2011年8月27日土曜日

「君には医者が必要だ」(ナセル大統領)という人が激増中?

今日の『東京新聞』のコラム(筆洗)に,カダフィ大佐の若かりし日の逸話が紹介されている。わたしも初めて知って「ヘエーッ,そうなんだ」と妙に納得。

とうとう行方不明という存在と化した独裁者ガダフィ大佐。いつの時代も独裁者の末路は,みんな同じようなものだ。独裁者というのは一皮剥いてみると,意外に小心者が多く,最後は殺されるのが怖くなり,どこかに隠れてしまう。しかし,逃げ切ることのできたためしはない。なのに,なぜか逃げる,隠れる,と必死になる。

さて,そのカダフィ大佐の若かりし日の逸話である。そのまま引いておく。
「1970年,ヨルダン内戦収拾のためのアラブ首脳会議。激高したその人は卓上に拳銃を置き,ヨルダン国王に退位を迫った。それを見て,当時のエジプト大統領ナセルは,こうたしなめたそうだ。『君には医者が要る』。リビアの最高指導者,否,最高指導者だったカダフィ大佐の逸話だ。『アラブの英雄』ナセルに憧れ,その行動をなぞるようにして,まだ二十七歳の時,クーデターで国王を追放。以来,四十二年にわたり強権支配を続けてきた。」

「君には医者が要る」とは,けだし名言である。

しかし,この名言,「3・11」を通過したわたしたちは,そんなに素朴に笑ってはいられない。日本国中,あらゆる職種のトップから下々にいたるまで,「医者が要る」人だらけだということが,もののみごとに露呈してしまったからだ。

たとえば,同じ日の『東京新聞』の一面トップの記事は,「東芝・日立など『OBが”自社”原発検査』,「10年で36人,保安院に再就職」,「中立・公平性に疑問」という衝撃的な見出しが躍っている。この記事の要約文を引いておくと以下のとおり。

「原発メーカーなどの社員が経済産業省原子力安全・保安院に再就職し,出身企業の製品が納入された原発などの検査を担当したケースが過去十年で少なくとも三十六人に上ることが,経産省が国会関係者に提出した資料で分かった。保安院は『検査の中立性や公平性に影響はない』と説明しているが,専門家は『なれ合いになる恐れがある』と指摘している。」

これを読んで,開いた口が塞がらなくなった。オイオイオイッ。保安院は,まだ,こんなことを平気で言っているのか,と。この人たちこそ「君たちには医者が要る」と諭す人が必要だ。それは総理大臣の仕事ではないか。でも,その総理大臣もまた「君には医者が要る」人だから,もはやどうにもならない。こんな保安院のメンバーは一刻も早く「総入れ換え」をしてもらいたい。こんな人たちに税金を給料として払う必要はない。それこそ「君には医者が要る」と,「専門家」がはっきりと言うべきだ。なのに,「なれ合いになる恐れがある」などと間の抜けたことを言っている。そういう「専門家」もまたグルだから,この人たちにも「君には医者が要る」ということになる。となったら,こんどは「君にも医者が要る」とメディアは書くべきだ。だが,そうは書かない。

なぜか? ジャーナリズムも骨抜きにされていて,見えない「影」に怯えている。ちょうど,放射能が見えないけれども(見えないがゆえに)「恐ろしい」のと同じだ。取材をとおして「核心」に近づけば近づくほど「危険」に身を晒さなくてはならなくなる。だから,この手の記事には記者の名前入りということは,まず,ない。そういう根性のある記者は,すっかり影をひそめてしまった。育ちのいい,秀才のお坊っちゃま記者は,そんな冒険はしない。まずは,身の安全を確保し,すべからく,ことなかれ主義に徹する。

そういう記者は,職種を間違えたと考えなくてはなるまい。だから,こういう記者にも「君にも医者が要る」と,わたしたち読者が提言しなくてはならない。ところが,この読者なるものが,すでに「ゆでカエル」になりきってしまっているので,なんの疑問も抱こうとはしない。すっかり,「受け身」で情報を受けとることに飼い馴らされているからだ。

だから,「電力が足りないというから,やはり,原発は必要だ」という人がわたしのまわりにも少なくない。この人たちにも「君には医者が必要だ」と言ってやりたい。

ところが,医者のなかにもほんとうに困った医者がいる。そういう医者にも「君には医者が要る」と教えてやらなくてはならない。自分が病んでいることに気づいていない医者と同じように,自分だけは病んでいないと信じきっているこの「わたし」という存在が,一番,危ないのだ。

「君には医者が要る」に該当するのは,カダフィ大佐だけではない。
身のまわりを見渡してみると,あちこちに「医者を必要」としている人がいっぱいだ。さて,日本人の何パーセントが,このような「ビョーキ」に罹ってしまっているのだろうか。
まずは,自分の胸に手を当てて,よくよく反省することからはじめよう。「君には医者が要る」と言われないように。

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