2012年4月11日水曜日

雑誌『世界』を定期購読することにしました。いろいろの発見が・・・。

考えるところがあって岩波の雑誌『世界』を定期購読することにしました。70歳で定年退職した折に,それまで定期購読していた雑誌をすべて解約して,フリーになりました。職業上,アンテナを張っていなくてはならない雑誌もあって,多いときには相当の数になりましたが,すべて清算してさっぱりしました。以後は,書店で立ち読み専門となり,いい特集があったり,好きな著者が登場したときには,その雑誌を購入することにしていました。

が,「3・11」以後は,当然のことながら『世界』を購入することが多くなりました。そして,とうとう定期購読することにしました。その第一回めの5月号が今日とどきました。早速,ページを全部めくりながら,あちこちを拾い読みして,それだけでも充分に堪能しました。

そんな拾い読み程度でも印象に残ったことがいくつもあります。
まずは,編集長の岡本厚さんがこの号をもって退任し,これまで副編集長だった清宮美稚子さんにバトンタッチしたことが「編集後記」に書かれていました。この話は,週刊読書人かなにかで読んで知ってはいましたが,ご本人の手になる最後の「編集後記」でしたので,しみじみと読ませていただきました。

この編集長の交代ということもあってか,雑誌の構成の仕方もかなりの部分でリニューアルがなされていました。まずは見開きの最初のページの写真が「A SHOT OF THE WORLD」となり,「旅館の一部屋で共同生活を送る関西から来た作業員」という若い男性二人がテーブルを挟んで坐っている写真がありました。じっさいに,作業員という人の「顔」をじっとみるのはとても新鮮でした。たとえば,こういう人たちが作業員として困難な仕事に従事しているのだ,ということを肌で感じ取ることができて,かなりのインパクトがありました。

特集は「教育が政治に介入するとき」で,これまであまり見聞きしたことのない,新しい書き手の人が登場していて,これもとてもフレッシュな感じでした。と同時に,編集者の名前入りのインタヴュー記事も多くあり,これもいいなぁ,と思いました。そこはかとなく気迫が伝わってきます。

それから目次のあとにつづく公募作品の写真が印象に残りました。「山に生きる」というタイトルのカラー写真が8ページ。自然が4ページ,人間が4ページ。都会生活が長くなってしまったわたしには,自然と人間が織りなすドラマを直にみるようで,こころが洗われました。やはり,大自然の美しさには圧倒されるものがあります。若き日に登山に熱中したころのことを思い出しました。山に登らなくとも,こんな景色を眺めにでかけてみたいとしみじみ思いました。

「読者談話室」が冒頭にきて,読者の声を大事にするという姿勢が,ヴィジュアルに感じられて,これも読者としては嬉しい。なにか投稿してみようという気にさせてくれます。このページが,たぶん,これから増えていくのではないかと楽しみです。
そのすぐあとにつつく「世界の潮」も,最近のトピックスを4本取り上げて,問題の根底にあることがらを手際よく知らせてくれました。

こうして褒めはじめると際限がなくなるほどに,この5月号は新鮮な印象が残りました。
あと少しだけ。顔見知りの橋本一径さんが「ル・モンド・ディプロマティックより」を担当していて,最新の話題を紹介してくれているのも,なんとなく親しみを感じて,わたしはいい気分。
それから,わたしにとって意外に大事なのは,巻末の「岩波書店の新刊」。岩波書店がどのようなアンテナを張って,本の刊行に取り組んでいるのかが一目瞭然。
もちろん,わたしの知っている人の名前がでてくるともっと嬉しい。たとえば,木村栄一『翻訳に遊ぶ』。この人が神戸市外国語大学の学長さんだったときに,わたしはこの大学の客員教授に就任し,ご挨拶がてらちょっとだけお話をさせていただいた。それがご縁で,その後,新しい訳書がでると送ったくださった。こんどは購入しなくては・・・と思っています。
もうひとつだけ。張競さんの本『異文化理解の落とし穴』『文化のオフサイド/ノーサイド』。本の内容もさることながら,この著者は,わたしの記憶に間違いがなければ,張蘇さんのお兄さんのはず。張蘇さんは,中国のスピード・スケートの名選手として活躍した女性で,わたしのところで一年間勉強していた人。これから張蘇さんに連絡してみて確認しようと思っています。

ぺらぺらとめくりながら拾い読みしただけでも,こんなに多くの楽しみがあって,まことにありがたいこと。これから,こんどは狙い撃ちして,面白そうな論考から読むことにしよう。書店での立ち読みや,時折,購入してきて読むときとはひとあじ違った楽しみが,定期購読にはある,としみじみ思いました。

これからが楽しみ。

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