2013年4月24日水曜日

「上体が前傾しないように腰の上にどっしりと乗せなさい」(李自力老師語録・その31.)

 表演がダンスになってしまってはいけません。太極拳はあくまでも武術であるということを忘れないように。そのためには,からだ全体の動作がどっしりとしていること,力強いこと,粘り強いこと,無駄がないこと,隙がないこと,などが必要です。つまり,手足の動作はすべて武術のわざであることを念頭におくことです。

 ですから,なによりも大事なことは「安定」です。ふらふらしない。途中で動作が止まらない。つねに,水が流れるように,自然に動くこと。そのためには,まずは,上体を安定させることです。つまり,上体が前に倒れた前傾姿勢にならないように,上体をまっすぐ,どっしりと腰の上に乗せること。そして,いつでも腰の回転によって上体が動かされていることが大事です。そうすれば,動きに溜めができ,粘り強い,どっしりとした力強さが表出してきます。

 ではやってみましょう。ということで,いつもの基本の動作の稽古です。両手を腰のうしろで合わせ,ゆっくりと前進していく,いつもの運足と体重移動の稽古です。股関節をゆるめて腰を回転させ,その方向に体重を移動させ,引きつけたうしろ足を,尾てい骨を巻き込みながら,ゆっくりと斜め前に送り出し,その足に体重を移動させ,ゴンブの姿勢をとり,ややがに股になるようにしながら体重をうしろ足にもどし,股関節をゆるめて腰を回転させ,その方向に体重を移動させ・・・・,というおなじみの基本の動作です。このときに,上体が前傾しないように,腰の上にどっしりと乗せておきなさい,という次第です。

 稽古のときには必ずくり返す,基本中の基本です。それなのに,まだ,上体が前傾する悪いクセがある,と指摘され,真っ青です。背中に冷や汗を流しながら,必死の稽古です。そして,李老師のお得意の「悪い見本」の動作を,みごとなまでに再現してみせてくれます。恥ずかしさを越えて,みんな大笑いです。その上で,「よい見本」をやってみせてくださいます。

 人間というものは不思議な生き物で,「よい見本」をみとどける眼は,その人の上達の度合いに応じて,徐々に深くなってゆくようです。恥ずかしながら,尾てい骨を巻き込みながら足を斜め前に送り出す,という呪文のような動作を今日になって初めて,この眼で見届け,自分のからだで感じとることができました。ので,そのとおりにやってみました。李老師から「あーぁ,そうです」というお墨付きをいただきました。

 これが正しいかどうかわかりませんが,わたしなりに今日,初めて納得したことをことばで表現してみますと以下のとおりです。

 片足に体重を移動させた瞬間の,もう一方の片足のかかとはこれまでよりもやや高く持ち上げているように思います。そのときの片足立ちの姿勢は,腰がぐいっと前方に食い込んでいて,出っ尻になっています。そうして,やや高めにかかとを引きつけ,斜め前に送り出すときに,その出っ尻を巻き込んでいきます。そうすると,このとき,思いがけない「溜め」が生まれます。その「溜め」を存分に味わいながら,ゆっくりと,そして,静かに,猫が足をそっとおくように送り出します。

 上体が前傾しないように腰の上にどっしりと置きなさい,という李老師の指摘の真意はこういうことだったのです。上体をまっすぐに,どっしりと腰の上に置いたまま後ろ足を引きつけるには,どうしても腰を前方に深く食い込ませなくてはなりません。言ってしまえば,結果的に「鳩胸・出っ尻」の姿勢が,瞬間的に現れます。その出っ尻を巻き込めば,うしろ足はおのずから前に送り出される,というわけです。このとき「溜め」も生まれる,というわけです。

 このことに気づかない(見れども見えずの)ために,後ろ足を引きつけるときに,どうしても上体を前傾してしまいます。つまり,瞬間的に,無意識のうちに前後のバランスをとっているわけです。これが,李老師の仰る「悪いクセ」というわけです。

 これまで,長い間,「尾てい骨を巻き込むようにして」という呪文のようなことばが,わたしの頭とからだの両方で「謎」のままでした。今日の稽古で,ようやく,その「謎」が解けました。喉にひっかかっていた魚の骨が取れたような快感です。それは「謎」が解けたからだけではなく,そこには「溜め」というご褒美がおまけについていたからです。

 あの李老師の,悠揚として,迫らざる,あらゆるところに「溜め」のある動きのひとつを,今日,初めてこの眼で確認し,自分のからだで再現できた悦びは,もう,天にも昇る気分です。今夜は,夢にみそうです。嬉しいかぎりです。

 太極拳の奥は深い,といまさらながら思います。でも,これがあるから悦びも一入ということなのでしょう。また,頑張ろうと意欲が湧いてきました。

 今日は,わたしの悦びのご報告まで。

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