2013年11月9日土曜日

東京五輪招致のしわ寄せか。明大のスポーツパーク計画中止。

 2010年から計画していた明大のスポーツパーク計画が中止になった,と11月7日の新聞で知った。もう少し精確にいえば,明大の八幡山グラウンド(世田谷区)が手狭になったので,日野市にあった多摩テックの跡地への移転を計画していた。当初の予定では来年4月にはオープンすることになっていた。しかし,それが東日本大震災の被災地復興のために建設資材や人材が不足し,思うように計画を進めることができなくなっていた。そこに,東京五輪招致が決まった。ますます建設資材も人材も不足することが予想され,事業費も当初計画の1.7倍に膨らみ,こんごますます事業費の高騰が見込まれるために,この計画を中止することにした,と明大広報課が発表。日野市は「地元の大きな期待を裏切る決定だ」と非難し,事業継続を求めているという。

 記事をまとめてしまうとこれだけの話。明大としては東日本大震災がまずは最初の誤算。これはだれの責任でもない。自然災害だから仕方のないこと。そこに大手ゼネコンが大移動して,被災地復興に全力を傾けるのも自然の成り行き。その段階で,すでに建設資材も人材も不足する事態が起きた。当然のことながら,事業費も高騰していく。そこに,東京五輪招致が決まった。向こう7年間にかなり大規模な施設建設ラッシュがつづく。となると,ますます建設資材も人材も不足し,事業費は雪だるま式に膨らんでいく。それは素人にもわかる。明大としては,これ以上の事業費を負担することは不可能と判断した。期待していた日野市はずっこけた。

 面白いのは,新聞の報道の仕方だ。大きな見出しの順番に書いてみると以下のとおり。
 一方的にノーサイド
 明大が計画 スポーツパーク
 多摩テック跡地への移転中止
 震災,五輪・・・事業費膨らみ

 写真も「八幡山グラウンド」と「多摩テックの跡地」を並べて掲載し,かなり大きな記事になっている。しかも,記者の記名入りの記事である。

 この記事を読んだ最初の印象は,明大が日野市との約束を一方的に破棄した,というものだった。だから,日野市は怒っている,と。

 しかし,よくよく考えてみると,明大の決断は仕方のないことだと思う。すでに,事業費が1.7倍になっていることを考えると,これからさき,どれほどの事業費に膨らんでいくかはまったく予測もつかないだろう。二の足を踏むのは当然だ。日野市の気持もわかるが,それほど単純なものではないだろう。

 にもかかわらず,新聞は「一方的ノーサイド」と大きな見出しをつけた。これでは明大が悪い,という印象を与えて当然だ。とはいえ,記事の内容を読んでいくと,仕方がないではないか,ということがわかってくるようになっている。あとは,読者がどう判断するか,だけの話。

 わたしの関心は,東京五輪のための施設建設は大丈夫か,というところに向かう。すでに,新国立競技場の建設費用が,当初の予定を大幅に上回り,その費用をどのようにして捻出するかと苦慮しはじめている。しかも,それ以後の維持費をどうするのか,というところまで議論が広がっている。この問題は,一度,あらためて取り上げてみたいと思っているが,いずれにしても,東京五輪開催のための施設づくりは難航しそうだ。すでに,外国からも,計画があまりに杜撰すぎる,という批判が噴出しているという。

 となると,この問題は明大だけでは済まされない,もっと重要な問題が隠されていることに気づく。つまり,東日本大震災の被災地復興もままならないのに,被災地を元気づけるために東京に五輪を招致しようという理念そのものが,矛盾していることに気づいていない。つまり,東京五輪招致による東京での建設ラッシュは被災地復興を妨害することになり,ますます復興が遅くなってしまうからだ。

 ここまで考えてくると,明大の決断は立派なものである,ということがわかってくる。自分のところはひとまず我慢して,被災地復興を優先させるべきだ,という筋のとおった理念が浮かび上がってくる。

 ここからみえてくることは,東京五輪の施設もできるだけ縮小して,被災地復興の邪魔をできるだけしないように配慮する,という新たな理念の必要性である。ところが,新国立競技場は「世界一」を目指すと河野事務局長は声高らかに宣言している。このノーテンキぶりにはあきれるしかないが・・・・。なんでもかんでも自分の手柄にしたい,そういう了見の狭い人たちが東京五輪招致に結集しているようにみえて仕方がない。

 こうなってくると,東京湾(葛西臨海公園)に人工の激流を起こすカヌー競技場(スラローム・コース)を新たに建設する,などという計画は狂気の沙汰としかいいようがなくなってくる。困ったものだ。

 これからみんなで声を挙げていく以外にはない。すでに,建築家集団がいろいろのシンポジウムや研究会を開いて,異議申し立ての文書を提出したりしている。この動向については,また,いつか書いてみたいと思う。

 今日のところはここまで。

 

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