2011年9月11日日曜日

新しい創作能の可能性を探る「生まれたときは」(奄美自由大学)

昨日(9月10日)のブログで,能面アーティストの柏木裕美さんの「生まれたときは」が,今福龍太さんの奄美自由大学(9月2日~4日)で大活躍したことを書きました。そのあとで,ふっと面白いアイディアが生まれましたので,そのことを今日は書いておきたいと思います。

沖縄の若者が演じた空手の演武についてです。
十分に間をとりながらの演武でしたので,何分もの長い時間を演ずることができたとは思いますが,相当にハードだったのではないか,とわたしは推測しています。そして,それは間をとっていたとはいえ,その所作そのものは純然たる空手の型でした。つまり,スピード感あふれる空手そのものでした。この型を,超スローモーションで演じたら,どうなるのだろうか,と想像してみました。

「生まれたときは」は創作面ですので,それに合わせた即興詩をからめます。すると,そこに物語が生まれます。さらに,笛,鼓が入れば,能楽としての形式は整います。そして,超スローモーションの空手の型を,物語に合わせて,若干の演出(振り付け)にゆだねてみます。そうすれば,もう,立派な新作能(あるいは,創作能)の誕生です。

こんなアイディアが浮かんだのは,9月3日の夜,国直で「生まれたときは」のお面をつけて空手の型を演じた若者が,薄暗がりの中を下手(しもて)から登場するとき,たしか能楽の演者を意識してか,両手とも袖口をしっかりとつかみ,両腕を斜め下に伸ばして,重心をやや落して,しずしずと現れたように記憶していたからです。あの入り方だけで,すでに「幽玄」の世界が準備されるのだったら,そのまま,空手の型を超スローモーションで演ずるだけでも,新しい能の世界が開かれてくるのではないか,という次第です。そこに,川満さんの即興詩とのコラボレーションで,物語は明確になってきます。あとは,演出(振り付け)の工夫あるのみ,です。

舞台もいろいろと考えることはできそうです。
たとえば,波が打ち寄せる浜辺,あるいは,波のない入江の汀,鬱蒼と繁る森のなか,あるいは,ガジュマルの巨木の下,民家の軒先,安脚場のような聖地,公民館の土俵,島尾敏雄文学碑に通ずるアプローチの道,山の頂き,など場所に事欠きません。
灯も,月明かり,たき火,ろうそく,真っ暗,など。

空手の型を超スローモーションで・・・というアイディアが生まれた背景は二つあります。
一つは,太極拳。もう一つは琉球舞踊。

太極拳はご存知のように,中国の武術の型をゆっくりと演ずるものです。一つひとつの所作は全部,武術の型です。それをゆっくりとした所作で演ずることによって,武術の新しい道を切り開くことができた,とわたしは考えています。ひとつは,老若男女,だれでも稽古をすればできる,という道。もうひとつは,スローモーションにすることによって,技の難易度をみえやすくしたために,表演のレベルが高度化したこと,の二つです。

ですから,太極拳を「舞踊化」したり,「健康体操化」したりすることも可能だったわけです。日本には,最初に「健康体操」として紹介されたために,太極拳は「体操」だと思っている人も多くいらっしゃいます。また,太極拳を稽古されている人たちのなかには,まるで舞踊のように演じていらっしゃる方たちも少なくありません。武術から限りなく遠く離れた表現の手法というわけです。

その点,琉球舞踊は,意図的に空手の技を取り込んで,舞踊のなかに吸収してしまいました。いまでは,ある所作が空手の技からきていることを意識することなく踊っている人がほとんどだと聞いています。しかし,琉球舞踊の名人たちは,みなさん「闘う」ことのできる空手の名人でもあるわけです。

ですから,かつての首里城には武器はなにもなかった,といいます。薩摩の武士は刀を腰につけて意気揚々と首里城にやってきました。また,ペリーのような外国人も剣を身につけてやってきました。迎える首里城は,みんな「丸腰」のままです。その代わり,その人たちは,男性は空手の名手,女性は琉球舞踊の名人で固められていたといいうます。つまり,武器なしで「闘う」ことのできる人たちばかりだった,という次第です。こんど首里城にいくことがありましたら,確認してみてください。ここの建物には「柱」が多い,ということを。それがなにを意味しているかは説明するまでもないことだと思います。

さて,話が脱線してしまいました。
というようなわけで,空手を超スローモーションにして,若干の振り付け(演出)を考えれば,そのまま能の所作になりうる,というアイディアが浮かんだという次第です。

あとは「戯曲」です。こちらは今福さんにお考えいただいて,作・演出・監督で,映画も可能かと思います。トリン・ミンハさんのこともちらりと頭をかすめます。音楽も,お得意の島唄・三線が待っています。役者も揃っています。なんだか想像するだけでワクワクしてきました。

奄美自由大学は,こんな楽しい夢を描かせてくれるところでもありました。

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