2015年11月6日金曜日

芸術の秋。日展・書道で,日比野光鳳(顧問),吉川美恵子(会員・審査員)さんの作品に出会う。感動。

 知人から日展のチケットをいただきましたので,早速,でかけてみました。秋晴れのいい天気でした。いつも感ずるのは新国立美術館の中のロビーに入ると,まるで空港のロビーに到着したような気分になることです。白い鉄骨を組んだ,全面,明るいガラス張りの明るい窓。しかも,全体が直線ではなく曲線。だから,室内の空間が広く感じられ,しかも,ソフトな雰囲気につつまれている。いい感じ。

 日展の全部門の展示が全館に繰り広げられているので,とても一日でみてまわれるようなわけにはいきません。だから,最初からみるポイントを決めてでかけることになります。

 わたしの場合には,いつも,まっさきに書道から。あとは,体力・気力の残余にしたがうことに。つまり,それほどに疲れるということです。作品の数と展示場の広さは半端ではないからです。延々と,何時間あっても見終わることはありません。疲れたら途中でロビーにでて,コーヒー・タイムをしながら,休憩をとります。この日は,風もなく晴れ渡っていたので,オープン・スペースにでてコーヒーを飲みました。紅葉した欅の葉が,時折,舞い落ちてくる。なかなか風情があっていい。

 さて,書道展。入口を入ったところから不思議な緊張感があって,例年になく作品に力があるな,と感ずる。このところ(ほぼ,毎年,見にきている),いろいろ騒動(審査の方法をめぐって)があったために,こちらの見る目が疑心暗鬼になっていたこともたしかだ。だから,どことなく「上手ではない」という先入観があった。でも,ことしはちょっぴり違う感じ。やはり,いい作品はないなぁ,などと勝手に類推していました。

 ことしはもうそういう先入観から抜け出たのか,比較的素直にみることができました。第一感は,みんないい作品ばかりだ,というもの。よくよくみてみると,入口にいい作品が集めてあるようです。が,それにしても上手い。達意の書が並ぶ。みごとなものだ,と感心してしまいました。が,欲をいえば,横一線。みんな似たような雰囲気の作品ばかり。つまり,そつなくこなれた筆づかいの作品ばかり,ということ。作品に,もうひとつ,気魄のようなものが感じられない。みる者のこころを「グイッ」と鷲掴みにして,動けなくさせるような迫力のようなものが伝わってこない。これは「ないものねだり」なのだろうか。

 ある展示室の入口のあたりに人が大勢いて,だれかが解説のようなことをしている。名札をつけた人も数人いる。ちょっと邪魔だなぁ,とおもいながら通りすぎようとしたら,「かな」の素晴らしい作品がかかっている。ああ,この作品の鑑賞をしているんだ,と納得。わたしは,作品全体の印象がとてもよかったので,足を止めてじっくりと鑑賞する。

 作品の右肩のところに「日展会員賞」と書かれた金紙が貼ってある。その下に,「春日の山」とあり,さらに「吉川美恵子(会員,審査員,奈良県)」とある。おもわず「アッ」と声を挙げてしまった。あの「吉川さん」だ,と。わたしが奈良教育大学に勤務していたころ(もう,30年以上前になる)に,新しい書道の先生として着任されたうら若き女性の名前が「吉川美恵子」さん。以後,年に何回かある懇親会でお話もさせてもらった懐かしい人。もともと書道は好きだったので,書道の先生方とは仲良しでした。しかも,奈良教育大学の書道の先生方はむかしから実力者ばかり。だから,書道科には全国から学生が集ってくる,人気の学科でした。

 大学祭や奈良県の芸術祭や,その他のもろもろのアート関連の展覧会があると,書道科の先生方がふるって作品を投じていました。そのたびに,わたしは足を運んで楽しませてもらいました。だから,先生方もとても喜んで迎えてくれました。そんな懇意にしていた先生のおひとりである吉川美恵子さんの作品に,期せずして,ことしの日展で出会うことになるとは・・・。しかも「日展会員賞」。

 
作品は,「春日の山」という題で,つぎのような歌が書かれていました。
 「妹が目を始見の崎の秋萩は
 この月ごろは散りこますゆめ
 雨隠り情いふせみいで見れば
 春日の山は色づきにけり
 ──以下略。」

 
かなりの大作で,しっかりと鑑賞させてもらいました。

 じつは,奇跡はこれだけではありませんでした。

 この作品の斜め向かい側に,なんと「日比野光鳳」さんの作品が額に入ってかかっているではないか。この日比野光鳳さんも奈良教育大学の書道の先生で,学内では「池田先生」でした。わたしとほとんど同じ年齢でしたので,とても仲良くさせてもらいました。スキーの好きな先生で,学生のスキー実習に参加させてほしいと言って奥さんとお二人でいらっしゃったことがあります。お手並みを拝見したら,思いの外お上手でしたので,わたしの班(1班,一番上手なクラス)に入ってもらって,一週間ともに楽しく過ごしたことがあります。

 池田先生もわたしもまだ若かったので,お互いにまだ無名でした。が,すっかり意気投合し,仲良しになりました。しかし,その直後くらいから池田先生の大活躍の時代がはじまります。あっという間に日展・特選をへて会員となり,審査員となり,いまや「顧問」です。気持ちのやさしい人で,いつも飄々として,空気のような存在でした。なにごとも淡々とやりすごしながらも,時折,きらりと目が光ることがありました。そんなところを,池田先生のお師匠さんは(日比野五鳳),しっかりと見ておられたのでしょう。池田先生の号は「光鳳」。

今回,展示されていた作品は,以前にもまして飄々とした作風になっていました。
作品は以下のとおり。(大伴家持 新年)

「新しき年の初めの
初春の今日降る雪の
いやしけ吉事」

 
まあ,偶然とはいえ,こんな「出会い」もあるんだと欣喜雀躍の日展・書道の部でした。会場をあとにするときには,なんだかわたしまでも「偉く」なったような気分でした。古い知己の人びとが,世の中で活躍している姿に接するのは,これまたなにものにも代えがたい至福の時と言っていいでしょう。

 やはり,長生きはするものだ,としみじみ。とてもいい秋の一日でした。
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