今日から大相撲がはじまった。世間の話題は,白鵬が双葉山の69連勝を破るかどうか,そして,どこます連勝記録が延びるのか,で盛り上がっている。
この話題に水をさすつもりは毛頭ないが,単なる数字だけでものごとを比較することの「愚」に陥らないために,ひとことだけ言っておきたいことがある。
つまり,ものごとを「比較」する場合には,その基準をどこにおくか,ということがとても重要だ。結論から言っておけば,双葉山の69連勝と白鵬の69連勝は,比較の対象にはならない,ということだ。数字だけみれば,同じ69連勝なのだから,まったく同じではないか,という考え方もある。しかし,それは,あまりにうすっぺらい,表面的なものの見方でしかない,とわたしは考える。大相撲の醍醐味を堪能しようとする人なら,そんな単純な比較の仕方はしないだろう,とわたしは確信する。その根拠を以下に提示しておこう。
その前に,ひとこと。白鵬が69連勝を達成したときに,白鵬がみずから「わたしの69連勝は,双葉山関の69連勝の偉業に比べたら,まだまだ足元にも及びません」と言うのではないか,という期待がわたしのこころのなかにある。もし,これを言ったとしたら,わたしは文句なく白鵬のファンになるだろう。そして,名実ともに大横綱として認めたい。
このことと,さきほど書いた「根拠」とは深い関係がある。
さて,その「根拠」とは?
まずは,双葉山の69連勝がどのようにして達成されたのか,その内実をみてみよう。
双葉山時代は,年2場所制であること。しかも,1場所11日制であったこと(途中から13日制になった)。だから,足掛け4年かけて69連勝を達成していること。以上。
もう少しだけ,踏み込んでおこう。
1937年と1938年の2年間,4場所,全勝して挙げた勝ち星は「50」勝である。その前の年の1936年1月場所の5日目から連勝がスタートする。が,この場所の勝ち星は「7」,5月場所は全勝で「11」,それに1939年1月場所の「3」,これらを全部足して,やっと「69」となる。
さらに,踏み込んでおくと,1939年の1月場所の双葉山は,前年の満州巡業の折にアメーバ赤痢に罹り,体重が激減し,体調も不十分のため,休場を考えていた。しかし,この場所の直前に,横綱玉錦が盲腸炎をこじらせて急死するというアクシデントがあった。そのため,力士会長を玉錦から双葉山が引き継ぐことになり,その責任上,休場するわけにもいかず,やむなく出場。結局,この場所は,双葉山の成績は9勝4敗に終わっている。そして,つぎの場所には体調をとりもどし,全勝優勝を飾っている。もし,満州巡業によるアメーバ赤痢感染というアクシデントがなかったら,双葉山の連勝記録はどこまで伸びていったか,予測がつかないほどである。
まあ,こういう記録を比較するときに「もし」という仮説は意味がないとしても,双葉山が69連勝を達成した条件を,そのまま白鵬に当てはめてみると,驚くべき数字が浮かび上がってくる。
つまり,足掛け4年間にわたって連勝するということを,こんにちの年6場所に当てはめてみると・・・・・。丸2年間全勝しただけで,180連勝となる。連勝のはじまりは1月場所の7日目からなので,この場所だけで9勝,そして残りの5場所の全勝で75勝。4年目の1月場所の3勝。全部足すと,なんと「267連勝」という数字になる。
足掛け4年にわたって負けない,負けたことがない,ということはこういうことなのだ。これが双葉山の69連勝の内実なのだ。このことを白鵬がもし自覚していたとしたら,わたしの期待する談話が白鵬の口からでてくる・・・・のでは?という次第である。
年6場所・15日制のこんにちの大相撲でいえば,1年間,絶好調であれば「90連勝」が可能なのである。しかし,年2場所・11日(13日)制の双葉山時代に「90連勝」するには,最短でも,3年半を要する。
これもまた,単なる数字ころがしの遊びではないか,と言われればそのとおり。しかし,数字の裏側に隠されている事実関係を確認してみると,こんな世界がみえてくる,というもう一つの数字のマジックが存在する。どうせ,数字ころがしで遊ぶとすれば,こういう遊びを楽しみたい。これもまた,わたしのいう,相撲の醍醐味の一つなのだから。
誤解されるといけないので,最後にひとこと。
白鵬の連勝記録がどこまで伸びていくか,じつは,わたしとて大いに楽しみにしているのである。しかし,69連勝というのは大きな壁であることに間違いはない。今日もずいぶんと固くなっていたようだが,これから日を追うごとにプレッシャーがかかってくるだろう。ますますからだが固くなってくるようなことがあると,意外なところでコロリということが起こる。激しく動き回るスピードのある力士に要注意だ。
なんとか69連勝を突破して,そのさきに広がる前人未到の世界を楽しんでほしい。つまり,記録のための「負けない」相撲ではなく,大観客を大喜びさせるような「見せる」「魅せる」相撲をとってほしいものだ。たとえば,「呼び戻し」とか,「仏壇返し」とか・・・・。
「69連勝」は一つの通過点。そのくらいの気持ちで白鵬は相撲に取り組んでほしい。実力的には,もはや,他の追随を許さない圧倒的な力をつけたのだから。大相撲のほんとうの醍醐味を土俵の上で魅せてほしいものだ。朝青龍のように・・・・・。
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