2011年1月16日日曜日

『嗜み』9号の見本誌がとどきました。

 『嗜み』9号(文藝春秋)の見本誌がとどきました。今回は「食こそ人生」という特集になっています。この雑誌にしばらく前から原稿の依頼がくるようになり,毎回,なにかを書かせてもらっています。もちろん,わたしの担当は特集(今回は「食」)とはなんの関係もありません。この雑誌の最後のところに「TASHINAMI  INFORMATION/Cross Cultural Review」というコーナーがあって,そこのコラムを担当しています。このコーナーでは,BOOK, ART, MOVIE, MUSIC, DVD/Blue-ray. という5つのジャンルの情報を8人ほどの評者が分担して執筆しています。
 この5つのジャンルは,お前とはなんの関係もないではないか,と言われてしまえばそれまでの話です。でも,わたしの出番もないわけではないのです。このコーナーはアルシーヴ社の佐藤真さんが担当しておられ,この辣腕の編集者が,わたしにもひとこと言えそうな題材を選んで割り振ってくれます。しかも,なんの拘束もなく,まったく自由に,思うままに書いていい,という依頼です。まことにありがたいことではあります。が,わたしはこれまでこのようなジャンルの批評ということはしたことがありません。ですから,いまも,ずいぶんととまどっています。でも,何回も回を重ねていくうちに,なんとなくこんな感じかな,というわたしなりのスタンスのようなものが少しずつ掴めてきたように思います。でも,まだまだこれからですが・・・・。
 このコラムを担当する人たちは,たとえば,今回の9号で登場する人たちでいいますと,以下のとおりです。
 管啓次郎(翻訳家),大竹昭子(作家),渡邉裕之(都市文化批評家),大城譲司(ライター),五十嵐太郎(建築評論家),小沼純一(音楽・文芸評論家),香山リカ(精神科医),といった人びとです。わたしから言わせれば,とんでもない執筆陣の顔ぶれです。そこにわたしのようなものが加えてもらっていいのだろうか,と戸惑うばかりです。ですから,どれほど,わたしが緊張しながらこの仕事にたずさわっているかは想像していただけるものと思います。
 しかも,このコラムの仕掛けの面白いところは,一つの作品(単行本にしろ,映画にしろ,展覧会にしろ)を二人のジャンルの違う評者がそれぞれの立場から論ずるという点にあります(Cross Cultural Review)。ですから,わたしのようなものの書くものと,上に記した人たちの書かれるものとが「対比」されるような形式で掲載されるわけです。もう,すでに香山リカさんとは2度も同じコラムを担当させていただきました。そのつど,冷や汗たらたらです。でも,わたしとしては,あの香山さんが,同じ作品を,こんな風にご覧になられたのだ,ということがとてもよく伝わってきて,なるほどなぁ,といい勉強をさせていただいています。
 最初,この企画がスタートしたときのわたしの肩書は「ISC・21」主幹研究員,というものでした。他の人たちの肩書とくらべてみたら,これではなにをしている人間かわからないなぁ,ということに気づきました。そこで,いまでは「スポーツ史家」という肩書にしました。そうしたら,やはり,書きやすくなってきました。つまり,なんの断りもなしに,ストレートに自分の土俵に持ち込んで批評をすればいい,ということがわかってきたからです。そうしますと,やはり,他のどなたともバッティングしない,ということもはっきりしてきました。と同時に,「スポーツ史家」のまなざしなどというものは,これまでどなたも考えたこともない,まったく新しい,あるいは,意表をつくものになる可能性がある,ということにも気づいてきました。
 ここまできて,ようやく,あの辣腕の編集者・佐藤真さんが,わたしを起用した理由がわかってきました。でも,そうなるとそれはそれで,こんどは責任重大ということになってきます。つまり,「スポーツ史家」のまなざしが,現代社会や人間や世界を,どのように批評することができるのか,が問われることになるからです。この点で,今福龍太さんの主張される「批評」と「評論」の違いに気づかせていただいたこと(『近代スポーツのミッションは終わったか──身体・メディア・世界』,西谷・今福・稲垣共著,平凡社,2009)が,とても役立っています。しかも,この本のなかで,西谷さんも,今福さんも,ともに,スポーツはもはや世界や人間やメディアを考える上では不可欠の文化であるし,それらを写し取るための絶好の写し鏡でもある,とおっしゃっています。ですから,このお二人に背中を押されるようにして,わたしはいまこの仕事に,じつは,本気で勝負しているつもりです。
 なぜなら,「スポーツ史家」のまなざしが,これまでの批評の世界には欠落していた,ということに多くの人たちが気づいてくれたら,そのときこそわたしが長年にわたってやってきた仕事が報われるときだ,と考えているからです。いま,取り組んでいます「21世紀スポーツ文化研究所」(「ISC・21」)の最大の課題は,これだ,と言っても過言ではありません。ですから,ますます,この『嗜み』での仕事は緊張度を増しつつある,というのが本音でもあります。

 というわけで,今回の9号では,P.120とP.121に,わたしの担当部分が掲載されています。ので,ぜひとも,書店で本を手にとり開いてみてください。すでに,このブログでも書いたように記憶しているのですが,一つは,映画『アンチクライスト』,もう一つも映画『死なない子供,荒川修作』です。幸いなことに,どちらも,わたしのこころの琴線に激しく触れるものがありましたので,全身をわなわなと震わせながら,気持ちをこめて書きました。ぜひ,ご一読を。ちなみに,1月25日発行です。書店には,それ以後に並ぶはずです。
 どうぞ,よろしくお願いいたします。

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