2015年11月8日日曜日

浅田真央の復帰戦,おみごと。異次元世界へあくなき挑戦。

 あくことなき可能性への挑戦。
 生まれ変わった浅田真央さん。みごとなまでの復帰戦でした。

 失敗もありました。レベルの高い跳躍技をふんだんに取り入れた演技構成。その大半をみごとに成功させ,まずまずの仕上がりぶりを披露してくれました。

 それよりなにより感動したのは,これまでとはまた一味違う異次元世界をかいま見せてくれたことです。守りにまわるのではなく,あえて,新しい自分を,自分の目標とする滑りを,全面に押し出したその勇気に感銘を受けました。

 リンクの中央に立ち,スタートのポーズをとった瞬間から,アップで映っていた顔の表情が変わりました。ここにいたるまでのプレッシャーを断ち切るかのように,ちょっと悲しげな仏像の表情になりました。そして,どこか遠い世界に思いを馳せているような,そんな表情にみえました。オーバーな言い方をすれば,興福寺の阿修羅像の顔が放つ,あの深遠な雰囲気が,一瞬でしたが流れました。この瞬間から,あっ,浅田真央が変わった,と確信しました。

 最初のジャンプを成功させると,一気に新しい浅田ワールドへの突入でした。滑りが違う。からだ全身から表出する動きの貯めが違う。いっぱいいっぱいの滑りの先に広がる夢幻の世界を彷彿とさせるなにか(etwas )が伝わってきました。彼女の理想とするフィギュアスケートに一歩近づいたのだ,とわたしは受け止めました。そちらに感情移入が大きくゆらぐとき,ジャンプに乱れがでてしまったようにおもいました。

 しかし,それでも彼女の演技は抜群の出来ばえでした。それは,みごとに点数に現れていました。採点競技は,どの種目でも同じですが,無慈悲なものです。きわめて物理的に「加点」「減点」をルールにしたがって行います。体操競技も同じです。ですから,よくわかります。

 浅田真央の前に滑った本郷理華も立派でした。元気いっぱい若さを全面に展開させる,これまたみごとな滑りでした。ミスもほとんどなく思い描いたとおりの滑りができたのではないかとおもいます。その結果は,フリーで最高得点。浅田に4.22点の差をつけました。が,SPの得点差を埋めることはかなわず,総合点で1.72点及ばず。しかし,大健闘でした。たくましい新人が登場し,日本女子フィギュアは,これからますます激しい切磋琢磨がつづきそうです。

 しかし,少しだけ厳しい言い方をしておきますと,浅田と本郷の滑りにはまだまだ格段の差があります。到達している境地そのものでいえば,天と地ほどの差があります。そこを,こんご,本郷はどう埋め合わせていくのか,大きな課題といっていいでしょう。でも,まだ若いのですから,本郷には十分そこを詰めていく可能性が残されています。それを楽しみに待つことにしましょう。

 この差はなにか。これを説明するのはむつかしい。体操競技でいえば,内村航平がめざしている「美しい体操」です。同じ演技内容で,同じように演技が成功したとしても,内村選手の演技と他の選手のそれとでは雲泥の差があります。しかし,物理的な加点・減点法のルールでは,ほとんど差はでません。にもかかわらず,ある程度,体操競技に精通している人間からすれば,まるで「次元」が違うという見方をします。見ていて,演技の内奥に秘められたetwas が伝わってくるのです。そこは,まさに深淵の世界であり,幽玄の世界です。こういう要素は加点の対象にはなっていません。ですから,現行ルールによる採点では,ほとんど差はでてきません。

 しかし,フィギュアの場合には,一人ずつ演技をしますので,会場の観衆のこころをつかむことはできます。今回の本郷は,ジャンプをつぎつぎに成功させることによって会場の空気をひとつにすることができました。ですから,彼女自身もその場の力に乗って,最後までのびのびと演技をすることができました。その結果が,フリーでトップの得点となって表れました。

 ということは,浅田選手の難度の高い構成のジャンプがつぎつぎに決まるようになってきますと,これはもう鬼に金棒です。おそらく,浅田選手はそれを目標にかかげているのだとおもいます。復帰第一線で優勝。このことが,まずは,なによりも「只者」ではない証拠です。強いセルフ・コントロールの持ち主です。自分に誓ったことはかならず実現させることでしょう。

 グランプリ・ファイナルに向けて,ようやくこれでスタートを切ることができます,と優勝インタヴューに答えていた浅田真央さん。これから,ますます,念願の「蝶々夫人」に磨きをかけて,ファイナルまでには完成させてくれることでしょう。どんな成長ぶりをみせるか,いまから楽しみにしたいとおもいます。

 浅田真央は,まずは,ひとりの人間として立派です。そこが好きです。ひとつの道を極めようというその姿勢が素晴らしい。こういう人に出会うと,わたしはもうぞっこんです。あっ,余分なことを書いてしまいました。最後の一文は「削除」(笑い)。

 浅田真央選手にこころのかぎりのエールを送りたいともおいます。
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