種の気品がただよう。その奥に並んで,小面,黒式尉,万媚,などの伝統面が,栗の木に漆をかけた板に収まっている。これが,とても落ち着いた雰囲気があっていい。そして,右側をみると,ここに40面もの「小面変化」の新作面が所狭しと,びっしりと展示してある。入ってきたお客さんのほとんどが,思わず驚いて足が止まる。みる人をして圧倒する迫力である。
 リーフレットにも大きな見出しとなっている「小面変化」(こおもてへんげ),100分の70。つまり,小面から般若までを100分割して,女性の喜怒哀楽や日常の表情を「アート」として表現してみようという壮大な企画の展覧会である。それが70面まではできた。あと,30面で目標達成というわけだ。全部が完成して,一堂に会することになると,いったい,どんな展覧会になるのだろうか,といまから楽しみである。少なくとも,2年後の銀座・文藝春秋画廊では,「小面100変化」展が間違いなく実現する。そのとき,わたしたちは柏木さんの意図するところを,ようやくこの眼にすることができることになる。
 そのうちの40面(この2年間に制作されたもの)が,一階の右側に集中して展示されている。このなんともいえない迫力の前で,みなさん,動かない。じっと眼を凝らして一点ずつ,じつに丁寧にみていかれる。それほどに一点,一点が個性的でおもしろいのである。とくに,女性の方たちの受けがいいようだ。多くの方が,わたしのこころを映し出されているような気がする,とおっしゃる。なかにはケラケラ笑い出される方もいらっしゃる。あまりに大きな声で笑ってしまったあと,わたしと眼が合ってしまい,「すみません」と謝る人もいらっしゃる。そこで,「作者はお客さんが笑ってくださることを期待してますから」とわたしが助け船をだす。そして,ついでに,作者はあの方です,と制作途中の前掛け姿でお客さんと立ち話をしている柏木さんを紹介する。すると,「あの方がお一人でこの作品を全部・・・・ですか?」と聞かれる。「そうです,この2年間で。それ以外にも,江田五月先生や下田歌子先生,その他の創作面も制作されていらっしゃいます」とわたし。「えーっ,そうなんですか」と一様に驚かれる。なんだか,自分の自慢話をしているような気分になってくる。やはり,太極拳の兄妹弟子は身内も同然なのだ。わたしもお客さんのつもりだったのに,いつのまにか,受け付け係をやりながら,お客さんのお相手までしている。
 初日ということもあってか,柏木さんとのお付き合いの深い方たちが,つぎつぎに現れる。それも一流の仕事をしていらっしゃる方たちばかり。ふだんの柏木さんからは想像もつかない交際の広さがかいま見られる。これもまた楽しいかぎり。そのつど,柏木さんがわたしを紹介してくださるので,一緒におしゃべりをさせていただいたりしながら,いつのまにか長居をしてしまう。夕刻には,江田五月先生が秘書とご一緒に現れる。ふと,気づくと入り口にSPの男性がひとり立っている。なぜだか,わたしもご挨拶をさせていただく。2年前に鼎談をさせていただいた稲垣です,と。「あー,あのときはわたしもうしろの方の席で聞かせていただきました」と記憶していらっしゃる。毎日,何十人,何百人という人に会っているはずなのに,やはり政治家のプロはすごいなぁ,と感心する。それにしても現役の法務大臣のお出ましである。こういう人を引き寄せるだけの「なにか」が柏木さんにはある。
 あっという間に一日がすぎてしまった。
 水曜日の午後には,知り合いの編集者がやってくることになっているので,もう一度,でかけようと思っている。こんどは,鼎談のネタづくりも兼ねて。

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