ことしの正月は元旦から毎日,鷺沼の事務所に通って,とうのむかしに締め切りのきてしまっていた仕事の切りをつけようと必死に頑張りました。で,その甲斐があって,ようやく目処がつくところまでこぎつけました。あと一息というところで今日は一服することに。
なぜなら,今日は太極拳の初稽古の日。
やはり,初稽古というのは,なにかにつけなんとも気分が改まるものです。
ここ数年,仕舞い込んだまま着ることもなく,放ってあったカウチングを羽織ってでかけました。ひところ大流行して,多くの人が愛用していましたが,最近ではとんとお目にかかることもなくなりましたので,そろそろいい頃合いかと考えました。案の定,若い人たちの眼はこちらにそそがれており,これでよし,と自分に言い聞かせました。また,わたしと同じくらいの世代の人たちは,まだ,あんなものを着ている人間がいる,といういささか冷めた目つきでこちらをみていました。これはこれで,計算どおり。悪いものではありません。こうして,わたしなりにありきたりではない正月気分を味わいながら大岡山へ。
まずは,会館の借用料を支払いに大岡山の北商店会の副会長さん宅を訪ね,新年のご挨拶。もう正月の三が日もすぎていていささか遅いかと思いましたが,でも,ものごとにはけじめというものが大切だと考え,少しだけ声を張って「明けましておめでとうございます」と声をかけました。わたしと同じくらいと見受けられる令夫人が,はっと一瞬息をのみ,あわてて「明けましておめでとうございます」と返してくれました。これで緒戦突破です。なにごとも最初が肝腎,遅れをとってはいけません。これで先手がとれましたので,こんどは余裕で「正月の五日になって,こんなご挨拶はもう遅すぎるかな,と思いましたが・・・」と追い打ちをかける。くだんの令夫人,「いえいえ,おめでたいことは遅すぎるということはないと思います」と笑顔で応答してくださる。これで,このあとの会話はじつになごやかに進む。お金と通帳をわたして印鑑をもらい,間髪を入れず「本年もよろしくお願いいたします」とこちらからご挨拶。またまた,あわてて「こちらこそ,どうぞよろしくお願いいたします」。これでことし一年は大丈夫,と気持ちがすっとしました。
毎月の最初の稽古日にお金を払いにうかがうわけなので,少しでも楽しい会話ができた方が,双方のためにもいい,と古い人間であるわたしは考えます。こんな些細なことではありますが,こんな他愛のない日常の積み重ねが楽しく生きる智慧ではないか,と古い人間であるわたしは考えます。だから,できるだけさりげなくこういうことを実行しようと思っています。でも,相手を間違えると嫌がられることもあります。そうならないように,そして,気づかれないように,最初はかなり慎重に対応することにしています。
午前10時30分。柏木さんを除いて全員(5人)が顔を揃える。柏木さんは,正月三が日を安曇野の穂高神社で開催した能面展で過ごし,昨日の4日に作品を片づけて荷造りをして発送し,夜帰宅されたばかりで,とても疲れているし,荷物を受けとらなくてはならないのでお休みします,と連絡がありました。わが太極拳仲間にあっては紅一点。しかも,あの明るい性格で雰囲気を盛り上げてくださるので,柏木さんの不在はなにか歯が抜けたあとのような感じです。これはみなさんも同じ感想のようで,西谷さんも開口一番「柏木さんは?」とおっしゃる。関口さんも「あれ,柏木さんは?」と同じ問い。やはり,わが太極拳仲間にとって柏木さんはなくてはならない存在なのです。わたしが説明すると「ああ,そういえばそんな話でしたよね」と思い出してくれる。「それにしても,正月からもう仕事をしていたんだ」「凄いですよね」とみなさん感心していらっしゃる。わたしも同感。
そんな会話をしているうちに,西谷さんが掃除機を引っ張り出してきて,掃除をはじめました。あれっと思って声をかけると「なんとなくほこりが眼についたもんだから・・・」と。ごく当たり前のように掃除を始めました。ちょっと具合が悪いなぁとみんな思っているのですが,手を出すタイミングを逸してしまったようで,なすすべもなくそれぞれ準備運動らしきものをはじめています。わたしはこのままでは申し訳ないと思い,掃除機のコードを延ばしたり,コンセントを差し替えたりして,なんとなく手伝っているふりをしました。西谷さんは,自分で思い立ったことはさっさと自分ではじめる,そういう人なんだということは知っていましたが,ここは一つ遅れをとってしまったなぁ,と反省。
これでよし,という爽やかな顔で西谷さんも準備運動にとりかかりました。少しずつからだをほぐしながら,ストレッチにとりかかったところで,西谷さんが,休み中にさぼっていたのですっかり固くなってしまった,とひとりごと。でも,一番固いのは関口さん。二人の院生さんたちも必死でストレッチ。去年の15日(水)が最後の稽古だったので,みんな久しぶり。わたしは,暮れも正月も体調がすこぶるよかったので,鷺沼の事務所でかんたんな稽古をつづけていました。ですから,いつもと同じ。
こうして,いつもどおりの準備運動をやり,ストレッチをやり,基本運動をやり,気功をやり,基本の型の稽古をやり,24式へと進みました。そして,お互いの気になる動作を確認し,調整して,さて,このあとどうしようかなというタイミングで,珍しく,関口さんから「もういっちょ」という合図がありました。それでは,ということで2回目の24式へ。みんな気合が入っていましたので,気持ちよく2回目もできました。
ことしの初稽古にしては,なかなか実のある稽古ができたかな,と思います。みんな,朝,顔を合わせたときとは打って変わったいい顔になっていました。ここが太極拳のいいところだ,とわたしは思っています。上手になるということよりも,稽古をはじめると徐々にからだの芯が温かくなってきて,からだ全体がほぐれていくのを感じます。そして,調子のいいときには,手の指さきが微妙にふるえはじめます。気が流れたときです。このときの快感がたまらない。李老師は,からだ全体に気が流れ,快感につつまれる,と言います。それはもう,なにものにも代えがたい快感である,とおっしゃる。少しでも,その境地にあやかりたいものだ,といつも願いながらわたしも稽古をしています。上手・下手は度外視して,快感をさぐること。その結果として,気がついたら,上手になっていた,というのがわたしの理想です。
稽古が終わると,いつもの「珈琲館」へ。もう,顔馴染なので,店の人たちも一様に笑顔で迎えてくれます。そして,稽古のあとのハヤシライス。でも,今日は,なんと全員がハヤシライスではなくてカレーライスでした。こんなことはとても珍しいことです。みなさん個性的な人たちばかりですので,食べ物はきちんとその日のからだの様子を考えながら,好みのものを選択します。ですから,これは新年の特異現象。話題は多岐にわたりました。沖縄のこと,ボローニヤのこと,広島のこと,都知事選のこと,大阪のハシモト君のこと,名古屋のカワムラ君のこと,アメリカのジャパン・ハンドラーのこと,などなど。そして,最後は,もっぱら「ダメカン」「アカン」の「カンチガイ」政権に集中。いまの民主党は政権交代したことの意味がまったくわかっていない・・・・と西谷さんは手厳しい。大新聞まで,オザワ潰しに大合唱をしている,とも。こうなったら,意地でもオザワ支持を言わなくては・・・などと半信半疑の発言まで飛び出す。まあ,新年早々の放談のつもりが,いつのまにか真剣そのものに。ここに柏木さんがいたら,もっと面白い話になっただろうになぁ・・・・と残念の極み。
天気は快晴。いい気分で解散。また,来週,と声を掛け合って。
今日はとてもいい稽古始めでした。
この人たちと週に1回,顔を合わせ,昼食を共にし,いろいろおしゃべりすることのできる幸せをしみじみと思う,そういう日でした。神様に感謝。
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