2016年1月10日日曜日

大相撲初場所,初日見参。白鵬,勢に押し込まれて物言い相撲。

 初日の取組をみて,その場所の力士たちの好不調を占うのは,いわゆる相撲通にとっては欠かせない,重要な儀式だ。しかし,これはもう,ほとんど病気に近い人間たちのやることだ。かく申すわたしもその病人に近い人のひとりであることを自認している。だから,場所の初日だけは万難を排してテレビにしがみつく。とくに中入り後の取組は必見である。そんなときに電話が鳴ってもでない。急いで留守電に切り換えて身を守る。

 さて,今日の一番。

 まずは,白鵬と勢の一番。勢は,過去7回対戦してまだ一度も勝ったことがない。先場所は12勝3敗の好成績を挙げたけれども,やはり白鵬には負けている。白鵬も先場所は12勝3敗で,終盤に上位陣に星を落としている。この12勝3敗同士が初日に顔を合わせることになった。立ち合い,勢に分があった。まずは,白鵬の左上手を封じて,勢が前にでる。押し込まれた白鵬は左に大きく回り込みながら勢をはたいた。が,白鵬の体は完全にくずれていて,宙を舞いながら土俵上にころがった。勢が土俵下に転落していくのと,わたしの眼には同体とみえた。物言いがついたが,協議の結果,白鵬の勝ちとなった。

 きわどい勝負だった。紙一重の差でしかなかった。この一番,自信をつけたのは勢の方だろう。「攻めて負けたのだから悔いはない。横綱にだいぶ近づくことができたとおもう」と感想を述べている。白鵬は逆に,来場所は相当にふんどしを締め直してかからないと危ない,と感じたことだろう。その差はほとんどなくなってきている,とみていいだろう。

 この一番をみるかぎり,白鵬は,すでに,かつての白鵬ではなくなっている,とわたしはみた。今場所も10日目くらいまでは勝ちつづけるだろうが,上位陣と当たる終盤の5日間は相当に苦戦するだろう。鶴竜も日馬富士も,状態は先場所よりもよさそうだから。

 つぎは,鶴竜と嘉風の一番。ここ二場所,嘉風が連勝している。だから,鶴竜は相当にナーバスになっているのではないか,と想定した。が,そうではなかった。最後の仕切りに入っても,両腕の力は完全に脱力できていて,余裕すらみせた。そして,嘉風のつっぱりにも逃げずに応戦し,間合いが空いたところでタイミングのいいはたきをみせた。なすすべもなく嘉風はばったり両手をついて横転した。

 しかし,嘉風の調子は悪くない,とみた。今場所も暴れまくりそうな予感がする,そんな初日の相撲だった。褒めるべきは,鶴竜の方で,精神的に安定している。いつものポーカー・フェイスで表情はなにひとつ変わらないが,その表情に余裕が感じられた。からだの動きもじつにしなやかだった。この状態が維持できれば,鶴竜は優勝候補の一翼をになう有力な候補と言っていいだろう。だれを相手にしても,逃げずに,真っ正面から攻め込んでいけば十分に闘えるだけの力量はもっているのだから。その自信を持ちつづければ,そのまま勝ちが転がり込んでくるたろう。

 さて,もう一人の横綱・日馬富士。対戦相手は栃ノ心。がっぷり四つに組み合うと力負けしてしまう相手だ。立ち合いが勝負とみていた。すると,予想に反して右のどわが飛び出した。久しぶりである。右肘を痛めていて,先場所は右手をほとんど使っていない。その回復の具合が今場所の鍵を握っているとみていたが,これなら完璧である。

 強烈な右のどわで,栃ノ心の上体をのけぞらせたところで,左上手をつかみ,一気に投げを打った。これがみごとに決まって栃ノ心は土俵下まで転げ落ちていった。右肘が直っていれば,あとは両足首だ。これはもう時限爆弾のようなもので,ここに負担がかからない相撲を取りきるしかない。日馬富士のことだから,あの強い気力で乗り切っていくことだろう。先場所につづいての優勝も十分に可能だ。期待したい。

 以上が,3横綱の取組。新聞もテレビも,評論家たちは優勝候補の筆頭に白鵬を挙げているが,わたしはそうはおもわない。今日の一番をみるかぎりでも,3人の横綱のなかでは最下位の評価しかできない。むしろ,勢と互角とみた。その意味では,このあと,白鵬がどんな相撲をとるのか,その相撲内容に興味がつのる。勝ちはするだろうが,どんな勝ち方をするのか。今日のような相撲をとるようでは,あとがない。ましてや,終盤は絶望的だ。

 ところで,問題の一番。稀勢の里と安美錦。予想どおり波瀾が起きた。安美錦が右から張って,頭を下げて突っ込んでいく。稀勢の里がなにくそとばかりに押し返す。その瞬間,安美錦のはたきがでた。計算どおり。稀勢の里は横転して土俵下まで転げ落ちた。わずかな差で安美錦の左足は俵の上に残っていた。が,右足は土俵の外に大きく踏み出していた。行司は安美錦に。しかし,もの言いがつき,長い協議の結果,同体とみて取り直し。

 稀勢の里が頭を下げて突っ込んでくるのを,まるで見越したかのように安美錦は左に大きく飛んではたく。稀勢の里はかろうじて,土俵際で残したが,そこを安美錦に突き倒され,真後ろに倒れながら土俵下へ。無惨な負け。二番,つづけて安美錦の術中にはまってしまうところに,どうしようもない稀勢の里の弱点がある,とみた。

 序盤戦で星を落とす悪い癖(弱点)を克服しないかぎり,稀勢の里の綱はみえてこない。もうすでに30歳だ。そろそろ円熟してきてもいいのだが・・・。ここからの再起を期待したい。

 最後に,照の富士と松鳳山の一戦。立ち合いから松鳳山は双差しになり,攻めて攻めて攻めまくった。が,それでも勝てない。照の富士は両腕を抱え込んだまま防戦一方。徐々に,双差しを深く抱え込んで,松鳳山の両腕の関節を決めてしまい,最後は決め出しで決着をつける。こんなに大きな相撲をとられては,さすがの松鳳山もどうしようもない。まさに,怪物としかいいようのない照の富士の取り口だ。攻め込まれて棒立ちになっているのに,まだ余裕がある。不思議な力士だ。

 それより心配なのは,照の富士の両膝。部屋の兄弟子・安美錦ゆずりの,特殊なサポーターでがっちり固めて登場したが,状態はみかけほどではなさそうだ。明日からは,右でも左でも,どちらか一方を差して,じっくり構えて取れば,負ける相手はいないのではないか,とおもわせる豪快な相撲だった。

 照の富士のからだが完璧になったら,いったい,どれほどの強い力士になることだろう。その助走がはじまった。傷を負っていて,これほど強いのだから。将来の横綱を占う絶好の場所になりそうだ。白鵬にとっては最大の鬼門となるだろう。先場所の相撲がそうだった。今場所も力の入った音一番を楽しみにしたい。

 以上。
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