2011年11月27日日曜日

「身体はまるで軟体動物のよう・・・」宇宙飛行士古川聡さん,ツイッターで。

今日(27日)の東京新聞で,宇宙飛行士の古川聡さんが「身体はまるで軟体動物のよう」とツイッターでつぶやいたということを知り,急いでその出典を確認してみました。ありました。順番に紹介しておくと,以下のようです。

「無重量環境では,自分の脚の重さを考えないでよいので,わずかな力で脚を上げることができた。地上でも脳は,わずかに脚の筋肉を動かすことで歩けると判断して指令を出した。しかし,地上では大腿はほとんど上がっておらずつまずきやすかったものと推測」

宇宙飛行士が無重量環境から重量環境にもどってくると,大腿への命令がうまく伝わらず,つまずきやすくなる,と聞いてなるほどなぁ,と納得。でも,無重量環境でからだを動かすことはできるわけですので,それなりの筋肉は使っているはず。しかし,ほんのわずかな命令で動くことができるらしいということは,宇宙飛行士の無重量環境での訓練を伝える映像などで,想像はしていました。しかし,歩けなくなるほどとは思ってもみませんでした。

それにしても,「無重量環境」というものがどういうものなのかは推測するしかありません。わたしの経験に近いものとしては,鉄棒の車輪をやっていて手が滑って飛ばされ,空中に投げ出されたときの状態なのかな,と想像しています。しかし,この場合には,遠心力が加わっていますので,自動的にからだは回転していきます。それに抵抗するのですが,それはどうにもなりません。ですから,それとも違うようです。

歩行するときに「つまずく」という経験はあります。むかし,海で3時間ほど遠泳をして浜辺にもどってきたときに,立ち上がって,歩こうとしたとたんに前にばったりと倒れてしまったことがあります。この場合には,大腿が,脳の命令をほとんど受け入れることなく動かなかったように記憶しています。ですから,そのまま,じっとうつ伏せに横たわったまま,脚に感覚がもどってくるのを待ちました。大腿が温まり,感覚がもどってきたので,そろそろいいかなと思って歩きはじめたときに,思いがけず「つまずく」ということがありました。その感覚に近いのかな,と想像。

「ドクターの観点から。重力は,耳の奥にある前庭という部分で感知される。前庭がすっかり無重量環境に慣れてしまったため,再び重力に適応するための過程だったのであろう。」

古川さんはお医者さんだったのだ。うかつにも知りませんでした。ならば,なおのこと好都合。これを読むと,重力に慣れるということ,つまり,神経回路の回復と筋肉の反応が順調にいくようになるには,時間がかかるということのようです。長期にわたる療養生活をして,ずっと寝ているだけの生活をしていた人が,病気が癒えて,歩く訓練をするのは大変だという話は聞いたことがあります。最初の第一歩が,どんなに頑張っても前に出ない。不思議だった,と言ってました。しかも,この人は,元オリンピックの陸上競技の短距離の選手でした。そして,第一歩が前に出たときには感動した,とも言ってました。そんなものかなぁ,と当時はその程度の認識でしかありませんでした。

「地球帰還当日,気分は最高だが身体はまるで軟体動物のよう。身体の重心がどこだか全く分らず,立っていられない,歩けない。平衡感覚がわからず,下を見ると頭がくらくらして気分が悪くなる。歩くつもりで足を出すが,大腿が思っているほど上がっておらずつまずく。」

気分は最高なのに,「身体はまるで軟体動物のよう」という表現につよく惹きつけられてしまいます。「軟体動物のよう」という感覚が,いまひとつ,ピンとこないからです。でも,想像はつきます。骨のない軟体動物は横たわることしかできないはずです。その軟体動物が,立って,歩こうというのですから,所詮は無理な話です。重力に逆らう支点がないのですから,平衡感覚もわかるはずはありません。しかし,「下を見ると頭がくらくらして気分が悪くなる」というのは,脳細胞もまた重力に慣れるまでに時間がかかるということを言っているのでしょうか。

わたしたちの日常の感覚でいえば,立ちくらみのように,急に立ち上がったことによる脳細胞の不適応症状が,これに近いのでしょうか。

野口体操や竹内レッスンでは,わざわざ「軟体動物」になるための稽古をしますが,宇宙飛行士は,無重量環境に長期滞在するだけで「軟体動物」にならされてしまう,ということのようです。これもまた,意に反しているわけですから,もとにもどす訓練をしなくてはならないのでしょう。

それにしても,宇宙飛行士の身体が「軟体動物」のようになる,ということはわたしにとってはとても興味のあるところ。一度,古川さんの話を聞いてみたいなぁ,直接,質問をして応答してもらいたいなぁ,と思ったことでした。

人間の身体は,環境次第で,なににでも適応するものだという恰好の事例といってよいでしょう。
これからも,古川さんのツイッターをしばらく追跡してみたいと思います。お医者さんとして,宇宙飛行士の身体をどのように観察しているのか,興味津々というところ。

今日のところは,ここまで。


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