2014年12月5日金曜日

「アメリカが他国から攻撃されたとき,日本(軍)に助けてもらおうなどとは思っていない」(マイク・モチヅキ)。

 シンポジウム「安倍政権の歴史認識を問う」──「戦後レジームからの脱却」と外交,を傍聴してきました。議論の意外な展開に立ち会うことになり,ほう,そんなものなのか,と驚きました。その驚きの部分をとりだして書いておきたいと思います。

日時:2014年12月3日(水)19:00~21:00。
場所:法政大学市ヶ谷キャンパス55・58年館532教室。
主催:新外交イニシアティブ(ND)
コーディネーター:猿田佐世(ND事務局長・弁護士)
登壇者:山口二郎(ND理事・法政大学教授)
     マイク・モチヅキ(ND理事・ジョージ・ワシントン大学教授)
     東郷和彦(元オランダ大使・京都産業大学教授)

 シンポジウムの主旨は,当日,配布されたリーフレットに手際よく書いてありましたので,それを転載しておきます。

 この11月,2年半ぶりに日中首脳会談が行われ,日中の関係改善が期待されています。
しかし,「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍首相の下,昨年12月の靖国神社参拝,「慰安婦」問題を巡る河野談話の検証など,近隣諸国や米国を刺激する動きが相次いでいます。
大きく政治が動くこの時期に,戦後処理や歴史認識問題を改めて振り返ります。

 以上の主旨を読めば,このシンボジウムの骨格がみえてきます。なるほど,そういうことかと納得した上で登壇者の話に耳を傾けました。結論から言いますと,三者三様の立場から,それぞれ異なる考えや意見が繰り出され,ハラハラドキドキさせられる,そういうシンポジウムでした。

 まず,冒頭で猿田さんから主旨説明があり,山口,東郷,モチヅキの順に意見陳述が行われ,そのあとフロアからの質問用紙を回収して,司会の猿田さんが質問用紙の問題を整理して,シンポジストに問題を投げかけ,それに応答するという手順で展開されました。

 全部を紹介することはてともできませんので,わたしの脳を活性化させた驚くべき発言と,なるほどと納得させられた話をとりだして書いてみたいと思います。

 驚き,あっけにとられたのは東郷和彦さんの話。そのポイントは以下のとおりです。安倍首相が月に一回の割合で外遊し,日本の主張を世界に広めたことは素晴らしいことだった。集団的自衛権の行使容認を閣議決定したことは,これまでの憲法9条に縛られてきた日本の立場を解き放ち,少なくともアメリカと対等に話ができる第一歩となった。つまり,自立に向けての第一歩だと評価できる。これで,アメリカが他国から攻撃されたときには,日本はアメリカを助けるべく大きな貢献ができるようになった。さらに,従軍慰安婦問題にも触れ,安倍首相を擁護する立場を鮮明にしていました。朝日新聞問題についても同じ。

 わたしは唖然としながら,この人が,かつて外務省でかなりの活躍をされ,注目を浴びた人なのだと知り,開いた口がふさがらない思いをしました。外務省の元役人の発想というものは所詮はこういうものだったのか,といまさらながら驚いてしまいました。そして,いまも,こういう発想から抜け出してはいない,ということに・・・。

 この東郷さんの発言の間,山口二郎さんは苦虫を噛みつぶしたような顔をしていました。腹に据えかねるという気持がフロアにも伝わってきました。もう一人のマイク・モチヅキさんは,呆気にとられたような顔をして東郷さんの顔をじっとみつめていました。まるで,あなたは正気か,と問いかけているような雰囲気でした。

 この東郷さんの話を受けて,マイク・モチヅキさんは,いきなりつぎのような話をされました。アメリカが他国から攻撃されたとき,日本に助けてもらおうなどとは,アメリカ人はだれも思ってはいない,と。だから,日本が集団的自衛権をもつことは,日本の自己満足であって,国際社会的にはほとんどなんの意味もない,と。さらに,従軍慰安婦問題についても,2007年に米下院が非難決議を全会一致で採択したときの経緯にふれて,つぎのように述べていました。日本の有志が従軍慰安婦問題を否定する「意見広告」をワシントン・ポスト紙に全面広告として掲載したことが,アメリカ人の神経を逆撫ですることになり,かえって米下院の反発を買い,「全会一致」という決議決定へと導く原因になった,と。以後,アメリカが日本をみる目は大きく変わった。つまり,不審の目で見始めた,と。そのまなざしは,近年,さらに悪化している,と。このまま日本がいまの路線を突き進むと,完全に国際社会から孤立してしまう,そのことを強く危惧する,と。

 山口さんは,この日,風邪を引いていて調子が悪かったようです。他の人が発言中は,何回も鼻をかみ,眠気を覚ますようなしぐさもみられ,ときにはあくびをかみ殺していました。報道関係者も比較的多かったこともあってか,発言もいつもの冴えはみられず,こんどの選挙に関しても,悲観的観測と同時に希望的観測もできる,という妙なスタンスのとり方をしていて,おやおや,と思いながら聞いていました。どうやら,いつものような過激な発言は,すくなくとも,この選挙期間中だけは慎もうとしているように見受けられました。悪く言えば「自発的隷従」。山口二郎をして,こういう守りの姿勢に入るのか,といささか驚きもしました。

 まあ,全体的な印象としては,こうも立場も意見も違う人を集めて,あえてシンポジウムを仕掛けたコーディネーターの猿田佐世さんの思惑に,いささか意表をつかれた思いがしました。司会者としてもみごとな裁き方をし,この才媛のこんごの活躍に期待したいと思いました。

 以上,ご報告まで。

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