2013年12月25日水曜日

大相撲初場所番付発表。稀勢の里,みえてきた「綱」。13勝以上で優勝なら「綱」という。まだ,早い。

 
 年の瀬のあわただしいこの時期に,早くも大相撲初場所の番付が発表された。初場所の最大の話題は,なんといっても稀瀬の里の綱とりだ。横綱審議委員の一部には,13勝以上で優勝なら横綱昇進もある,という声があがっているとか。しかし,それは間違いだ,というのがわたしの意見。全勝優勝でもまだ早い,とわたしは考える。

 日本人横綱の誕生を待ち望む気持はよくわかる。しかし,急いてはことをし損じる。折角の大器である。ここはじっくりと大成するのを待ちたい。精神的なハードルは高いほどいい。そこをクリアしてこその大横綱の誕生である。

 稀勢の里が大関に昇進したとき,まだ速すぎる,とわたしはこのブログに書いた。その当時,すでに間違いなく大器だ,ということはだれの眼にもみえていた。しかし,大関昇進にはそのタイミングというものがある。あわてて昇進させてしまうと,力士に慢心が生まれ,そのあと伸び悩むことがある。わたしはそれを心配して,もう一場所みてからでも遅くはないのではないか,と書いた。

 そこには,貴乃花の横綱昇進のときの記憶がはっきりとわたしの頭にあったからである。貴乃花は,横綱昇進の条件をクリアしたのに,横綱審議委員会は「まだ,速すぎる」として,一場所見送られた。わたしは貴花田の時代からのファンだったので,とても悔しかった。本人の貴乃花はもっと悔しかったに違いない。しかし,逆に,これで貴乃花の闘争心に火がついた。そして,これまで以上に奮起した。なにくそっ!と。そして,ひとまわりもふたまわりも大きくなって,横綱の地位を手に入れた。そして,もののみごとに大横綱の名をほしいままにした。

 あの土俵上での落ち着いた立ち姿。表情ひとつ変えない平常心。双葉山がめざした「木鶏」の姿をそこにみることができた。その点,白鵬はまだまだだ。相手を「睨む」レベルにある。つまり,自分に気合を入れると同時に,相手を睨みすえて萎縮させる魂胆がみえみえである。勝負師としては,まだレベルが低い。日馬富士の方が一枚上手だ,とわたしはみる。

 こんな貴乃花の好例があったので,稀勢の里の大関昇進は,もう一場所見送った方がいい,と考えた。しかも,このとき大関昇進の条件を完全にはクリアできていなかった。にもかかわらず,日本人横綱を早くつくりたいという世論にも押されて,見切り発車的に大関が誕生した。だからというわけでもないのだろうが,結果的には,稀勢の里はあしぶみをしてしまった。

 型にはまったときには滅法強いが,その型をはずされてしまうと意外にもろく,無駄なとりこぼしが多かった。先場所も,出だしでふたつも,とりこぼしをしてしまった。これがなければ,先場所はもっともっと盛り上がったことだろう。しかし,そのショックをはねのけて,全勝街道をまっしぐらの両横綱に土をつけた。それも文句なしの勝ち方で。それはまことに立派。

 その点では,先場所は大きな収穫があった。前半のどたばた相撲と,後半の自分の型に持ち込む相撲。この違いを稀勢の里はからだで知ったことだろう。自分の型に持ち込めば,横綱であろうと気にすることはない,と。しかし,ひとつだけ気がかりなところがある。それは勝ったときの「ドヤ顔」である。おれはこんなに強いんだ,と言わぬばかりの顔をする。これはいけない。まだまだ精神的な修養が足りない。勝っても負けても,淡々とした顔にならないといけない。

 横綱の理想は「木鶏」である。双葉山が「いまだ木鶏たりえず」と名言を吐いたことで知られるように,これは至難の技である。わたしの記憶では,千代の富士と貴乃花の二人が絶好調だったころは,顔色一つ変えることなく淡々と仕切り直しをし,立ち合いと同時に先手をとり,自分の得意の型に持ち込む。そして,勝っても負けても淡々とした顔をしていた。まさに,双葉山が理想とした「木鶏」を,この二人は体得していたと思う。

 さきにも書いたように,この点,白鵬は,まだまだ睨みがきつすぎる。仕切り直しの間,ずっと相手を睨み付けている。こんなに睨まなくてもいいのに,と思うほどだ。メディアは大横綱と高く評価するが,わたしの評価はけして高くはない。いつも書くように,ほかの力士が弱すぎるので,結果的に優勝回数が多くなっているだけのことだ。ここに朝青龍がいたら,こうはならなかっただろう。

 その証拠は日馬富士の存在だ。かれが絶好調のときには白鵬は一度も勝ったことがない。このことをだれよりもよく知っているのは白鵬自身だ。だから,どの力士とも大きな差があるとは思っていない。細心の注意を払い,全力を振り絞る。ここが白鵬のいいところでもある。

 稀瀬の里は,あわてることはない。まずは,何勝でもいいから優勝することだ。そして,二場所連続優勝で「綱」を手に入れればいい。日馬富士は二場所連続で全勝優勝してみせた。それでも足首の具合が悪くて負けがこむと,横綱審議委員から「横綱の資格がない」と批難の声があがった。これは本末転倒だ。自分たちが横綱に推挙しておいて,この批難はあたらない。むしろ,みる眼がなかったことを反省して,横綱審議委員を辞任すべきだろう。

 こんなことも視野に入れると,稀瀬の里は,まずは連続優勝でその壁を突破しよう。それだけの力がついていることは間違いないのだから。あとは,精神的な強さをわがものとすること。そのためにはハードルは高いほどいい。貴乃花の例がいい例だ。そして,「木鶏」を目指そう。

 はてさて,初場所の展開やいかに。白鵬が巻き返すか,体調万全のまま日馬富士が連続優勝をめざすか,それとも先場所同様にこの二人を撃破して,こんどこそ優勝を手にいれるか稀瀬の里。このほかにも注目すべき力士が何人もいる。その人たちを含めて,初場所が大いに盛り上がることを期待したい。 
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